王立魔法学園――ブルーメンクランツ王国最高峰であるこの学園には、国内外問わず幅広く学生を受け入れている。
また、特待生制度が設けられており、成績優秀者は学費の免除だけでなく生活費の援助も行われる。そのため平民出身の在学生も多い。
ただしブルーメンクランツ王国の貴族に関しては、十五歳になると義務として入学させられる。
なぜなら高い授業料を貴族に払わせることで、特待生が無料で学園に通うための資金源になるからだ。王家は何気にちゃっかりしてるよな。
だが、だからこそ学園には威張りくさった連中も多く集まる。かつての
あの場所はある意味、王国貴族の縮図のような場所でもあるのだ。
「って感じだな」
「そうなのですね」
今、俺はこの国の魔法学園についてプリメリアに説明をしていた。俺が今年から、そしてプリメリアが来年から通うこととなる学園のことを。
◇
俺は十五歳になっていた。
ヴェルトハイム公爵の地位を継いでから二年半ほど経つが、ここまで色々と大変だった。詳細を語ろうとすれば、アニメの二クールでは到底不可能だろう。第二期決定だ。
ヘリオトロープやセバスチャン、シェフレラたちの助けがなかったら、乗り越えられなかったに違いない。
あとはプリメリアの癒しとか、最推しの癒しとか、義妹の癒しとか。
俺自身のことを語れば、まずは背が伸びた。身長を測ったりしないからわからないけど、多分百八十センチメートル近くはある気がする。すでに前世の俺より背が高い。
顔は子どもらしさがだいぶ抜けて、美青年になったと思う。太っていたらゲームの
そう、ゲームである。恋愛ゲーム『剣と魔法と
主人公が学園に入学するところからゲームが始まる。つまりゲームのストーリーがもうすぐ動き出すということだ。
もはやゲームの設定とは多くのことが変わっている。だが、油断は禁物だ。油断をすれば痛い目を見るのは、以前身をもって知ったのだから。
◇
「お義兄さま、どうかされましたか?」
「ん、いや何でもないよ」
どうやら考え込んでいたみたいだ。プリメリアが心配そうな顔を向けてきたので、軽く否定しておく。
十四歳になったプリメリアは、美少女っぷりにさらに磨きがかかった。俺のひいき目を抜きにしても、絶世の美少女と言って差し支えないだろう。
可憐な容姿と小柄な身体は、誰もが庇護欲を抱いてしまう魔性を秘めている。孤児院の年長男子の目が最近怪しい。
…………待てよ? ゲームのストーリーが始まるということは、プリメリアと主人公の出会いも近付いているということでは?
ということは――主人公と大事な大事な義妹のロマンスが始まっちゃう!? こんな可憐で華麗で可愛いプリメリアに、主人公が恋しないわけないジャン!
やべ、もう泣きそうになってきた。
「お義兄さま!? なぜ泣かれているのですか!?」
「あ、いや……」
俺ってば、前世よりも遥かに涙もろくなった気がする。娘の結婚式に出席したお父さんはこんな気持ちなのだろうか。気が早いにもほどがあるけど。
「グス……済まない。本当に何でもないんだ」
「……お義兄さま、辛いことがあるのなら私にお聞かせください」
「いや、本当に違うんだ。何というか、プリメリアがお嫁に行った時のことを想像してしまって……」
俺がそう言った途端、プリメリアの表情がストンと消えた。え、怖っ。
「お義兄さま」
「は、はい」
「まさか……私のあずかり知らない所で結婚の相手を決められた、とか?」
ヤバイヤバイヤバイ……! 俺が勝手に結婚相手を決めたと誤解されてる!? 違うよ、そんな自分で自分をめった刺しにするような真似しないよ!?
「違う違う! そもそも政略結婚なんてさせるつもりもないし! なんなら嫁になんか行ってほしくないくらいだ!」
「そうですか、それは良かったです」
俺が必死でそう言うと、パッと表情が明るくなった。よくわからないけど、俺の返答がお気に召したらしい。
「ご安心ください、お義兄さま。私は
「それは良かった、でいいのかな?」
俺としては嬉しいんだけど、好きな相手ができたら結婚してもいいんだよ?
◇
「ご主人様、明日の準備が完了しました」
「ああ、ありがとうヘリオトロープ」
就寝前の時間、ヘリオトロープが明日に控えた魔法学園入学試験の準備をしてくれていた。
入学試験と言っても、貴族は基本的に全員合格なんだけどな。それでも試験をするのは、入学後のクラス分けのためだ。
入学後の成績については、身分問わずの完全実力主義。平民だろうが王家だろうが関係ない。
だからこそ真っ当な貴族や爵位の低い貴族は必死だ。入学は実績にならないが、卒業時の在籍クラスは実績になるからな。
「ご主人様は落ち着かれていますね」
「前日にバタバタしてもしょうがないからな」
筆記については家庭教師セバスチャンのおかげで問題ないし、実技については俺の才能のなさのおかげで問題しかない。
つまり、すでに人事を尽くして天命を待つの境地なのだ。
「まぁ、なるようになるだろう。後は寝るだけ……」
俺の言葉を遮るように、激しい音を立てて部屋のドアが開けられた。そこにいたのは、
「クラウト様、王都へ行かれる前にこの書類だけでもお願いします」
「仕事ジャンキーもいい加減にしろよ!」
公爵家の仕事ジャンキーことシェフレラが書類を片手に立っていた。なぜいつも俺の部屋へ押しかけてくるんだ……。