メルトペンギンには王様がいる。
どんな時でもどっしりと落ち着いた、カッコイイ王様が。
「ふむ。今日もまた絶好の落下日和だ」
そう言いながら降ってくるのは頭に緑色の王冠を被ったメルトペンギンの王様、ロメロ様だ。
「風が心地好いな。どれ、ゼレフの町の様子を見るとしようか」
ロメロ様はふわふわと地上へと降りていき、その手に持った杖をつきながら地上を歩き始めたのだった。
「やれやれ。最近の若いメルトペンギンはすぐに溶けてしまっている。情けないのォ」
あたりには既に溶けてしまっているメルトペンギンたちが頭だけ残してこちらを見ていた。
「よいか?気を強くもてばそれだけ身も引き締まるというもの。カチコチに引き締まった身体は簡単には溶けはせんよ」
既に聞こえていないであろうペンギンたちにもありがたい小言を言って回るロメロ様。
「溶けてしまいおったか……」
しかしやはりもうメルトペンギンたちは跡形もなくなってしまった。
「おや、人間か」
ロメロ様の視界には1人の人間が映った。
「あぁあぁ、食べられておる。メルトペンギンはそう易々と喰われてやるものではないぞ……」
大半のメルトペンギンたちは食べられることを好むが、このロメロ様はメルトペンギンの一族は高潔であるべきで人前に姿を現すこと、ましてや喰われてやることなどは好ましくないと思っている。
「じゃが……もうそんな時代でもないんじゃろうな。人間と友好的に生きる若いメルトペンギンたちの方が、王に向いているじゃろう……」
ロメロ様……そんなことはありません。
「おヌシもわしなんかに付き添うことはないぞグレイよ……」
ロメロ様が私にお優しい言葉をかけてくださった。しかし私がロメロ様の許を離れることなど考えられない。
「……ふむ。それがおヌシの望みなら止めはせんよ」
そう言うとロメロ様は颯爽と歩き出した。
「行くぞ、グレイ。我らはただこの町を厳粛に見守るのみ」
そうしてまたロメロ様は、溶けるまでゼレフの町を見守りながら歩き回った。
私はただロメロ様の行く道に従うのみ。この美しい町を守るロメロ様こそが紛れもなくメルトペンギンの王であり、私の主君なのだから。