「では、これより王国審査会を
国王の宣言によって王国審査会が開会される。国王の横には五人の中年から老年の男性たち。多分、大臣レベルのお偉いさんだろう。
会場はドラマとかで見た裁判所の法廷に似ているな。あれよりかなりデカいけど。
国王たちの真正面の証言台的な場所に立っているのが俺。
右側に役人っぽい人が何人か座っていて、左側にはゴンベエたち。あちらが異議を申し立てた原告というわけだ。両親はいないが、他の貴族家の連中が混じっているようだな。
そして俺の後ろには傍聴席的なものがあり、関係者やらよくわからない人やらが座っている。俺と一緒に王都へやって来たメンツもそこだ。
というか、弁護士とかはいないんですかね。出頭と同時にここに立たされたんですが。
「本日はヴェルトハイム公爵家及び複数の貴族家からの申請により、ヴェルトハイム公爵家嫡男クラウト・フォン・ヴェルトハイムの継承権について異議を申し立てるということで相違いないな?」
「はい、間違いございません!」
国王の確認に大きな声で返事をするゴンベエ。鼻息荒いなぁ。
「では、異議申し立てに関する訴状を読み上げる。宰相」
「はっ」
審査会の中で一番年配のあの人が宰相か。訴状と思しき紙の束を持って起立する。
「では読み上げまする。……この訴状はヴェルトハイム公爵家長男クラウト・フォン・ヴェルトハイムの継承権について異議を申し立てるものである。
ん? 宰相の言葉が不自然に止まった。読みにくい文字でもあったかな。国王たちも、宰相の様子に
「どうした宰相、続きを読んでくれ」
「あ……はい。それでは」
宰相は気を取り直したように再び訴状を読み進めたのだが……、
「彼の者は、あろうことか政務を優先し第二王女の誕生日パーティーを辞退した。それは王家に対する不敬であり、ただちに処刑するに値する行為である」
「…………」
「…………」
「フンッ」
勝ち誇ったように笑う豚と黙り込む人間たち。え、これネタじゃなくてマジなの? 宰相さんのお茶目とかじゃなくて?
違ったらしい。宰相は真面目な顔で訴状を読み続けている。
「また、養子となったプリメリア嬢を王子殿下に面会させようとすらしない。これは公爵家の発展を妨げるものであり継承権を持つ者として相応しくないと言わざるを得ない」
つまりゴンベエが公爵家を継いだ暁にはウチの可愛いプリメリアを王子に嫁がせますよ、と。なるほど…………テメェ俺の目の前でいい度胸だなぁ、オイ!
「ヒィ!?」
おっとまた顔がオーガになっていたようだ。ゴンベエがプルプル震えて、汚い水まんじゅうみたいになってしまった。
「以上の理由により、クラウト・フォン・ヴェルトハイムの継承権について審査されたし!」
その後もなんやかんや、難癖にもならないようなことを並べられて訴状は締めくくられた。
うわー帰りてぇ。元々なかったやる気が微粒子レベルすら存在しなくなった。
「あー……その、クラウト・フォン・ヴェルトハイムよ。この訴状内容について何か反論はあるか?」
おい国王、口の端がヒクヒクしてんぞ。笑いをこらえるのに必死じゃねぇか。
「反論があるかと問われればありません。内容に関しては
「我が娘の誕生日パーティーの参加を辞退したことに関しては?」
「そのことに関しては申し訳なく。政務が忙しく、領地を離れることができませんでした。陛下がお望みとあらば、今すぐに首を
「ククク」
国王は含み笑いを漏らした。さすがに言うことが大げさすぎたか。でも、これくらい言っても良いと思うんだよなぁ。
「さすがにそれはできないな。民あっての王家、民あっての国だ。領地を
「陛下!?」
ゴンベエが焦ったように叫ぶが、マジであの言い分が通用すると思ってたの? すげぇ、さすがクラウトのそっくりさん。
「我が義妹に関しましても、政略結婚のみが領地発展の方法ではありません。むしろ婚姻によってもたらされる発展は
「なるほど、道理だな」
「…………」
もはやゴンベエは唖然としている。俺からすれば、本気でそう思っていたのがわかって恐怖だわ。
その後もいくつかの質疑応答があり、そのたびに俺は呆れながらもしっかり回答していく。そのたびに役人たちが忙しそうに……あぁ、あの役人たちって書記官だったんだ。
◇
「では、議決をとる」
国王のその言葉でようやくホッとした。まぁ無駄に長かったよ。あんな馬鹿げた訴状内容に真面目に答えないといけないツラさ、わかって欲しいなぁ。
これでゴンベエも一巻の終わりだ。国王にこんなくだらない時間を取らせたとあらば、心証は最悪だろう。そう思ってヤツの方を見てみると、
――――
「では、クラウト・フォン・ヴェルトハイムの継承権剥奪に賛成の者は挙手をせよ」
国王が最後の確認を行う。すると――――、
「なっ」
「何だと!?」
俺と国王から驚きの声が上がった。上がった手は……三本。つまり審査会の半分。
信じられない思いで手を上げた連中を見る。国王も同じ方を見ていた。
「お前たち……その上げた手には正当な理由が込められているのだろうな?」
国王が鋭い目で問いただすが、連中は悪びれる様子もなく答えた。
「陛下。訴状内容はともかく、クラウト殿の行いによってヴェルトハイム公爵家が混乱しております。これは後継者としていかがなものかと」
「しかり。加えて先の大粛清、彼がヴェルトハイムを継げば暴君になりかねませぬ」
「今まで上手く回っていた輪を乱すのは感心しませんな。公爵家を継ぐならば、もう少し賢き者がよろしいかと」
……なるほど。コイツらはゴンベエたちに買収されてたな。審査会が開かれた時点で
これは完全に読み違えていた。ヤツの言動があまりにアホすぎて警戒してなかった俺の失態だ。
だが、これでも三対三の同数。奴らの意見を押し通すには一手足りない。まだ何かあるのか?
そう思っていると、手を上げたうちの一人が提案をしてきた。
「陛下、決議は三対三の同数です。ここは、貴族の慣例に従って決闘で決めるのがよろしいかと」
「「!」」
これが狙いか――――!
今や有名無実となった制度だが、王国には決闘制度がある。貴族同士の
そしてこの制度にはもう一つ、無視できないルールがある。それは……、
「望むところです。では我々は、こちらのオレアンを代理決闘人と致します」
ゴンベエはそう言って
決闘代理人――貴族が自分の代理として決闘を行う人間を指名できる制度だ。
貴族の中には剣すら握ったこともないヤツがそれなりにいる。かつての
そしてそういうヤツらほど爵位が高いことが多い。そういった連中のために創られたのが決闘代理人制度である。
ならば俺はエンツィを指名すれば……とはできないのが、この制度の厄介なところだ。
代理人を立てることができるのは
…………やられたな。
グルっと周りを見渡す。
悔しそうな国王の顔、悲痛なヘリオトロープやラプスの顔、怒りに満ちたエンツィの顔、そして……、
「フーッ」
長く一息。立派な天井を見上げる。どうやらここが、俺の運命の分かれ道のようだな。
もう一度、周りを見渡す。最後に、この世界で最愛の家族の顔を見て覚悟を決める。
「承知しました。決闘をお受けします」
さぁ。これが俺の、中ボス戦だ。