「わぁ……!」
多種多様な商品が所狭しと並べられているのを見て、プリメリアが年相応のあどけない笑顔を浮かべている。テラカワユス。
できればその笑顔を俺にも向けて欲しいところですが、無理ですよね。だって、俺の視線に気付いて笑顔がパラダイスロストしたもん。地面に叩きつけられた気分です。
だが、だてに三年間ヘリオトロープから
「プリメリア、仕事が終わるまで買い物でもして待っててくれるかな? 欲しい物があったら好きに買って良いから」
「え、でもお仕事中に……」
「ヘリオトロープ、ラプス」
「「お任せください」」
遠慮する気満々の健気な娘には、メイド二人による強制ショッピングだ。女三人寄って、ぜひ
「ヴェンツ、待たせて悪いな。そろそろ打ち合わせをしようか。」
「いえ。では、こちらにどうぞ」
メイド二人に挟まれてあたふたしているプリメリアを尻目に、ヴェンツと店の奥にある応接室に入り、向かい合って座る
…………うん。美女美少女を三人も連れているのに、なぜかクール系男子と部屋に二人きり。特定の層の人に見られたらヤヴァい絵面だわコレ。ショタ攻めとかスパダリとか言うのやめてよ、マジで。
「では、孤児院に納入する予定の書籍ですが……」
「はい」
馬鹿なこと考えてゴメンなさい。ヴェンツが
さて、皆は買い物を楽しんでいますかね?
◇
SIDE:プリメリア
クラウト様はヴェンツさんと一緒に店の奥へと入っていきました。そして私の両隣には二人の美人メイドさん。なぜかしっかりと腕を掴まれています。
「さて。ご主人様のご命令ですので、プリメリア様にはお買い物を楽しんでいただかなければなりません」
「ええ。次期公爵閣下のご命令とあらば、ヴェルトハイム家に仕える身としては従うほかありません」
言葉とは裏腹に楽しそうな二人の声。やや強引に商品が並ぶ棚の前へと引っ張られて行きます。
さすがはクラウト様の
あ、これは私の部屋に飾ってありました……思ってたよりも
「何かお気に召した物がございましたか?」
「あ、いえ、その……これ、私の部屋に飾ってあったんですけど、思ったよりも高価な物だったので」
「ああ、なるほど。お気になさらず、全てご主人様の私財から出しているので」
「えぇ……」
気にするなと言われても無理です……。
それから、お二人とお話をしながら店内を見て回りました。いくつか気になる物はありましたが、今まで好きな物を買うという経験をしたことがない私にはなかなか購入する踏ん切りがつきません。
いよいよ私の買う物を、私以外の二人で検討を始めています。
「今後のことを考えると、ドレスを何着か仕立てておいた方が良いですよね」
「そうですね。ご主人様もそろそろ社交界への参加を検討しているようですし」
「ど、ドレス!? 社交界!?」
次から次へと衝撃的な言葉がポンポン飛び出してきます。今ですら仕立ての良い服を頂いているのに、その上ドレスまで? しかもそれを着て社交界に出る?
ずっと質素な暮らしをしてきた私では、頭が追い付きません!
「は、はわわ……」
「おっと。申し訳ございません、プリメリア様。少々飛ばしすぎましたね」
頭の中がグルグルして、ふらつきそうになった私をヘリオトロープさんが支えてくれました。私にもその冷静さを分けて欲しいです。
「ありがとうございます、ヘリオトロープ様。私が支えるべきでしたね」
「今は私もプリメリア様を任された身ですから。……フフ、私のご主人様と違って可愛らしい方ですね」
「クスッ、それはご主人様が可哀想では? 確かにヘリオトロープ様が一番苦労されたでしょうけど」
「え……?」
苦労した? させられた? 誰に?
頭の中に疑問符を浮かべていると、それが顔に出ていたのかヘリオトロープさんが私の方を見てクスリと小さく笑いました。
「プリメリア様は、未だご主人様に対して緊張されているご様子。ですので、
「ぜ、ぜひお願いします」
未だ会話どころか、まともに目も合わせられていません。クラウト様の専属メイドからの助言なら、千金にも
「あの方は王子様などではございません」
「え?」
一瞬何を言われているのか理解できず、面食らってしまいます。だってクラウト様は、まるで物語の王子様のような素敵な方で……。
「物語の王子様のようだと思われる気持ちはわからなくはありません。……昔のご主人様を知らなければ(ボソッ)。ですが、あの方の本質は真逆と言って良いでしょう」
「そう、なのですか……?」
途中で何か呟いた気がしましたが、声が小さすぎて全く聞こえませんでした。何より、言われた内容が衝撃的すぎて気になりません。
「ただ泥臭く、ただ愚直に、望む結果を掴むために
そう言われて、初めて会った時に手を握られたことを思い出しました。
それまで異性の手に触れたことすらなかったのでわかりませんでした。ですが、クラウト様の手のひらはゴツゴツとして、とても硬かった気がします。
最後に、ヘリオトロープさんが口の前に右の人差し指を立ててイタズラっぽい表情を浮かべました。
「色々お教えしましたが、これは本人には内緒ですよ。
「…………」
クールな大人の女性の茶目っ気たっぷりな仕草に、思わず見惚れてしまいました。