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25. 美少女のドレス姿はどれも良いが、男のドレスアップはどうでも良い

「ぉ……ぉお…………おおお!」


 天使だ……天使が降臨なされた!

 ついこの間は天の岩戸に引きこもる女神と化していたけど、今日の彼女は天使そのものである。


「素晴らしい! よく似合っているよ、プリメリア!」


 俺の某テニス選手にも引けを取らない熱い賞賛に、


「ぁ、ありがとうございますぅ……」


 純白のドレスに身を包んだプリメリアは、真っ赤になって縮こまってしまった。てえてえ。


          ◇


 今日は先日注文したプリメリアのドレスの最終調整のため、デザイナーや縫製スタッフたちが公爵邸に来ていた。

 さすがはヴェンツが選んだプロフェッショナル、熱量がハンパない。何せ俺への挨拶もそこそこにお仕事モードに突入しよったからな。


 俺は全然気にしないんだけど、それ違う貴族にやったら危ないからね? 気を付けなはれや。

 おっと、そこの美人メイド二人。俺は構わないので殺気を抑えなさい。ナイフを取り出すな!

 そんな冷や汗をかく一幕がありつつも無事に本仮縫いが終わり、先ほどドレスの初披露となったわけだ。


 純白のプリンセスラインで、よく見ると細かい刺繍ししゅうが施してある。適度にあしらわれたフリルが何とも可愛らしい。

 ドレスの注文を頼んだのは俺だけど、ほとんど女性陣に丸投げだったからなぁ。デザインも含めて今日初めて見たが、素晴らしいブラーヴォとしか言いようがない。


「豪華すぎない装飾がプリメリアの可憐さを引き立たせている。そしてプリメリアの可憐さがドレスの美しさをより引き出す。素晴らしい相乗効果だ」

「ぅう…………」


 そして何より、ドレスに負けないくらい白い肌を赤くして恥ずかしがるプリメリアの愛くるしさよ! 俺は萌え死んだ!

 ……おっとヘリオトロープさん。怖いので、俺の真後ろに立つのはやめてもらって良いでしょうか?


 プリメリアは羞恥心が限界突破したため、早々に別室へと逃亡してしまった。


          ◇


 手持ち無沙汰になった俺は、良い仕事をしてくれたデザイナーさんたちを労うために声をかけた。


「とても素晴らしいドレスだったよ。完成品が今から楽しみだ」

「ありがとうございます、クラウト様。その、先ほどはご無礼を……」

「あぁ、うん……俺は気にしないけど、余所よそでは気を付けてね」


 肩をすぼめながら語尾が小さくなっていくデザイナーさん。自覚あったのね。

 ただでさえ長身スレンダーなモデル体型なのに、ますます細くなってジャンガジャンガ言いそうな感じになってるんだが。


「実は、他の貴族家でも仕事に熱中するあまり、粗相を致しまして……以前いた街では仕事がなくなってしまったのです」


 すでにやらかし済みかよ。命があって何よりだ。


「そこで心機一転、ヴェルトハイム領に拠点を移したのです。それから運良くヴェンツ代表の目に留まり、仕事の依頼が入るように……」

「なるほど……」


 まぁヴェンツがこの悪癖を知らずに俺に紹介したということはないだろう。腕は確かだし、俺が彼女らの態度をとがめることはないと判断してのことか。


「まぁ言った通り俺は気にしない。けど客商売である以上、気にした方が良いのは確かだ。貴女をフォローできる、対人能力が高いスタッフを雇ったらどうかな?」


 ドレスの出来は素人目に見ても素晴らしかった。ぜひ今後も可愛い義妹の服を作ってもらいたいので、彼女らを馬鹿な理由で失うのはもったいない。

 そう思っての助言だったのだが……。


「…………うぅ」


 泣いてる!? え、え、何か悪いこと言った? センスのない人間がファッションを語るなとか?


「今まで貴族の方に、そのような温かい言葉をかけていただいたのが初めてで……」


 良かった、俺が余計なことを言ったとかではないらしい。未だに女心云々うんぬんはヘリオトロープからダメ出し食らってるからな。

 などとホッとしていたら、デザイナーさんが赤くなった目を見開いて顔をグイっと近づけてきた。え、怖っ。


「あ、あの!」

「は、はい?」

「お代は要りません! なので、ぜひクラウト様のお召し物も作らせてください!」


 えー……何てこと言うのよ。気軽にロハでやっちゃ駄目だって。というか、


「いや、俺の服なんかどうでもいいよ。今ウチにあるのを調整して……」

「「「ダメです!!」」」


 なんでさ。俺の服の話なのに、なぜかメイド二人とデザイナーがダメ出ししてくる件。


「ご主人様。プリメリア様が似たことを仰られた時に却下されましたよね」

「ぐ」

「クラウト様。プリメリア様もきっとクラウト様の着飾ったお姿をご覧になりたいと思いますよ」

「う」


 さすが我が家が誇る美人メイドコンビ。論理的に反論を封殺されて、ぐうの音を出すのがやっとだったぜ。


「クラウト様……」


 デザイナーさん、何ですかその捨てられた子犬のような目は。消費者金融に借金する予定はありませんよ。

 あーくそ。前世では異性との接点がなかったせいか、女性のその目には弱い。目以外にも弱いけど。


「わかった、作るよ! ただし代金は絶対受け取ってもらうからな!」


 いえーい、とハイタッチを交わすかしましトリオ。君たち仲良いね?

 まぁパーティーや式典用の服は昔のサイズしかないから作った方が良いか。あれから縦に伸びて、横に縮んだからな。

 ズボンとか、無理矢理履いたらニッカポッカみたいになりそう。あの膨らみって猫のひげと同じ役割なんだってね。


「ではクラウト様、服をお脱ぎになってください。採寸を致しますので」

「え、脱ぐの?」


 服の上からで良くない? と言おうとデザイナーさんの顔を見て……諦めた。目が本気マジだ、この人。

 一刻も早く、彼女の暴走を抑えられる人材を雇ってもらおう。とりあえずヴェンツに探してもらうか。


 素早く俺の前後に回ったメイドコンビにされるがままに服を脱がされる。上半身裸になったところでデザイナーさんから視線を感じた。何かね?


「あら、まだお若いのに意外と筋肉が」

「はよ測れや!!」


 余談だが、着替えて戻ってきたプリメリアは俺の半裸を見て、再び真っ赤になって逃げて行った。

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