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9. 抜〇斎も驚きの新感覚居合術?

 突然だが、この世界の魔法について話をしたいと思う。

 この世界に住む、おおよそ全ての人が魔法を使うことができる。ただし、魔法のみで生計を立てられるような人間は思いのほか少ない。

 その原因は二つ。「魔力量」と「魔法適性」だ。


 魔力量は読んで字のごとく、その人の持つ魔力の量である。魔力量の多寡たかは才能であり、生まれた瞬間にほぼ決まる。

 身体の成長とともに多少増える可能性はあるが、大きく変わるものではないらしい。


 それに対し、魔法適性はその人に適性のある魔法属性のことだ。適正外の魔法を使おうとすると、消費魔力が増えすぎて発動すら難しくなる。

 ほとんどの人は四大属性と呼ばれる火・水・木・土のどれかだが、他にも光や闇などの希少属性が存在する。


 この二つは貴族・平民問わず、七歳以上であれば誰でも教会で調べてもらうことができる。

 もちろん公爵家の跡取りであるクラウトは七歳になってすぐに調べてもらった。魔力量は中の下、魔法適性は水だ。普通って言うなー!


 これがファンタジー小説のチート主人公なら「水槍ウォーターランス!」だの「水龍ウォータードラゴン!」だの撃ちまくって無双できるだろうが、魔力の少ない俺では無理。

 水をゼロから創るのって意外と魔力消費が激しいのに、水の龍なんざ創れてたまるか。せいぜい、水の球をぶつけて相手をびしょ濡れにするくらいだ。

 あ、そういえばゲームでもやってたなコイツ。


 ちなみに『剣と魔法と花冠はなかんむり』の主人公は、魔力量が上の上、魔法適性は全属性である。その才能、半分でいいから売ってくれないかな?


 長々と語ったが、まぁ要するに俺は剣だけでなく魔法も才能がないということだ。

 だが才能がなかったとしても、俺は強くならなければならない。剣も魔法も前世の知識さえも、使えるもの全てを組み合わせて何かできることがあるはず。ずっとそれを考えていた。


          ◇


「イアイ、ですか?」

「そう、居合」


 修練場でヘリオトロープと向き合う。彼女の手には訓練用の木剣。俺の手には先ほどゲットした刀が握られている。


さやに入った刀をただ速く抜き放って斬る。ものすごく簡潔に言うと、そういう動作だね」


 本家本元の居合とは色々異なるだろうが、重要なのは一つの動作を突き詰めることだ。

 ただ速く抜き、ただ鋭く斬る。不器用な俺にできるのはそれしかない。「隙を生じぬ二段構え!!」など夢のまた夢だろう。


「それは……実戦に使えるとは思えないのですが」


 ヘリオトロープの懸念けねんももっともだ。何しろ当の本人(俺)ですら、本当に使えるかどうかわかってないからな!

 イメージすら完全にフィクション任せ。専門家が見れば激怒間違いなしである。


「まぁまぁ。使えるかどうかは試してみればわかる。恐れずしてかかってこい!」


 左手で鯉口こいくちを、右手でつかを握る。左足をやや後ろに下げて、軽く腰を落とす。

 為せば成る為さねば成らぬ何事も、という言葉もある。この異世界に居合というものが(多分)ない以上、自分でやってみるしかないのだ。

 迷わずカミナリ一閃、つまらぬものをおろろと斬るのみ!


「恐れなど毛ほどもありませんが……では、参ります」


 メイド服(しかもロングスカート)とは思えない鋭い踏み込みで斬りかかってくる。上段からの振り下ろし!

 グッと全身に力を込める。そして、


「「あ」」


 水圧で一気に鞘から飛び出した刀身は……俺の手からも飛び出し、すっ飛んで行った。抜○斎も驚きの新感覚居合である。


「あべし!!」


 そして脳天に強烈な一撃を食らい……そのまま意識がブラックアウトした。

 後から思えば、なぜ練習もなしにいきなり実践しようと思ったのか。まぁ……初めて刀を持ってテンション上がってたんだろうなぁ。

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