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26. うん、間違ってはいない。近しさの基準がおかしいけど

『今回招待されたパーティーは小規模なものだそうです。参加者は第二王女に近しい者だけだとか』


 確かにそう言ってましたね。よく覚えていますとも。

 うん、間違ってない。間違ってはいないんだけど……。


「久しいな、ヴェルトハイムのせがれよ。ヴルツェル・フォン・ブルーメンクランツだ」

「お久しぶりですね、クラウト殿。それから初めまして可愛らしいお姫様。カメーリエ・フォン・ブルーメンクランツです」

「お久しぶりです、クラウト様。そして初めましてプリメリア様。リーリエ・フォン・ブルーメンクランツでございます」

 「「…………」」


 揃って絶句する俺とプリメリア。あまりにも予想外すぎて何も反応ができない。

 だって、だってさぁ……まさかリーリエ以外の出席者が、とは思わないだろ!?


          ◇


 リーリエの誕生日パーティー当日。


 俺の立場上、あまり領地を空けるのは好ましくない。なので王都には前乗りせず、早朝から馬車で向かうことになった。

 万が一、王都の両親たちに見られては面倒なことになるので、馬車は紋章や装飾のないお忍び用の物だ。

 ただプリメリアには負担をかけてしまったのが申し訳ない。彼女にそのことを謝ったら笑顔で許してくれた。マジ女神。


 馬車に乗ってしばらくすると、王都へと到着した。王都は周囲を巨大な壁によって囲まれており、東・西・南の三方に人や馬車が出入りするための門がある。その中の南門で手続きを行う。

 本来なら積み荷のチェックなどがあるが、公爵家の身分証を見せれば免除だ。馬車に乗ったまま、門を通過していく。


 そういえば、俺が転生してからは初めての王都だな。クラウトの記憶があるから初めてって感じじゃないけど。

 門を抜ければ大勢の人たちが行き交う大通り、門から北に真っすぐ伸びるその道の先に王城が見えている。


 王城に近づいてくると、その荘厳な佇まいがハッキリとわかった。見た目はイギリスのウィンザー城に近いだろうか。綺麗に積まれた石造りの無骨さが、歴代王家の威信を現しているように感じる。

 ちなみに初めて王城を見たプリメリアは目を輝かせていた。マジ天使。


 門の前で馬車を停めてもらい、プリメリアをエスコートしながら降りる。

 玄関の前には俺たちを出迎える老執事の姿。一分の隙もない完璧な礼は、セバスチャンに勝るとも劣らないロマンスグレーだ。


「ヴェルトハイム公爵家ご令息クラウト様、並びにご令嬢プリメリア様ですね。お待ちしておりました」

「ありがとう、案内を頼めるかな?」

「こちらへ」


 それにしても、今まで彼とは顔を合わせたことがない気がするな。王家に近しい人だけの集まりに呼ばれたことがないから当然か。

 玄関を抜け、大ホールを抜け、さらに奥へと…………んん?

 ちょっと待て、そっちには今まで入ったことないぞ。そんなところでパーティーなんて――――。


「クラウト様、プリメリア様。本日はお越しいただきありがとうございます。」


 案内されたのはホールでもパーティールームでもなく、どう見ても食堂。

 そしてそこにいたのは城内、いや国内において最もたっとき存在。リーリエ第二王女殿下と国王夫妻であった。


          ◇


 ――――――――ハッ!?


 いかん、あまりの衝撃でここまでの記憶が走馬灯のように駆け抜けていた!

 今回の件はだまし討ちに近いものと言えど、国王陛下を前に呆けておくわけにはいかない。

 魂が抜けかけているプリメリアをさり気なく背中に隠し、手を軽く握る。ピクッと反応があったので、手を放してゆっくりとひざまずいた。後ろからも慌てて跪く気配。


 右膝をつき、右手は握って心臓に当て、頭を軽く下げる。これがこの国における、男性が国王陛下に謁見するときの姿勢である。女性はまた別なので、プリメリアが後ろでその姿勢をとっているはずだ。多分。


「今日は謁見でも公務でもない、ささやかなパーティーだ。堅苦しい挨拶など不要。二人とも、楽にしてくれ」


 国王陛下の言葉に一度黙礼をして立ち上がる。顔を上げると、やや揶揄からかうような顔をしていた。


「しばらく見ぬ間に随分と上品になったものだな。その見目も含めて最初は誰かわからなかったぞ」

「……お戯れを」


 俺一人ならともかく、義妹プリメリアがいる前で黒歴史のことを言うのはやめれ。身内には箝口令かんこうれいを敷いてるんだぞ。

 この世界にカメラがなくて本当に良かった。三年前までのクラウトの姿を見られていたら、ヘリオトロープに介錯を頼まなければいけないところだ。

 とりあえず気を取り直して挨拶を済ませてしまおう。


「国王陛下、王妃殿下、王女殿下。ご無沙汰しておりまして申し訳ございません。本日はお招きいただきありがとうございます。こちらは私の義妹となりましたプリメリアです。何卒なにとぞ、拝謁の栄に浴すお許しを」

「許す」

「プリメリア」


 そっと背中を押してプリメリアを促す。彼女は緊張しながらも、姿勢を正し口を開いた。


「ぷ、プリメリア・フォン・ヴェルトハイムです。このたびはお会いできて、光栄です……!」


 素晴らしいトレビヤン! この状況で立派だよプリメリア! ……何だか涙が出てきそうだ。


「うむ、とても可憐な娘だな。今ではクラウトも見目麗しくなって、兄妹ともに」

「お父様」


 長くなりそうな国王陛下の話をリーリエが遮る。まぁ本日の主役は彼女だしな。


「陛下、話は食事をしながらでも良いでしょう。さぁ二人とも、席に座ってちょうだい」

「おお、すまんな。二人とも、今日は気軽な会だ。マナーなど気にせず楽しもうじゃないか」

「は、はぁ……」


 国のワンツートップのお許しが出たところで、ようやく席に座る。だからと言って「そうですか、では無礼講で!」とはならんけどな。

 とりあえず、領地に帰ったらプリメリアにお詫びのプレゼントを考えないと。


          ◇


 ……なんて、思っていたんだけどなぁ。


「フフフ、ようやく二人きりになれましたね。クラウト様」


 鍵のかかった部屋。目の前には妖しい笑顔の王女様。どうしてこうなった。

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