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悪役令息は義妹を攻略したい!
ROM
異世界ファンタジー内政・領地経営
2024年11月28日
公開日
113,802文字
連載中
転生した俺は、自分が『剣と魔法と花冠』——RPG要素をふんだんに盛り込んだ男性向け恋愛ゲームだ――の悪役令息(死亡確定)であることに気づく。
死亡確定キャラへの転生に絶望しかけたが、ふと重大なことを思い出した。この悪役令息の義妹こそがメインヒロインの一人であり、前世での最推しキャラだったことに!
推しを幸せにしたい——ただその願望のためだけに自分を磨き、領地を改革し、愛妹を溺愛する!
さらには、他のヒロインたちをも惹きつけることとなり――果たして死亡確定の未来を変え、義妹を幸せにすることはできるのか!?

プロローグ

「ずっと――あなたの隣に寄り添ってもいいですか?」


 桜色の髪を風になびかせ、瞳の端に薄っすら涙を浮かべながら、可憐な少女が問いかける。

 少年は微笑み、ただ優しくその華奢きゃしゃな体を抱きしめる。

 そして二人は見つめ合い――――、


「あーやっぱ良いわぁ、理想の妹系ヒロイン……推せる!」


 エンドロールを全スキップしてタイトル画面に戻った瞬間、大きく伸びをする。

 画面には『剣と魔法と花冠』と書かれた華やかなロゴ。最近、俺がドハマりしているゲームのタイトルだ。

 剣と魔法と花冠はなかんむり――それは王道のRPG要素をふんだんに盛り込んだ、男性向け恋愛ゲームである。


 舞台はベッタベタな中世ファンタジー世界。平民ながら魔法の才能を開花させた主人公が名門の魔法学園に入学するところから物語が始まる。

 主人公は、この学園で王女や貴族令嬢、聖女などのヒロインと出会い、様々なイベントや事件を乗り越えながら絆を深めていくのだ。うむ、王道。


 ゲームシステムは基本的にRPG仕様で、デフォルメされた主人公がマップを移動してヒロインに会いに行くと会話やイベントが発生する。

 よくよく考えると、色んなヒロインに会うためにマップをあちこち動き回る主人公はどう見てもプレイボー……いや深く考えてはいけない。


 また、マップ移動により盗賊やモンスターなどと遭遇し、戦闘パートに突入することもある。

 その時はヒロインたちとパーティを組んで戦うのだが、戦闘パートでも好感度の変動が発生するのはさすがは恋愛ゲームと言うべきだろうか。


 このように主人公の行動によってストーリーの展開が変わるため、なかなかボリュームがスゴイ。

 各ヒロインにEDが三種類以上、CGまでフルコンプするのに結構な時間がかかった。制作スタッフには心からお疲れ様ですと言いたいね。


 よく言えば王道、悪く言えばベタなゲームだが、王道好きつキャラ重視派の俺にはブッ刺さった。何せヒロインたちが皆、俺の好みど真ん中だったからなぁ。

 主人公は……うん、まぁ嫌いではなかったよ。


 その中でも特に、ついさっきまで攻略してた妹系ヒロインはドンピシャだった。

 清楚で可憐、おまけに奥ゆかしい妹系ヒロインで「いかにもオタクが好きそうだよね、ププw」などと言われるかもしれないが……その通りだよ! 何か文句あるか!

 お気に入りすぎて、十回以上は周回プレイしてしまったから何にも反論できねぇ。


 全てのEDを見るのに二週間、CGをコンプするのにプラス一週間かかったのに、おまけの周回プレイで三徹もしちゃったからな。

 我ながらアホの所業である。通ってる大学が長期休暇中じゃなかったら詰んでたな。バイトは週一の家庭教師のみ、学費も生活費もほとんど親のすねをかじりまくってる身でさすがにそれはアカン。


 友達も恋人も二次元にしかいないオタぼっちゆえ、気軽に「休んでる間のノート見せて(テヘペロ)」とか言える相手などいないのだ。


 しかし、あの妹系ヒロインが最高に好みだっただけに、悪役キャラとして登場した兄の方は最悪だったなぁ。

 公爵家の跡取り息子である兄は平民である主人公を目の敵としており、ことあるごとに邪魔してくるので非常にウザったい。

 最も許せないのは、幼い頃から妹を虐げてきたというエピソードだ。あんな可愛い妹に手をあげるなど万死に値する。


 とはいえ、どのヒロインのルートでも必ず中盤にバカ兄と戦うパートが発生して、百パーお亡くなりになるんだけどな。

 ちなみにゲーム実況動画を見ると、バカ兄との戦闘パートに入った途端に「人誅」の文字で埋め尽くされる。嫌われすぎだろ。


          ◇


 ゲーム機の電源を落とし、掲示板やSNSを軽くサーフィンする。

 SNSに「ゲームで三徹なう(死語)」と呟いたら、フォロワー共から「アホがおるw」「早く寝ろ」とリプがきた。はい、正論ですね。

 さて、正論パンチを食らったのでそろそろ寝ようかと思ったところで、テーブルに無造作に投げられた一通のハガキが目に入った。

 あぁ、そういえば電気代の引き落としができてなかったんだっけ。


 すぐに電気を止められるとかじゃないけど、こういうのは気付いた時にやっておかないと忘れるんだよなぁ。仕方ない、寝る前に口座に入れておくか。

 電気のないオタクなどあまりにも無力。顔が濡れてしまった、愛と勇気だけが友達の食品ヒーローのようなものだからな。


 外出用のジャージに着替え、財布とスマホをポケットに入れる。髪型を整えるのは面倒なので、軽くブラシだけ通してアパートを出る。うおっ太陽がまぶしっ。

 俺の住むアパートから、道路を挟んで向かいにある大手コンビニチェーンへと向かう。ジュースにカップ麺にATMまである、不規則な生活を送る人間の強い味方だ。


 ちょうど歩行者用信号が赤に変わったので、横断歩道手前で待機する。ここは交通量が多く信号が変わるのが遅いので、ちょっとタイミングが悪かったな。

 季節はもう夏真っ盛り。まだ朝と言って良い時間なのに蝉の声がかなりうるさい。汗がダラダラ出てくるし、道路の表面が薄っすらとゆらめいているように見える。

 この暑さは、三徹の身体にはちょっとこたえる――――


「――――ぁ」


 視界がぐらりと歪み、平衡感覚がなくなる。けたたましいクラクションが聞こえた瞬間――――俺は意識を失った。

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