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16. 今の俺はしなびたレタスです

 あー疲れた。


 俺のウォーター居合(※俺命名)は一本に必要な水の量は少ないけど、連続するとさすがに魔力が心もとない。継戦能力は今後の課題だな。

 投降した連中は、騒ぎに気付いて集まってきた衛兵たちに預けておいた。まぁ今日だけ生き延びたところで、いずれ法にのっとって仲間の後を追うことになるのだけど。


 ただ、半分近くが投降したのは意外だったな。まぁ暴走バーサクモードのヘリオトロープはかなり怖ろしかったからね。さもありなん。

 ハイ、ゴメンなさい。何も考えていないので、太ももをつねるのをやめていただけないでしょうか。

 それとラプスさんや。なぜうらやましそうな顔をしているのかな? つねりたいの?


 今は帰りの馬車の中。行きは向かいの席に座っていたはずの二人が、今はなぜか俺を挟んで両隣に座っているものだから落ち着かないことこの上ない。

 この馬車、四人乗りだよ? 片側二人計算なんだよ? 女性二人&子ども一人といえどキッツキツやぞ。

 無理矢理押し込んだら、それはシンデレラフィットとは言わないと思う。


 ……などと馬鹿なことを考えてないとマジでヤバイ。両隣の美女メイドの感触が柔らかいとか、体温が心地良いとか、良い匂いがするとか考えたらダメダメダメダメメメメmmmm(思考回路はショート中)。


 ――――ハッ!? 一瞬、意識が飛んでた!?

 とりあえず黙ってたら煩悩ぼんのうが無限湧きしそうなので、会話で意識を逸らそう。


「二人共、今日はありがとう。おかげで俺の目的を果たすことができたよ」


 色々とののしられていた気もするが、最後には領民から歓声が上がっていた。少なくとも、これまでのクラウトとは違うという所を示せたと思う。


「全てはご主人様の努力の成果です。ですが、大変なのはむしろこれからですよ」

「ああ、わかっている。今日の出来事はあくまでスタートだ」


 さすがヘリオトロープは冷静だな。俺はこれから領民の信頼をコツコツと積み重ねていかねばならない。信頼を得るのは大変なのに、失うのは一瞬だからな。


「クラウト様なら大丈夫です。領民の皆様も、いずれクラウト様の慈愛の御心を理解されることでしょう」

「あ、あぁ……ありがとう」


 何だろう、日に日にラプスの俺に対する信頼が重くなってる気がする。むしろ信仰心すら感じるような……まさか新たな宗教とか立ち上げないだろうな?

 あと真横に距離が近すぎて、三人がまっすぐ同じ方向を見て会話する今の状況は異様だと思います。


 馬車がガタガタと揺れながら公爵邸へと道を進む。サスペンションもない馬車で石畳の道を進むのだからとても揺れる。

 けれど、身体に優しくないこの揺れが今はありがたい――手の震えをごまかせるから。


 今日の計画は思った以上に上手くいった……誰にも言っていない、もう一つの計画も含めて。

 孤児院を再建し、腐敗役人と破落戸ごろつきを排除し、領民の俺のイメージを一新した。


 そして……初めて人を斬った。


 この世界は簡単に人の命が失われる。力がなければ、何も、誰も守れない。

 いつか誰かを守るために人を斬る必要があるかもしれない。躊躇ちゅうちょしてしまえば、その誰かを失ってしまうかもしれない。

 だから人を斬る経験をしておく必要があった。いつか大事なものを失わないように。


 隠し通せたと思ってたんだけど……気付かれてるんだろうなぁ、横の二人には。

 わざわざ帰りだけ俺を両隣からサンドウィッチしてるのが良い証拠だ。今の俺はしなびたレタスに見えているのだろうか。

 ……ま、いっか。ここは大人しく二人の好意に甘えておくとしよう。


 義妹が来るまで約一年――――さぁ次は何をするべきかな。

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