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38. 今のは必殺技ではない…弱パンチだ…

「出頭命令?」

「はい、王国審査会に出頭するようにと」

「…………何で?」

「申し訳ございません。それはわかりかねます」


 俺は今セバスチャンからイミフなことを言われていた。いや、意味はわかるんだけど頭が理解することを拒否しているというか。


「まさかと思いますが……ご主人様の弟君の仕業では?」

「あーありそう。めっちゃありそう」


 むしろ今それ以外の理由が思い浮かばないわ。あんにゃろう、何を考えてるんだ?

 王国審査会は継承権の正当性を裁定する場。こう言っちゃなんだけど、今の俺に探られて痛い腹なんてないぞ。


「欠席とか代理とかは……無理だよなぁ」

「国王陛下自らが開かれる場ですから。本人が出席しなければ、かなり心証を悪くされるかと」

「ハァ、仕方がない。行くか」

「はい、準備致します」


 さて、一体何が待っているのやら。


          ◇


「なるほど、こういうことか」

「こういうことですね」


 王都に向かう馬車に乗っていた俺とヘリオトロープは 得心がいったとばかりにウンウンと頷いていた。

 馬車の前には、平原で待ち受けていた数十人の荒くれ者ども。何人か見覚えがある顔があるのは――ウチの騎士か。


「王国審査会の日程が決まれば、俺の行動は予測しやすい。だから王都に向かうまでの道で暗殺してしまおう、と。後は、賊に襲われて殺された。あるいは、審査会から逃げ出して行方をくらませたと報告するわけだな」

「それなりに考えていたんですね」

「それなりに、な。やってること自体はアホの所業だよ」

「確かにそうですね」


 まぁ有効な手ではあるんだよ、一応。それが成功すればだけど。だって……、


「クラウト様、アタシがやっちまっていいかい?」


 こっちには最強の護衛がついている。俺と一緒に王都へ向かっていたプリメリアの護衛、『焔髪えんぱつ』のエンツィが。


「任せてしまっていいのか?」

「ああ、最近暴れてなかったからねぇ。たまには身体を動かさないと鈍っちまうよ」

「じゃあ、頼む」

「あいよ」


 エンツィが馬車から出てくると、賊どもがざわついた。何だ?


「バカな! エンツィはんじゃなかったのか!?」


 ほー、なぜかエンツィは公爵領に居残りということになっていたと。なるほどねぇ。


「よくわかんないけど、アタシにとってはどうでもいいことだね。あ、そうだクラウト様。別に、アイツらを全員殺してしまっても構わないんだろう?」

「あー……うん。王都に連行するのも面倒だし、いいよ」


 一瞬どこの弓兵かと思ったわ。そのセリフは完全に死亡フラグなんだけど、まぁ今回に限ってそれはないな。

 エンツィが大剣を構える。濃密な魔力が全身から溢れ出し、陽炎のように揺らめいている。周囲の温度が上がって、俺の額に汗が浮かんできた。


「一撃くらいは耐えておくれよ。『紅き竜の顎クリムゾン・ファング』!!」


 エンツィが無造作に大剣を振るうと、その剣閃が炎の龍と化し、賊どもへと襲い掛かった。

 耳をつんざくような轟音、そして凄まじい熱風と地響きが身体を叩く。砂煙が辺り一帯を包み、何も見ることができない。


 やがて砂煙が晴れるとそこには巨大なクレーターが出来ており、生きている賊は誰もいなくなっていた。え、全員炭みたいになってるんですけど。


「なんだ、ザコばっかりか。張り合いがないねぇ」


 エンツィは大剣を背中に担ぐと、つまらなそうに馬車へと戻って行った。


 …………。


 ヤベエエェェ! アイツマジヤベェ! あんな無造作な一撃で地形変えやがった!

 今のはメ〇ゾーマではないってか? 絶対主人公とは敵対せんどこ。あんなん食らったら俺も一瞬で消し炭だわ。


 この後は何事もなく、いたって平穏に王都へとたどり着いた。


          ◇


 王国審査会は王城にて執り行われる。まぁ国王が出席しないと開けないんだから当然だけど。

 その議場に繋がる長い廊下、前から見覚えのある丸いシルエットが歩いてくる。向こうもこちらに気付いたようで、身体だけでなく目まで丸くした。


「な、なぜ貴様がここにいる!?」


 俺の腹違いの弟のナナシノゴンベエくん(仮名)。どうやら俺が生きていることに驚いたらしい。


「王国審査会に出頭するように言われたのだから当然だろう? それとも、のか?」

「ぐっ……何でもない」


 フッ、勝った。

 それにしても見れば見るほど、以前のクラウトそっくりだな。鏡を見ているようで複雑な気分だ。今の俺が鏡を見てもああはならんけど。


 あと気になるのが、ゴンベエの後ろに控えている長身で痩せぎすの男。二十代半ばくらいだろうか、何を考えているか読めない糸目が何とも不気味だ。

 同じことを考えていたのか、鋭い目で男を見ていたヘリオトロープが小声で話しかけてきた。


「ご主人様、お気を付けください。あの男、かなりできます」

「ああ、何となくヤバそうな気はしてた」


 まさか今ここで襲ってくることはないと思うが、警戒しておいて損はない。

 そんな俺たちの考えを知ってか知らずか、ゴンベエがまくし立ててきた。


「ふ、フン! どのみち今日で貴様は終わりだ! 公爵家に相応しくない貴様を跡継ぎの座から引きずり降ろして、俺が公爵家を継ぐ! 見ていろ!」


 そう言って、ドスドスと廊下を歩いて行った。あの男もその後に続く。

 いやぁアイツ本当にアホだなぁ、などと思っていたらヘリオトロープが口を開いた。


「ご主人様」

「ん?」

りますか?」

「殺らねぇよ!?」


 ナイフを取り出そうとするな! ここで殺ったら俺がしょっぴかれるわ!

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