「今日からお前の妹になるプリメリアだ。よく面倒を見るように」
「…………」
「…………」
目の前には、かつてゲームのCGで見たものと全く同じ光景。そしてゲームで見るよりも遥かに美しく
肩口で切り揃えられた、ふんわりと柔らかそうな桜色の髪。白磁のように白く滑らかな肌。パッチリと大きいはずの、やや垂れ気味の目が今は伏せられている。
実に感無量だ。転生してから約三年、今日この瞬間のためだけに努力をしてきた。今までの出来事を思い出すと、こみ上げてくるものがある。
だけど、一つだけ言わせてほしい…………先に言っとけや、クソ親父!!
◇
その日は朝から軽く鍛錬をした後、執務室で書類に目を通していた。なぜなら俺は今、ヴェルトハイム公爵領の代官を務めているからだ。
一年前の孤児院の件から始まった不正役人どもへの
ちなみに、両親に代官の仕事を任せて欲しいと頼んだ時は感涙していた。
自分で言っておいてなんだが、それでええんか? 俺まだ十代前半やで?
まぁ王都に入り浸りで滅多に領地に帰ってこないし、あんまり領地運営に興味ないんだろうな。金だけ送ってくれれば好きにして良いって言ってたし。いずれ打ち切ってやるけどな。
そんなわけで、いつも通りヘリオトロープに手伝ってもらいながら代官の政務をこなしていると父が突然帰ってきたのだ。初対面だけど、よく知っている美少女を連れて。
いや、時期的にはもうそろそろかなとは思ってたよ?
でも、まさか養子を取るのに事前報告すらないとは思わないし、前触れなしに突然帰ってくるとも思ってなかったわ!
報・連・相、大切。……とはいえ、仕事もせずに毎日パーティ
◇
回想終了。
プリメリアの方はというと、顔を伏せて俺と目も合わせようとしない。何とも気まずい空気が流れている。
いかん! 元オタクとして、義兄として、この空気をどげんかせんといかん!
この時のために、ちゃんと女性との接し方も勉強してきたのだ。ちなみに教師は困った時のセバスチャン先生。あの人の経歴が気になって仕方がない。
意を決してプリメリアの前に立つ。そのまま
手が小さ~いとか、赤面した顔が可愛えぇ~とかニヤケそうになるが自重。
あくまで親戚の子どもを
気を取り直して、俺にできる精一杯の爽やかスマイルを意識して挨拶をする。
「初めまして。クラウト・フォン・ヴェルトハイムと言います。何か困ったことがあったら何でも相談してほしい。今日から兄妹になるのだから」
そう言うと、プリメリアは一瞬驚いたようにこちらを見た。そしてすぐに目を
「…………プリメリア、です。よろしく、お願いします」
と、鈴の音のような綺麗な声で
◇
無事(?)自己紹介も終わり、父は早々に王都へと帰って行った。馬車で日帰りできる距離とはいえ、視察すらせんのかい。
後に残されたのは俺とヘリオトロープ、そして不安そうな表情を浮かべて立ち尽くすプリメリア。
仕事は山積みだが、まずは
「ヘリオトロープ。セバスチャンに言って彼女の部屋と、歓迎の宴の準備を。俺は屋敷の案内をする」
「まだ政務が残っておりますが?」
「今のところ、急を要するものはないから後回しで良い。代官は代わりがいるけど、兄は代わりがいないからな」
「……上手いことを言ったつもりかもしれませんが、お寒いですよ」
「お寒いですよ」
ハイ、ゴメンなさい。俺はウジ虫です。
「…………」
ふと視線を感じたので顔を動かすと、プリメリアがまた驚いた顔でこちらを見ていた。目が合ったのでニコッと笑いかけたら顔を逸らされた。ヘコむ。
というかさ、ゲームのクラウトと違って嫌がらせも何もしてない状態でこの反応って……もしかして俺、嫌われてない?
今思えば、初対面でいきなり手を握るのって完全にセクハラなのでは……相手がまだ十一歳の子どもだから深く考えてなかったけど。いや、現代日本で同じことをやったら完全に事案だな。防犯ブザーが火を
もっと考えてみれば、この世界は中世ファンタジー。今の年齢でも、すでに婚約者がいることだって珍しくない……つまり、幼くとも立派なレディ!
またオレ何かやっちゃいました? というより、完全にやらかしちゃいました!
まさかの最初から