シスと共に繰り広げた演劇の反応を確認したのだけど、いい感じじゃない?結果によってはもう一芝居打たないといけないかなとも考えたけど、その必要はなさそうね。
魔王と共に封印された神の最後に悲しんでいる者もいれば、魔王という脅威が消えた事に喜ぶ者、私が与えた神の祝福の影響で跳ね上がった身体能力に戸惑う者、神を助けるぞと意気込む者、本当に様々な考えね。
魔王という脅威は消えたけど、魔界の扉をくぐって現れたという設定のモンスターたちは消えていないのよ?その事実をちゃんと認識している者はいるのかしら?
シスと一緒にシナリオを演じきったしちゃんと理解している事を祈るわ。神の救いが望めない以上、これからは先は定命の者自らが立ち上がらなければならないという事。
私の手助けはこれにておしまい!モンスターの弱体化とかの調整は行うけど、何かあっても助けるつもりはないわ。英雄に育てる予定のケイト以外は⋯ね。
「モンスターに勝てそうな存在は⋯ちゃんといるわね」
神の祝福として身体能力の強化を行っている。そのお陰で以前のようにモンスターに一方的にやられる事はないと思うわ。それでも、殆どの定命の者は一体一ではモンスターに勝てない。身体能力の強化は魂の大きさや輝き比例するから、限界まで強化しても定命の者の強さが同じになる事はない。凡人はどれだけ強化しても凡人のまま、英雄と呼ばれる存在とは天と地程の差が生まれる。その差を縮めるには凡人が己の壁を越え魂を成長させるか、英雄の強化率を下げて凡人と同レベルに下げるしかない。
マナの供給量を考えればそんな真似はする訳にはいかないから、出来れば限界を超えるように頑張って欲しいわね。一応この世界にも何人かいる英雄の身体能力も限界まで強化している。この子たちなら一体一でもモンスターに勝てるわね。一部のモンスターは強めに設定しているから、厳しいかも知れないけど⋯それもまた試練ね。
「シス、それじゃあ予定通りモンスターの操作をお願いするわ」
「承知いたしました」
私が管理している世界の強化比率を参照にしたからパワーバランスは大丈夫な筈。強化された身体能力に慣れるまでは何人か犠牲が出るでしょうけど、モンスター側で調整しているからそこら辺は気にしなくていいわ。シスが操作する以上、大きな間違いは生まれない。
さーてと、後は任せてケイトの様子を見に行きましょう!世界全体の調整を優先してたからケイトの周辺がどうなってるのかが気になるのよね。念の為ケイトを殺さない、かつ大怪我を負わせないようにプログラムしてあるから放っておいても大丈夫。加えて英雄の魂を持つシャウトバードもいたからケイトは大丈夫な筈なんだけど⋯なんで、そのシャウトバードに土下座してるのかしら?
「弟子にしてください!!」
「コケぇーーーー!!」
「そこを何とか!!」
断られてる⋯けど、諦めずに懇願しているケイトを見ると違和感を感じる。あの子⋯シャウトバードの言葉が分かってるわね。何でかしら?そんな能力は与えていないのだけど⋯。
逆ね!ケイトではなくシャウトバードが脳内に言葉を飛ばしてケイトに伝えているのね。前世で彼に与えていた能力が『テレパシー』だったからその名残かしら?
流石は英雄と褒めるべきかしら?
