的の前に立ち、意識を集中させる。
左手で
目の前にある的は、大の男の一抱えもあるほど太い丸太。上手く刃筋を立てなければ弾かれてしまうだろう。
深く息を吐き、深く息を吸う。そして、
「フッ――――!」
刀を鋭く抜き放つ。それと同時に
噴出される水流をコントロールしつつ薄く刀身に
横なぎに両断された丸太は、下半分はそのままに、上半分は鈍い音を立てて地面に落ちた。
「「「おぉ!!」」」
見物していた使用人や騎士たちから歓声が上がる。拍手をしている者もいる。
何だか気恥ずかしくなって頬を
「お見事です、ご主人様。ようやく居合が形になってきましたね」
「ありがとう。ヘリオトロープが手伝ってくれたおかげだよ。それでも一年以上かかったけどね」
◇
俺がクラウトに転生してから二年近くが経過した。
あれから一年……に間に合わせたかったけど、転生して一年の頃に俺がやってたことはひたすら勉強と素振りとダイエットだけからね。クソゥ!
水魔法による高速居合、それを完成させるのは大変だった。いやもう大変なんて
もう大変という言葉がゲシュタルト崩壊しそうなくらい大変の連続だった。
水を高圧で圧縮し、圧力解放後に水流に指向性を持たせ、全方位に弾け飛ぼうとする水を刀身に纏わせる。物理法則に両手の中指を立てながら舌を出すような現象だが、これを実現するにはかなり
何せ刀がぶっ飛んで行ったり、弾け飛んだ水で全身びしょ濡れになったり、力のベクトルが変なことになって肩が外れたりしたからな。毎日ヒドイ目に遭えば、そりゃ必死にもなるわ。
魔法の制御力を上げるために、公爵家のだだっ広い庭園でコツコツと植物に水をやり続けた甲斐があった。
庭園に植えられている色とりどりの植物は、それぞれ育成方法が異なっている。そのため与える水の量も繊細に変えなければならず、俺にとって良い練習になった。ついでに庭師とも仲良くなった。
異世界転生して、魔法の訓練のために人間ジョウロと化したヤツはなかなか珍しいのではないだろうか。
余談だが、この二年の間にヘリオトロープとも結構仲良くなれたと思う。
俺の剣の指南役である彼女だが、未だに俺の専属メイドも続けてくれている。奴隷契約は解除しているので、毎日のように叱られたり罵倒されることもあるが……あれ、本当に仲良くなったのか自信がなくなってきたぞ?
それでも、たまに笑顔を見せてくれることもあるので、少しは信頼してくれてると思いたい。冷たい目で見られることの方が圧倒的に多いけどな。
しかし、元から美人戦闘メイドのヘリオトロープだが、この二年ほどでさらに美人度が増した。モデル並みのスラっとした長身、細身でありながらも出るとこは出て……いかん、殺気が!
今が十六、七歳くらいだし、まだまだ綺麗になっていくのだろう。この間、領地に帰ってきた父も鼻の下が伸びていた。オイやめろ、息子の専属メイドに色目使うんじゃねぇ!
ちなみにこの世界、例のごとく中世ファンタジーのお約束で一夫多妻が可能である(一妻多夫も可)。俺の父も、正室である母以外に側室や
ヘリオトロープには、もしも父から誘われても俺の名前を出して断っていいとは伝えてある。彼女の腕っぷしなら無理矢理どうこうはできないだろうが、一応は現役の公爵だからな。返り討ちでもしようものなら、色々ややこしいことになりかねん。
それを伝えた時のヘリオトロープが妙にしおらしい様子だったのが印象的だった。
◇
そして皆様。お待たせいたしました、お待たせしすぎたかもしれません。
苦節二年、本当に長かった。ツラかった。何度も
ついに……ついに……ダイエットに成功しました! ドンドン、パフパフ~(口で)!
痛みに耐えてよく頑張った! 感動した!
……テンションがおかしい? ハイ、自覚はあります。
でもしゃーないやん、体積が冗談抜きで半分くらいになったんやで!
今の俺は貴族らしさが溢れ出るシュッとした銀髪イケメン。このキャラデザなら敵キャラとして使い潰されることもなかっただろうに……クラウトお前、何でもうちょっと頑張らんかったんや!
あ、制作陣の都合ですか。ですよね。
さて、難敵であるダイエットは終わった。オリジナル居合も形になった。そろそろ次の段階に移ろうじゃないか。
悪役令息改造計画、第二章だ。