打ち合わせが終わって戻ってきたら、義妹が俺の顔をチラチラと見てくる件。
え、何すかコレ。見ちゃいけないけど気になって仕方ない、みたいな。授業中、先生のカツラがズレてるのに気づいてしまった感じ。
っていうか、どう考えても犯人確定だよね。「異議あり!」とか認めないよ、俺は。
「……で、何を言いやがりましたか? ヘリオトロープさん」
「人聞きの悪いことを仰いますね。人の上に立つ者として冤罪はいかがなものかと存じますが」
堂々と否認しやがったよ、この容疑者筆頭候補。物的証拠がなきゃ認めないってか? 防犯カメラがない中世ファンタジーが憎い!
「いや、どう考えてもおかしいよね。打ち合わせの前はあんな感じじゃなかっただろ。誰かさんが変なことを吹き込んだとしか思えないのだが?」
チラ見してくるのに、目が合ったら高速で逸らされるのよ。え、まさか鼻毛が出てたり目ヤニがついてたりしてないよね?
「変なことではございませんが、少しだけ助言を差し上げました」
「助言?」
「ご主人様はセクハラの常習犯なので、お気を付けるようにと」
「おいィィィ!」
何てこと言いやがる! 「冤罪はいかがなものか」ってさっき言ってたよな!?
「嘘です」
「コラ」
仮にも主に対して、面と向かって噓をつく専属メイドは貴女くらいじゃないでしょーか。
「プリメリア様はご主人様との接し方に悩んでおられるようでしたので、専属メイドとして
「いや、その気持ちはありがたいんだが……悪化してないか?」
「心配はございません。プリメリア様も色々悩んでおられるのでしょう」
「うーん。ま、ヘリオトロープがそう言うならそうなんだろうな」
「…………」
何だかんだ言っても、ヘリオトロープは俺に害のある行動は取らないからな。言葉のトゲは別だけど。もし彼女が俺を裏切ったのだとしたら、俺の器はその程度だということだろう。
そう思って気楽に返事をしたのだが、ヘリオトロープは困ったように微笑んでいた。
「全く…………本当にいつか刺されますよ?」
なんでさ!?
◇
ヘリオトロープから恐怖の一言をもらった後、今度はラプスが話しかけてきた。
「クラウト様、今後のことを考えてプリメリア様のドレスを仕立てておくべきかと」
「それは確かに必要だな」
素でも可愛いプリメリアをさらに引き立たせるドレスは公爵領の必需品、俺の私費から予算を確保しておこう。
「あと、クラウト様のご威光を知らしめる素敵なお召し物も必要です」
「…………」
自分&領地改革を進めて三年、一応キリが良い所までは進んだ。だから、俺もそろそろ社交界に顔を出すべきとは考えてたよ? でも、ラプスは俺のことを何だと思ってるんだろう。
もし俺の衣装を一任しようものなら、紅白のラスボスみたいな衣装になりそうで怖いんですが。
「ま、まぁ俺の服はともかく、プリメリアのドレスは仕立てておこう。ヴェンツ、近いうちにデザイナーと打ち合わせはできるかな?」
「明日の午後には屋敷へと向かわせましょう」
「頼む」
出来る男ヴェンツと
「そ、そんな! わざわざ一から作らなくとも、こちらのお店にあるドレスで私には十分すぎるほどです!」
ええ娘や。俺に意見を言うなんて、かなり無理してるだろうに。案の定、顔は真っ赤だし目線はあちこち動いている。
それでも黙っていられなかったんだろうなぁ。報告書を読んだ限り、ドレスはおろか食事すらも貴族らしいものではなかっただろうから。だからこそ、俺が甘やかせたくなっちゃうんだけどね!
「プリメリアには悪いけど、これも公爵家の大事な仕事の一つだからね。何より我が公爵家の麗しき姫君を社交界に初披露するんだ、最高のドレスを用意しなければ!」
「うぅ…………」
いかん、ちょっと熱く語ってしまったな。姫の顔も熱くなっておられる。
「あー……まぁそんなわけで、オーダーメイドで何着か仕立ててもらおう」
「はいぃ…………」
そんな恥ずかしそうな顔をされるとこっちまで照れてしまいそうだ。オイ、そこのメイドコンビ。
あとヴェンツ君。君はさっきから何か言いたげな顔をしていけるど何かあるのかな?
「クラウト様」
「……何だ」
ヴェンツは眼鏡を右中指でクイッと押し上げ、
「シスコンだったのですか?」
と、大真面目な顔でのたまいやがった。うっせぇわ!!
◇
「クラウト様、本日はありがとうございました」
「ああ、こちらこそ。明日の手配はよろしく頼む」
「お任せを」
商会を出て、ヴェンツと別れの挨拶を交わす。シスコン
頭を下げるヴェンツや他の従業員に軽く手を振り、外で待ってもらっていた馬車に先に乗り込む。行きと同じようにエスコートしようとプリメリアに手を差し出したら、その視線が一点で止まった。
「…………ぁ」
「?」
なぜか俺の手のひらをじっと見ているようだ。手相でも見てるのかな?
「本当だ……」
「え?」
「あ! いえ、その……はわわ」
よくわからない呟きをされたので聞き返したら、申し訳ないくらいにワタワタと慌て出した。いや、何かよくわからないけどマジで申し訳ない。
しかしもう一度じっと俺の手のひらを見つめた後、俺の手をしっかり取って、
「ありがとうございます!」
と、輝かんばかりの笑顔を向けてくれた。
…………破壊力ヤベェ。