10月31日、ボク達はオバケの仮装をする。
何故なら今日は、「
ハロウィンになると先祖の霊や悪魔、魔女に彷徨える魂が、死後の世界からやって来る。
それらの恐怖から身を守る為に、ボク達は同じ格好に扮装をし、仲間だと思わせるのだ。
そして、そんなハロウィンに
ーーー
小さい女の子に仮装した幽霊のボクは今、人気の少ない商店街の店に入って居た。
「トリックオアトリート! お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ~? ボク怖いんだからな~? がお~!」
両手を顔の前で、ガオーってしたボク。
その目の前には、60歳手間のおばあちゃんが、優しく微笑んで居る。
「あらあら……怖いオオカミさんは、このお菓子で許してくれるかしら?」
ほうほう、イチゴのマシュマロか。
チョコレートとクッキーもあるぞ。
こんなに量をくれるとは、ボクに恐れ慄いたのか。
いや、待てよ……もしやおばあちゃん、ボクの正体に気づいたから説ある?
まぁ良い、直接聞けば良いのだ。
「ねぇおばあちゃん?」
袋を見て考え込んでいたボク。
そんなボクが、おばあちゃんに質問しようとすると、おばあちゃんは、右頬に右手を当てる。
「もしかして……足りなかったかしら?」
「んーん、逆だよ? こんなに貰って良いのかなーって」
ボクが申し訳なさそうに言うと、おばあちゃんは、ボクの頭を優しく撫でてくれた。
「んっ……」
「気にしないで良いの。貴方みたいな、可愛い子に上げる為に用意したんだもの……余ったら悲しいわ」
ボクが可愛い、だとっ……!?
いやいやそんなことよりも、余ったら悲しいとは、どう言うことだろうか?
ハロウィンと言えば毎年、お菓子を強請る子どもで溢れるというのに……。
でもそう言えば、この商店街に人が少ない様な……?
「余ったら悲しいって……おばあちゃん、それって、この商店街に人が少ないことと関係するの?」
おばあちゃんはボクにお菓子の袋を渡すと、何処か、懐かしむ様な、悲しむ様な表情をした。
「そうねぇ……お嬢ちゃん、少しおばあちゃんの話に付き合ってくれるかしら?」
「うん! 分かった!」
「ふふ、ありがとうねぇ」
ボクが元気に頷くとおばあちゃんは微笑み、近くの椅子に腰を掛けて、話し出した。
「そうねぇ……それこそ、私が小さい時はね? ここら辺は人が一杯居て、賑わって居たのよ?」
「そうなんだ……」
「そうよ? でもね、最近は少子高齢化やら、大きなお店が出来たりとかでね……商店街に人が来なくなったのよ」
「少子高齢化……」
「時代が変わって、結婚しない人や、あんまり子どもを産まない人が増えてね……そのせいで、私みたいな年寄りのが増えちゃったのよ」
「へぇ……人間は大変だねぇ」
「ふふっ。そうねぇ、人間は大変。昔はココが沢山の人で賑わってたから、ハロウィンの時にも、んーっと沢山の子ども達が来て、お菓子をお強請りしに来たものさね。」
「それって、おばあちゃんも?」
「ん? うん、そうよ。友達と色んな店に行って、その度にお菓子を貰ってねぇ……みんなで一緒に食べたのも、一体何年前のことやら……懐かしいわねぇ……」
「そっか……ボクはもっと前に死…………いや、それより、何で人が来ないのに、お菓子を用意してたの?」
「それはねぇ? お嬢ちゃんみたいに、こんな所まで来てくれる子どもにお菓子を上げる為さね。こんな所まで来てくれたのに、お菓子が無いんじゃ可哀想だろう? それに人ってのはね? 先人に受けた恩を、次の子どもに与えていくものなのよ。だから私はねぇ、先人に貰った楽しいハロウィンの思い出を、お嬢ちゃん達に、与えたいのさね」
おばあちゃんが、ボクにお菓子をくれたのは……
おばあちゃんが、一杯のお菓子を用意していたのは……
全部、ボクみたいな、次世代の子どもの為だった……。
ボクが居た時代にハロウィン何てモノは無かったけど、きっとおばあちゃんにとってハロウィンは、かけがえの無い思い出なのだろう。
そう思った瞬間、何だか、心の中がアツくなった。
ボクの心臓はとうに、無くなっていると言うのに。
「そっか……教えてくれて、ありがとう。このお菓子、大切に食べるね、おばあちゃん!」
「もう、行っちゃうのかい……?」
寂しそうに呟くおばあちゃん。
ボクは、そんなおばあちゃんの手を握ると、ぎゅっと、固い決意を決めた。
「うん、ゴメンね……でもねおばあちゃん。ボク、毎年ハロウィンになったら、友達と来るから! 約束!!」
その言葉を嬉しそうに聞いたおばあちゃんは、ボクに小指を差し出す。
「ありがとう……約束さね」
「うんっ!!」
このとき、ボクとおばあちゃんの小指は、固く、結ばれていたのだった。
―――
例の件があってから一年後。
あの商店街は、沢山のオバケで賑わっていた。
みんな、小さい子どもの姿をして、言うのだ。
『トリックオアトリート! お菓子くれなきゃイタズラしちゃうぞ~!!』
「あらあら……怖いオバケさんは、このお菓子で許してくれるかしら?」
やがてこの商店街は、ハロウィンになると沢山の子どもが来るスポットとして、有名になり、栄えたのだった。
まるで、昔のように……。
『Happy! Halloween!!』