目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
異世界ゴリラ
ばばおうちかえる
異世界ファンタジー冒険・バトル
2024年11月28日
公開日
3,482文字
連載中
バナナに滑ったゴリラが異世界転移する話。
ゴリラ大好き、ウホゥ。

異世界ゴリラ

1

 多分バナナだろうと思う。

 あれはお昼寝の時間、飼育員さんが用意してくれた寝床に向かう途中。

 足を滑らせて、転んで。


「ウホ?(何この状況?)」


 気が付くと、沢山の木に囲まれていて。


「クォルルル…(ココサンの幼獣、に見えるが…)」


 目の前に、大きい四つ足の獣がいた。


「ルルル…(どっから湧きやがった…)」


 威嚇し、また警戒もしている。真っ黒なこの獣はボクを食べる種類だろうか。

 ボクはまだ小さい。あの大きな口で噛まれたら、直ぐに苦労のない穴へサヨナラだろう。


「コクルル…(まぁいい…)」


 しかし、恐ろしい想像とは裏腹に、獣はフイとそっぽを向いて、木々の中に消えていった。


「ホゥ…(助かった、のか…)」


 だからといって油断は出来ない。何しろここは木だらけで、ほんの少し先も見通せやしないのだ。

 警戒を解いたところでガブリ、なんて事も十分にありえる。

 そうして暫くの間、目覚めた場所でじっとしていたが、やがて疲れ果てて、ボクは眠ってしまっていた。


「ッホッホ?(ねぇアンタ生きてるの?)」

「ッボ!(うわぁ!)」

「クッキャキュ!(うぎゃあ!)」


 寝ているところに頬を殴られ、ガバっと身を起こす。


「ウホッ!(噛まれたあ!)」

「ウホッ!(噛んでなんかないわよ失礼ね!)」


 横を向くと、ボクと同じくらいの子ゴリラが、訝しげな目でボクをみていた。


「……ゴリラ(……ゴリラ)」

「チガウ(ゴリラって何?食べ物?)」

「ゴリラ(いや、ゴリラでしょ?君)」

「チガウ(だからゴリラって何よ、アンタまさかアタシのこと食べるつもりなの?)」


 どうにも話が通じない。首を傾げながらも、ここは何処かを尋ねる。

 ゴリラではないらしいその子は、ここは森だと、話でしか聞いた事のない単語で答えた。



2

「ボッホホッ(まさか一頭でガブガブと遭遇して生き残るヤツがいるとはなぁ)」


 ほぼ真っ暗な洞窟の中、明るくそう言ったのは、やはり僕からみたらゴリラ。

 ココサン、という生き物らしい。


「ホッホポ(しかもその黒いのは『オオアゴ』って呼ばれてる特別なガブガブだ。立派なもんじゃねぇか)」


 左腕が無いシルバーバック。多分この群れの長だろう。


「ウホ…(運が良かったんですよ…)」


 謙遜ではない。本当に幸運だったのだろう。

 以前、飼育員さんが言っていた。

 野生の肉食動物は、臆病なまでにケガを怖れるのだ。

 だってケガをしてしまったら、次のエサが獲れないから。

 次の狩りまでに万全にならなければ、エサをしくじる。エサをしくじれば、パフォーマンスが下がる。パフォーマンスが下がれば、エサをしくじる。

 条件は悪くなる一方な訳で。

 勇猛と無謀のバランスのとれた、良いコンディションを維持し続ける事の出来る、つまり賢い個体でないと、野生では餓死してしまうのだから。

 恐らく、思ってもいない場所から、突然ボクが現れたので、『よく分からないし襲うだけ損』と、思われたのだ。


「ウッホ(なに、運も実力のうちさ)」


 そう言ってボクの背中をパシリと叩くココサンの長。

 ココサンは、シルバーバックを長として十頭程度の群れで暮らす大型の猿であるようだ。

 主に草食だが、虫なども少し食べる。賢く手先が器用で二足歩行が出来るつまりゴリラである。

 しかしながらここは、ボクがいた動物園とは違う世界。

 何がどうなってこんなところに居るのか、ボクには全く理解ができないのだが。


「ウホカイ?(異世界?)」


 飼育員さんが溢していたのを聞いた事があるし、苦労のない穴の先は、誰も知らない。

 となると、ボクはバナナに滑って穴に落ちた、という間抜けな結論が出てしまうのだが。


「ホ?(あんだって?)」

「ゥホ。シバレル(いえ独り言です。しかし洞窟は冷えますね)」

「オウヨォ(ああ、ずっとこんなだ)」


 ここ何年かは、冬がとても長いらしい。寒い時期が続き、食べ物が減り、生き物も減った。

 氷河期、というやつだろうか?飼育員さんが前に言っていた。

 ココサンも頭数を減らし、外の血を取り入れる機会も減ったという事で、ここの群れでボクを受け入れてくれるようだ。

 苦労のない穴を抜けた先の世界。

 ボクの転移に、意味はあるのだろうか。


3

「パパ!キャッキャウ!(ねぇダディ!コイツなんかガサガサしている!)」

