「出頭命令?」
「はい、王国審査会に出頭するようにと」
「…………何で?」
「申し訳ございません。それはわかりかねます」
俺は今セバスチャンからイミフなことを言われていた。いや、意味はわかるんだけど頭が理解することを拒否しているというか。
「まさかと思いますが……ご主人様の弟君の仕業では?」
「あーありそう。めっちゃありそう」
むしろ今それ以外の理由が思い浮かばないわ。あんにゃろう、何を考えてるんだ?
王国審査会は継承権の正当性を裁定する場。こう言っちゃなんだけど、今の俺に探られて痛い腹なんてないぞ。
「欠席とか代理とかは……無理だよなぁ」
「国王陛下自らが開かれる場ですから。本人が出席しなければ、かなり心証を悪くされるかと」
「ハァ、仕方がない。行くか」
「はい、準備致します」
さて、一体何が待っているのやら。
◇
「なるほど、こういうことか」
「こういうことですね」
王都に向かう馬車に乗っていた俺とヘリオトロープは 得心がいったとばかりにウンウンと頷いていた。
馬車の前には、平原で待ち受けていた数十人の荒くれ者ども。何人か見覚えがある顔があるのは――ウチの騎士か。
「王国審査会の日程が決まれば、俺の行動は予測しやすい。だから王都に向かうまでの道で暗殺してしまおう、と。後は、賊に襲われて殺された。あるいは、審査会から逃げ出して行方をくらませたと報告するわけだな」
「それなりに考えていたんですね」
「それなりに、な。やってること自体はアホの所業だよ」
「確かにそうですね」
まぁ有効な手ではあるんだよ、一応。それが成功すればだけど。だって……、
「クラウト様、アタシがやっちまっていいかい?」
こっちには最強の護衛がついている。俺と一緒に王都へ向かっていたプリメリアの護衛、『
「任せてしまっていいのか?」
「ああ、最近暴れてなかったからねぇ。たまには身体を動かさないと鈍っちまうよ」
「じゃあ、頼む」
「あいよ」
エンツィが馬車から出てくると、賊どもがざわついた。何だ?
「バカな! エンツィは
ほー、なぜかエンツィは公爵領に居残りということになっていたと。なるほどねぇ。
「よくわかんないけど、アタシにとってはどうでもいいことだね。あ、そうだクラウト様。別に、アイツらを全員殺してしまっても構わないんだろう?」
「あー……うん。王都に連行するのも面倒だし、いいよ」
一瞬どこの弓兵かと思ったわ。そのセリフは完全に死亡フラグなんだけど、まぁ今回に限ってそれはないな。
エンツィが大剣を構える。濃密な魔力が全身から溢れ出し、陽炎のように揺らめいている。周囲の温度が上がって、俺の額に汗が浮かんできた。
「一撃くらいは耐えておくれよ。『
エンツィが無造作に大剣を振るうと、その剣閃が炎の龍と化し、賊どもへと襲い掛かった。
耳をつんざくような轟音、そして凄まじい熱風と地響きが身体を叩く。砂煙が辺り一帯を包み、何も見ることができない。
やがて砂煙が晴れるとそこには巨大なクレーターが出来ており、生きている賊は誰もいなくなっていた。え、全員炭みたいになってるんですけど。
「なんだ、ザコばっかりか。張り合いがないねぇ」
エンツィは大剣を背中に担ぐと、つまらなそうに馬車へと戻って行った。
…………。
ヤベエエェェ! アイツマジヤベェ! あんな無造作な一撃で地形変えやがった!
今のはメ〇ゾーマではないってか? 絶対主人公とは敵対せんどこ。あんなん食らったら俺も一瞬で消し炭だわ。
この後は何事もなく、いたって平穏に王都へとたどり着いた。
◇
王国審査会は王城にて執り行われる。まぁ国王が出席しないと開けないんだから当然だけど。
その議場に繋がる長い廊下、前から見覚えのある丸いシルエットが歩いてくる。向こうもこちらに気付いたようで、身体だけでなく目まで丸くした。
「な、なぜ貴様がここにいる!?」
俺の腹違いの弟のナナシノゴンベエくん(仮名)。どうやら俺が生きていることに驚いたらしい。
「王国審査会に出頭するように言われたのだから当然だろう? それとも、
「ぐっ……何でもない」
フッ、勝った。
それにしても見れば見るほど、以前の
あと気になるのが、ゴンベエの後ろに控えている長身で痩せぎすの男。二十代半ばくらいだろうか、何を考えているか読めない糸目が何とも不気味だ。
同じことを考えていたのか、鋭い目で男を見ていたヘリオトロープが小声で話しかけてきた。
「ご主人様、お気を付けください。あの男、かなりできます」
「ああ、何となくヤバそうな気はしてた」
まさか今ここで襲ってくることはないと思うが、警戒しておいて損はない。
そんな俺たちの考えを知ってか知らずか、ゴンベエがまくし立ててきた。
「ふ、フン! どのみち今日で貴様は終わりだ! 公爵家に相応しくない貴様を跡継ぎの座から引きずり降ろして、俺が公爵家を継ぐ! 見ていろ!」
そう言って、ドスドスと廊下を歩いて行った。あの男もその後に続く。
いやぁアイツ本当にアホだなぁ、などと思っていたらヘリオトロープが口を開いた。
「ご主人様」
「ん?」
「
「殺らねぇよ!?」
ナイフを取り出そうとするな! ここで殺ったら俺がしょっぴかれるわ!