先日、一緒にヴェンツ商会に行ってから、少しだけプリメリアと距離が縮まった気がする。
まだ遠慮がちだし、まだまだ目も合わないけど「……はい」以外の会話がなかった時に比べれば、普通に会話が出来るのでハッピーだ。
結局きっかけはよくわからなかったが、何か心境の変化があったのだろう。
ヘリオトロープの助言とやらが効いたのかな? さすが我が専属メイド、セバスチャンも含めて足を向けて寝られない。いっそ直立姿勢で寝るか。
そんな風に浮かれていたある日、一通の封筒が俺の元に届いた。
◇
「ブルーメンクランツ王家から?」
「はい、坊ちゃまにお渡ししてほしいと」
この日も朝から執務室で政務をしていると、セバスチャンが一通の封筒を持ってきた。相変わらず「坊ちゃま」はやめてくれないようだ。
差出人はまさかの超大物。この国全ての貴族が仰ぎ見る存在、ブルーメンクランツ王国の王家である。
…………何で?
疑問に思いながらも、封筒を受け取って確認する。確かに宛名に俺の名前があるし、王家の
慎重にペーパーナイフで封筒を開けると、そこには招待状が入っていた。
『第二王女誕生日パーティーのご案内』
「ファッ!?」
「坊ちゃま!?」
貴族らしからぬ驚きの声が漏れてしまったが、それどころではない。
ウッソだろ、お前。まだプリメリアが義妹になったばかりだってのに、こんな立て続けにイベントが来るか!?
だって第二王女って…………ゲームのヒロインじゃねぇか!
◇
リーリエ・フォン・ブルーメンクランツ――『剣と魔法と
つまりこの国における最高権力者の一人。ヴェルトハイム公爵家ですら頭が上がらない存在である。控えおろう。
……まぁ王家相手でもたびたびやらかすのが、我が家クオリティなんだけどね。初対面での上からプロポーズ事件とか。
おかげさまで、我が父は国の要職に就いたことが一度もございません。信頼感ZERO!
それでも商業都市を抱えているものだから、王家もそれほど強くは言えないんだよなぁ。何せ納税額がハンパないのよ。
多少のオイタは札束ビンタで押し通すのがヴェルトハイムの流儀なのだ。クズい。
まぁそれは置いておくとして、リーリエを一言で言うなら「完璧超人」だ。眉目秀麗・文武両道・公明正大を兼ね揃えたパーフェクトヒューマンである。
こんなんイケメン主人公しかスペック釣り合わへんわ。クラウトが毎回言い寄ってたけど、身分だけの君ではまさに豚に真珠ってものだよ。
何より、彼女は「王侯貴族とは民を守るもの」という信念を貫く
そのはずなのだが……。
◇
「第二王女殿下の誕生日パーティーにお呼ばれするって……何故にWHY?」
確かに王女殿下の誕生日パーティーへの招待状は毎年届いていた。とはいえ、
「こういうのは王都の屋敷に届いていたはずだろ。直接、俺宛てに届く意味がわからないんだが」
王家の誕生日パーティーならば、招待されるのは『家』だ。ヴェルトハイム公爵家を招待している以上、現当主である父宛てでなければおかしい。
そもそも俺は、多忙を理由にここ二年は参加してないし。多分、腹違いの弟の誰かが参加したんじゃないかな。
「どうやらクラウト様の最近の評判を聞いて、ご興味を持たれたみたいですな」
「あー……」
言われてみれば、二年顔を出さない間に色々と派手にやってたからなぁ。気になるのも無理はないか。
でもな~現当主をすっ飛ばして招待されてるのに、会場で両親や弟と鉢合わせしようものなら超気まずいんですけど。
そんなことを考えていると、セバスチャンが捕捉を入れてきた。
「今回招待されたパーティーは小規模なものだそうです。参加者は第二王女に近しい者だけだとか」
「なるほど……なるほど?」
え、俺そんなパーティーに招待されてるの? リーリエに近しいどころか、嫌われてる自信があるんだけど。
なにせ王女殿下を勝手に「俺の嫁」扱いして、正式に王家から抗議されたからね。バットで殴ったら記憶なくならねぇかな。
全く気が向かないけど、ここまでお膳立てされて断るのも印象がよろしくないか。近いうちに社交界に復帰するつもりではいたし、良い機会に恵まれたと思うしかない。
「小規模なパーティーということなら、プリメリアの社交界デビューにも丁度良いか」
小規模とはいえ、王家主催だけどな。まぁ公爵家である以上、王家との接点は嫌でもできるわけだし……今のうちから王女殿下と仲良くなっておくことは悪いことじゃないよ、きっと。
約三年間、王家と接点ゼロだった俺が言っても何の説得力もないけどな!
ちなみに。
「というわけで、第二王女の誕生日パーティーに招待されたから一緒に参加しよう」
「…………」
夕食時に誕生日パーティーの話をしたら、
その後、メイド二人による長時間の説得の末どうにか解決した。俺は無力だ……。