「ウッ、ホゥ?(アレ、ボクなんかやっちゃいましたか?)」


 だって、あんまりにも寒かったから。


「ホッボッボッ!?(うわなんだソレ!?)」

「ヌクモリティ(これは、服というものです)」


 葉っぱを集めて、着てみた。

 いつぞやに、飼育員さんが身に着けていたギリースーツというヤツである。


「キモイ!(アンタほんと変なココサン!)」

「ヌクモリティ(寒いねん)」


 冬が長く、遍く動物が飢えたるこの世界。

 前世の知識は色々役に立つ。


「ウホホホホ!(伍を組んで背中合わせになるんだ!)」

「ポ!ポッホゥ!(バカヤロウ相手はガブガブだぞ!逃げるんだよ!)」

「ビヘイバカヤロ!(背中をみせたら襲われる!)」

「ビヘイコノヤロ!(何でそんなこと分かるんだよ!)」

「ヌクモリティ!(飼育員さんが言ってたんだよ!)」


 ボク達は、一頭の死者も出さずにガブガブを撃退出来たし。


「フルエル…(今日も寒いな…)」

「ウホ(火できた)」

「ッキャキョホオオオ!(うわあああ!)」

「シュウレンハッカ(氷使ったら何か出来た)」

「キカクガイ!オマエノフツウチガウ!(コイツ雷持ってる!超怖いんですけど!)」

「ヌクモリティ(飼育員さんコレで焼き芋やってた)」


 餓死も凍死もなく、冬を乗り越えた。


「ゴリラヤベエエエ!(オマエみたいなココサンがいてたまるか!)」

「チートコエエエエ!(さすゴリ!ヌレたわ!)」


4

 遅い春が訪れて、洞窟の中。

 ようやっとギュウギュウにならないで眠れる。

 服をぬいで一頭、焚き火の番をしていると。


「ウホゥ(今夜はオマエか。ご苦労さん)」


 種付けを終えたシルバーバックが、ムワッとさせた身体を右手で扇ぎながらボクの隣に座った。


「タネマキハタケ。スンダスンダ(今年は子を増やせる。オマエのおかげだ)」

「いえそんな。全部飼育員さんが教えてくれた事ですよ(ウホ、ホウホ)」

「サクツケシュウカク?(次はどんなトンデモを見せてくれるんだ?)」

「畑を作ろうと思ってます(ウホ)」

「ハタケ?(畑?)」

「土を耕して種を撒くんですよ(ウホッ)」

「タネマキ?(種撒き?)」

「コレで冬、飢えずに済みます(^o^)」

「ファーwww(´º∀º`)」


 農業という『概念』をこの世界に持ち込もうとしているボクを、長はもはや、驚き疲れたというような顔で見ている。


「オイゴリラ…(なぁ…)」

「ハイゴリラ…(なんです?)」

「オイゴリラ、ゴリラァ…(もう少しして、オマエが成獣したら…)」

「……?(……?)」


 長が何かを言いかけたその時。


「マルタハモッタカ!(ガブガブが来た!)」


 見張りに立っていた長の娘っコサンが、慌てた様子で洞窟の中に駆け込んできた。


「イクラダカラチクショウ!(『オオアゴ』!ダディの左手を喰ったヤツだ!)」


 そういうことなのだろう。恐怖に金切り声を上げる。


「ウホィエット!(落ち着け!皆を起こすんだ!)」


 眠っていたココサンを起こし、焚き火の奥に避難する。

 飼育員さんが言っていた。

 火を越えて来るのは、余程に追い詰められた個体。つまり弱っているはずだ、と。

 冷静に対処できる、しなければ。

 果たして、焚き火を挟んで現れた黒いガブガブ、『オオアゴ』。


「ココココ…(た……すけ、て…)」


 その姿は、目を背けたくなるくらいにボロボロで。


「ウホゥ(助けて、ってガブガブが?)」


 その言葉の、恐ろしさ。


「ボボッホッ…(長、ガブガブって…)」

「ツヨイ、マジゴリラ(ああ、この森の覇者だ)」

「ホホホ…(そんな…)」


 更に驚いた事に。


「ワンワンオ!(勇者がレベル上げをはじめた!)」


 この世界には、勇者がいて。


「ワンワンオ!(あの野郎!うっかりで森を半分吹き飛ばしやがった!極大魔法だ!チクショウ!チクショウ!)」


 魔法があって。


「ウホゥ…(クソ、魔力草はまだ生えてないってのに。だが仕方ねぇ…)」


 しかも。


「ウホ!(皆、魔力の補充は出来てねぇが、死にたくなければ出し惜しむな!)」


 ボク以外、全員使えた。


「ヨンベエダアアア!(四倍だ!)」


 猿から人へのミッシングリンク。

 てっきり、ボクがそれを埋めるものだと、思っていた。

 ここはずっと昔の地球で、ボクがココサンを、ヒトに進化させるんだって。

 それが穴に落ちた意味だって。

 でも、それは勘違いで。

 ボクはただの迷いゴリラだったんだ。


プロローグ

 これは、魔法が使えず群れから追放されたゴリラが、実はバナナでウホホゥホッホ……ホアアアアアア!!

コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?