将軍様でも圧倒的な数の暴力には勝てなかったよ。
「嘘だろ!? アレが、あのヴェルトハイムのバカ息子なのか!?」
「あのオークが人間に……もしかして人間とオークは同じ種族だった?」
「偽物じゃないの? ……全く似ても似つかないけど」
「ちょっとお姉さんの家に来ない? 大丈夫、何もしないからハァハァ」
すげー。仮にも公爵家の坊ちゃんに対して、実に言いたい放題である。あと、何となく身の危険を感じたのは気のせいだろうか?
見物人たちから次々と飛んでくる
なぁに、後ろに控える美人メイド二人から発せられる殺意の波動に比べれば、俺の怒りなんてさざ波みたいなものです。何で罵倒されてる本人より激おこなんだろう?
いや、そもそも狙い通りの展開だから怒るこっちゃないんだけどね。
◇
悪役令息改造計画における最大の難関、それが
商業に依存しているヴェルトハイム公爵領は特に貧富の差が大きく、あまりにバランスが
領民からの人望のなさは、いつか必ず自分に降りかかってくるはずだ。
このままでは、ゲームのストーリーより前に領民からバッサリ
そのための計画が、この「劇的なビフォーとアフターでイメチェン計画」である。なんということでしょう、やっぱりネーミングセンスがない。
デルハイデは慈善事業の予算からかなりの額を自分の
慈善事業は俺を責任者として、ナードという商人に事業を委託する形にした。言うまでもなくナードの正体は俺。つまり茶番である。
着服した金を奪われたデルハイデは、ナードと孤児院が結託して資金を着服していたと
他にも何人かの家臣や役人に罠を仕掛けていたけど、コイツが真っ先に引っ掛かった。情報操作もお手の物な万能執事セバスチャン、良い仕事してますねぇ。
そしてこの計画のクライマックスは、横領犯を断罪すると同時に生まれ変わったクラウトを多くの領民に見せつけること!
今までクラウトが積み重ねてきたものは非常に大きい……悪い意味で。これを
だからこそこの二年弱は街にも出ず、慈善事業も偽名で進めてきた。全ては今日この時のため。
記憶を上書きするには、やはり重要なのは圧倒的なインパクト。見た目と行動、二重で衝撃的な
そう、あのブクブクと肥えきった悪役令息は死んだんだ!
◇
「ナードの正体は俺だよ、デルハイデ。こうすれば良からぬことを考える連中が釣れると思ってね。案の定、お前はここにいるだろう?」
「そ、そんな……」
顔色が悪いを通り越して、
「一度目は財産の没収で済ませたが、今度は覚悟しておくことだな。次期公爵家当主クラウト・フォン・ヴェルトハイムの名に懸けて、お前たちの
でも、容赦はしない。さっきのコイツのセリフを引用してさらに
……おや!? デルハイデの ようすが……!
「……このクソガキが、言わせておけば調子に乗りおって! こうなったら痛い目を見せて私の
迷惑系ガキンチョに煽られてブチ切れる老害。社会のイヤな縮図がここにある。
「お前たち、このガキを死なない程度に痛めつけろ。女たちは好きにして構わん」
コイツら、周りに大勢の目撃者がいるってわかってんのかね。いくらなんでも言い逃れできへんで?
「ハッハー! 最初からそうすりゃ良かったんだよ!」
「へっへっへ、今日は寝かせないぜェ!」
デルハイデの指示で、ニヤケ顔のチンピラ共がぞろぞろと近づいてきた。醜い顔してるだろ。人なんだぜ。それで。
まぁともあれ、
「おいクソガキ。公爵家のボンボンだか何だか知らねェが————ぁ?」
一人のチンピラが威圧的な態度で俺の目の前に立つが、最後までセリフを言うことはできなかった。
なぜならもう――――斬っている。
ズルリと。チンピラの上半身が落ち、血の池が地面に広がっていく。一拍遅れて、何が起きたか理解した見物人たちから次々と悲鳴が上がる。
デルハイデやチンピラ軍団も混乱しているようで、視線がさっきまで生きていた
「な、何をしやがった!?」
「見ればわかるだろう? 斬って、殺した。それだけだ」
「な、な、何てことをしやがる! 公爵家だからってこんな横暴が許されると思ってんのか!?」
一際デカい、リーダーらしきチンピラが俺を非難する。いい質問ですねぇ。
「もちろん。例え公爵家だろうと、罪もない人を斬って良い道理はない」
「だったら――――」
「君たちは罪もない人かな?」
目と言葉に力を込めてチンピラリーダーの言葉を
「色々やってきたみたいだね。強盗、傷害、窃盗、詐欺、婦女暴行、それに殺人……調べはついているし、証拠もある。俺には罪のない人を斬る権利はないけど……罪人を裁く義務はある」
罪なきチンピラを斬り殺せば、悪役令息を通り越してただの暴君だ。イメージアップどころか、落ちすぎて
だが、重罪人であれば俺が裁くことができる。いや、裁かなければいけない。
調べてくれたのはもちろん、万能執事セバスチャン様。デルハイデと繋がりのある連中の情報を洗い出してくれました。
いやホントもう、あの人には足を向けて寝られません。帰ったら、ベッドの向きを確認しておこう。
とりあえず刀を
「さて、君たちには選択肢がある。大人しく捕まるか、それとも
ちなみにおススメは後者です。なぜなら、今までの