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第6話:家庭訪問

 放課後、獅子堂の家の家庭訪問をしていいですかと狐島先生に言ったら「もちろん、どうぞ」と快い返事がきた。


 しかもこういうのって本来担任から電話を掛けるべきなんだが、なんと狐島先生がパパっと手配してくれたのだ。やけに準備が良かったな……。


 獅子堂の家からも許可が下りたので、今は名簿に載っている住所を頼りに道路を歩いている。

 車の風を切る音が連続で聞こえてくる。


 木が植えられた二車線の道路をまっすぐ。

 アイスクリーム屋が角にある交差点を左に曲がる。


 冷たさに舌鼓を打つ小学生の声が喧しい。バニラの匂いが鼻を擽る。

 ブラックコーヒーが飲みたくなってきた。


 人通りも多い。何階建てか数えるのも億劫になるほどの高層マンションも多く建っていることから、繁華街……とまではいかなくとも賑わっている街と言えるだろう。


「さて、そろそろ着くはずだが」

 この辺りの土地勘はまだ詳しくない。住所的に近付いているとは思うのだが見つからない。仕方ないからちょっと一服しよう、とタバコに火を点けたとたん、


「バウッ!」とすぐ背後から犬の鋭い鳴き声がした。まるで「俺の縄張りでタバコを吸うな」と言われているようで思わず飛び跳ねてしまった。


 指で挟んでいたタバコが滑り落ちる。しまった、と思って手を伸ばし、バランスを崩す。すっころんだ。


「こら、ショコラ。怒鳴ったらダメよ」


 すると、隣の白い扉から女性が姿を見せた。俺に吠えた犬はこの女性のペットらしい。少し身を引いてみると、俺が背負っていたのは白い一軒家だったことが分かった。


「ごめんなさい、うちの犬が。お怪我はありませんか?」


 手を差し伸べられる。「ありがとうございます」と返しながら手を握る。


 女性と目が合う。とんでもない美人だった。猫の目のようにぱっちりとした瞳。反り返った睫毛。


 優しく垂れた目尻に人の好さがにじみ出ている。あんまりにも綺麗な瞳だったから、思わず首を捻って目を逸らす。


 すると、家の表札が目に入った。


 獅子堂。


「あの……もしかして、家庭訪問に来られた先生ですか?」


 ここ、獅子堂の家だったのか。


「ごめんなさい、あの子、まだ帰ってきていないんです」


 髪を巻いた柔らかな印象の女性は、申し訳なさそうに目尻を下げていた。

 地面に落ちたタバコを拾い、笑顔を作る。


「……こんにちは、獅子堂さん。僕は新しく娘さんの担任になりました、霧崎と申します。お話があるのはお母様の方なので、問題ございません」

「あら、そうでしたか。でしたらどうぞ、散らかっておりますが」


「ありがとうございます。失礼します」


 上品かつ、丁寧。なんでこんな良家のお母様みたいな人に育てられてあんなとんでもない娘が誕生したのか。真相はこの家にあるのだろうか。


 ネクタイを正し、俺は一歩を踏み出した。



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