「クソが、なんだってんだよあのおっさん。認めたくねぇけど強い──と思ったらワケ分かんねぇこと呟きやがって」
獅子堂 愛奈が人気のない校舎裏で文句を言いながら、草を千切っては放り投げていた。
「……、……あのおっさんは、昔に教え子にケガを負わせちまったのか……」
それは立場こそ違えど、似たような痛みだろう。
だからか。あのおっさんがアタシをここまで気に掛けるのは。
こうなれば認めざるを得ない。あのヒゲのおっさんは今までの大人とは違うことを。
「でも、だからと言ってすぐに踏ん切りなんかつかねぇんだよなぁ」
そもそも、一番得意だった剣道でいいようにあしらわれたのがとにかくムカつく。
やっぱムカつく。大事な幼馴染の涼花だけじゃなくて、いつの間にか雅坂なんて学年一の美人すら引っ掛けてやがるし。やっぱロリコンだ。JK侍らせてハーレム築きたいんだ。
「ってかよ、どうせ口説くんならアタシ一筋で来いよ。両手に花な状態でアタシまで誘ってくるとか男としてどうなんだよクソが」
なんか論点が違ってきている気もするがどうでもよかった。
とにかくあのヒゲおっさんに対する不満をぶちまけられれば何でもいい。
「クソ、やっぱムカつくなぁッ!」
立ち上がり、思い切り地面を蹴り上げた時だった。
「何にムカついてんのか知らねぇけど、俺たちもテメェにムカついてんだぜ獅子堂よォ」
背後から足音がする。少なくとも十人はいそうだ。
「あぁ? んだテメェら」
首だけ向けて威圧する。先頭の男は首に医療用のコルセットを巻いていた。
「忘れたってかぁ? いいぜ教えてやるよ。俺はこの前テメェに蹴り飛ばされて病院送りにされた原付男だよ。おかげで退学決定になっちまったじゃねぇか」
「いや、アレはアタシがどうもしなくても退学だろ」
「っせんだボケがよぉッ!」
唾を撒き散らして喚くのを合図に、男の周りに武器を持った不良たちが横並びになる。
「コイツらは前にテメェにボコられたっていう連中だよ。借り返しに来たぜぇ獅子堂ォ。今度はテメェを病院送りにしてやるよッッ!」
「おー、そういうことか。良いタイミングだな。アタシもちょうどイラついてたからよ」
彼女は十数人はいるであろう不良に向かって躊躇せずに歩を進める。
拳の骨を鳴らしながら、漆黒の獅子が牙を剥いた。
「今度は病院じゃなくてあの世に送ってやるよ」