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27. アームロックから始まるロマンスなどない

 あ…ありのままに今まで起こった事を話すぜ!


 予想外なロイヤルファミリーとの対面後、誕生日パーティーという名の食事会が始まり、ようやく落ち着くことができた。

 緊張していても美味しさがわかるくらいに料理は素晴らしかったし、国王夫妻との話は想像以上に楽しめた。さすがはロイヤル話術、俺なんぞ手のひらの上です。


 食事が終わり、国王陛下が「応接間で紅茶でも飲みながら話をしよう」と言い出したので全員で移動を開始。

 プリメリアは国王夫妻に挟まれて緊張しながらも、楽しそうに会話している。ぜひお義兄ちゃんとも楽しく会話してほしい。

 その少し後ろに俺とリーリエが歩いていたのだが、突然リーリエが足を止めた。


「殿下、どうかされましたか?」


 うつむいているので、長い髪に隠されたその顔は見えない。もしや体調でも悪いのかと近づいたら。


 アームロックをめられた。


 何を言ってるのかわからねーと思うがおれも何をされたのかわからなかった。いや、お姫様からいきなり関節技食らう状況なんぞ理解してたまるか!

 痛みで悲鳴を上げる間もなく近くの部屋に押し込まれ、ドアを背にしたリーリエが後ろ手に鍵をかけた。


「フフフ、ようやく二人きりになれましたね。クラウト様」


 まだ幼さが残っているが、ゲームの彼女を彷彿ほうふつとさせる素敵な笑顔だ。彼女が俺を拉致した張本人でなければ、素直に見惚れられたのに。

 皆さん、事件です! いや、この状況だと冤罪で俺が現行犯逮捕か!?


          ◇


「…………」

「…………」


 あまりにも急すぎる展開に言葉が出てこない俺と、笑みを浮かべたままのリーリエ。

 ただ音もない時間が過ぎ去り――――、


「フフフ、ようやく二人きりになれましたね。クラウト様」

「いや、さっき聞きましたけど」


 どうやら沈黙に耐えかねたらしいリーリエが、一言一句同じセリフを言ってきた。


「……二人きり、ですのよ?」

「は、はぁ……そうですね」

「密室、ですのよ?」


 え、さっきから何言ってんだろうこの娘。まさか誘ってんの? やめてよ、衛兵おまわりさんに捕まっちゃうじゃん。

 いやセリフだけなら誘ってるように聞こえるけど、嫌っているはずのクラウトに言い寄るなんてありえんだろ。あと、アームロックから始まるロマンスなどない。

 そんなことを考えていると、笑顔を消したリーリエがため息をついた。


「ハァ……どうやら噂は真実だったようですね」

「噂?」


 領民からの評判はこまめに収集している。色んな噂が流れているのは知ってるが……。


「不正役人の首を孤児院の前に並べたそうですね」

「今までのどこに確信する要素が!?」


 え、女好きかスプラッタ好きの二択だったってこと? 孔明の罠よりヒデェ!

 思わず強くツッコミを入れたら、リーリエはクスクスと笑い出した。さすがメインヒロイン、可愛いっスねぇ。


「フフ、申し訳ございません。噂というのは、貴方が以前とはまるで変わられたというものです。今日久しぶりにお会いして、わたくしもハッキリと感じました」

「あ、ああ。そっちですか」


 良かった。首を落とすのが大好きな危険人物と認識されてしまったら、ゲームにない死亡フラグを作りかねん。


「お父様も仰っていましたが、そもそも以前と容姿がかなり変わっていたので初めはクラウト様とわかりませんでしたし」

「ま、まぁそれは自覚がありますが……」

「以前のように、両親がいようとお構いなしに私へ話しかけてくることもなく」

「そ、その説は大変失礼を……」

「以前の貴方ならば、部屋で私と二人きりになればすぐ襲い掛かってきたでしょう」

「もう勘弁してください!」


 俺の転生時以前のことを言われると、平謝りするしかなくなるから本当に困る。おのれ、三年以上前のクラウト

 直角を超えて、脚にぶつける勢いで頭を下げる。リーリエがさっきよりも大きな声を上げて笑った。


「フフフフ! 本当に申し訳ございません。クラウト様とこのような会話ができるとは、今までは考えられなかったものですから」

「……殿下が楽しそうで何よりです」


 あーもう可愛いな。『剣と魔法と花冠はなかんむり』のヒロインは全員好きだったから、そんな笑顔を見せられたら許すしかないじゃないか。それでも最推しは義妹プリメリアだけど。

 あ、でもこれだけは言っておこう。


「殿下」

「何でしょう?」

「今回のような体の張り方はおやめになった方が良いかと。男と二人きりなど危険すぎます」

「あら」


 何だ「あら」って。君みたいな美少女と二人きりなんて、男はすぐオオカミになっちゃうぞ。俺は変態じゃない紳士だから大丈夫だけど。

 と思っていたら、


「ご心配ありがとうございます」

「うわああぁぁ!?」


 急に耳元から渋いおじさまの声が!?

 バッと振り返ると、そこにはあの老執事の姿が。え、いつからそこにいたの!?


「クラウト様のご心配痛み入ります。ですが、私とて自分の立場は理解しておりますので。ちゃんと安全は確保しますわ」

「そ、それは差し出がましいことを」

「いえ、ありがたく存じますわ」


 つまり俺が万一オオカミになっていたら、赤ずきんちゃんを食べる前に猟師に狩られていたんですね。怖えーわ。

 俺が身震いしていると、不意にリーリエが真剣な顔になった。それを見て俺も姿勢を正す。


「クラウト様、今の貴方だからこそお伺いしたいことがございます」

「……私に答えられることでしたら」

「では――――」


          ◇


「あー……疲れた」


 ハンマー投げのごとく振り回された誕生日パーティーが終わり、俺たちは馬車に乗ってヴェルトハイム領への帰途についていた。

 実は専属メイド二人も乗ってるよ。さすがにパーティーには出てないので、王城で待機してたけど。


 しかし俺のことはともかく、プリメリアに無理をさせてしまったのが忍びない。彼女の社交界デビューに丁度良いと思っていたのに、最初から難易度がおにだドン!


「プリメリア、今日は色々とすまなかった。今度、何かお詫びをするよ」

「…………」

「プリメリア?」


 へんじがないただのげきおこのようだ。……え、マジで返事すらしてもらえないくらいに怒ってるんですか!?

 などと慌てていたら、肩にわずかに重みを感じた。そちらを見てみると天使がいた。違った、天使のようなプリメリアの寝顔があった。


「(パクパク)」


 いかん。あまりの可愛さに叫びそうになるが、起こしたくないから叫べん。結果、呼吸困難にあえぐ鯉みたくなってしまった。

 向かいの席に座る専属メイドたちが笑いをこらえている。くそぅ、後で覚えてろよ。


 結局公爵邸に着くまでの間、お隣の天使様に悶えさせられることとなった。やべ、鼻血が。

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