それはともかくとして、ケイトは何でシャウトバードに弟子入りを懇願しているのかしら? 少し調べてみましょう。二人の関係性が進んでいるのならシナリオを変える必要があるわ。
『お願いしますお師匠さま!!』と叫びながら土下座し、その頭の上に乗ったシャウトバードが勝ち誇るように鳴いてる姿を見ながら過去ログを少し遡る。
「あー、なるほどそういう事ね」
神の祝福を与える前の段階でモンスターを唯一倒した存在がこのシャウトバード。ケイトは不運な事にモンスターと出会したみたいね。そして転生者として意気揚々と挑み、敗北。シャウトバードに助けられ⋯弟子入りする流れになったみたいね。私が
「逸脱者でありながら凡人の域を出ない⋯、あまりに歪ねケイト」
ケイトの魂は英雄と呼ぶには程遠い。凡人の域を出てすらいない。ど真ん中ね。THE凡人って感じ。能力を与えているから他の定命の者より強いけど、それでも圧倒的な訳ではない。
けど、英雄になるにあたって必要不可欠の素質は転生する前から兼ね備えていた。主人公に対する憧れ、特別にないたいという想い⋯総じて英雄願望。強い想いを持つ者だけが困難に立ち向かえ、限界を乗り越えて英雄へと近付く。
「さて、どうしようかしら」
本来の予定では身体能力が上がったケイトのレベルを確認する為にモンスターを仕向けるつもりだったけど、今のケイトでは話にならないわね。弱過ぎる。
困った事にシャウトバードに弟子入りしたとしてケイトが強くなる見込みはないのよね。あの英雄、自身が強くなる事だけに人生を捧げてきたから対人関係は絶望的に下手な上、人にものを教えるのが苦手ときた。どう考えても師匠には向いていない。
「師匠役を一人送りましょうか」
私がケイトの師匠役になるのもアリかしら? 技量に加えて『時を止める能力』の指南が出来るのは
それに現地側の視線で見ることによって分かる事もあるわ。神の視点だと細かい部分は見落としがちなのよね。私が操作する前提で創って⋯神の仕事をする時はオート操作で動くようにそれ用の人格を創るのはどうかしら。人格は私をベースにして、オート時も私と思考回路を繋げるようにしましょう。それなら目を離していても可笑しな展開にはならないわ。
「面白いシナリオも一つ浮かんだ事だし、ケイトの成長の為にやりましょう」
成長の助けをしてくれる師匠役。美しく優しい師匠は常に弟子であるケイトを気遣い時に厳しく時に優しく導く。そんな師匠が実は
それをやるとなると私ってバレるのは良くないわね。師匠役をするに当たってケイトを心配して私が指導しにきたってのが一番自然でケイトに不審がられないから良いかなって思ったけど、裏切り前提になるとナシね。
裏切るのをやめる? でもせっかく面白そうなシナリオ思い浮かんだからやってみたいのだけど⋯。悩むわね⋯⋯やりましょう!
私の部下って設定でいきましょう!私は神の仕事が忙しくて介入出来ない。けど、世界が変わった事でケイトが大丈夫か心配になった私が部下を送り込んだ。その部下が師匠役としてケイトを導き、最終的には裏切る。うん!いいわね!その流れでいきましょう。
見た目や能力なんかは既に思い浮かんでいたのもあって、直ぐに出来上がった。髪色は黒色で、サイドテールが特徴ね。目の色は⋯緋色にしましょう。 胸は小さめで、身長はケイトより頭一つ小さく。
気が強そうなツンツン系の顔立ちが好みだったかしら? いい感じね。師匠役だしケイトの好みの外見の方が都合がいいと思うの。服装は無難なものにしましょう。凝った創りにするとこの世界では浮くわ。
使える能力は『時間停止』系にしておくとして。敵勢力の幹部に相応しい強さに設定。人格は私からトレースっと。オート操作時と私のマニュアル操作時で言動の違和感がない方がいいから出来るだけ私に近付けましょう。
「これも付けておきましょう」
よし、これで完成っと!名前はなんて名乗ろうかしら?パッと思い浮かんだ名前でもいいのだけど、名前に意味を持たせたいわね。ケイトが気付くようにヒントを与える意味でも。
決めたわ。
さっ!ケイトの元に行きましょう!
───神の権限を発動し、ライアーを最寄りの町に送り込む。直接村に送ると⋯あの村は辺境過ぎて浮くのよね。出来るだけ違和感がないようにしたいから最寄りの町からやって来たみたい感じでいきましょう。
管理モードから幾つか操作を実行し、ライアーを
こうして世界に降り立つのは何時ぶりかしら? 見習いの頃や新神の時は世界の様子が気になって今みたいに世界に降り立っていたわね。慣れてくると眺めるだけで情勢が分かるようになったからしなくなったのよね。
「マニュアルモードだと少し不便ね。この方がケイトに色々教えやすいのだけど」
この身体では神の権限が使えないのが不便な点ね。誤操作が起きないようにこの身体では神の権限の多くを封印している。出来ることはオートモードとマニュアルモードの切り替えが出来る程度ね。誤って世界を壊さない為の配慮ってやつよ。神が思っている以上に世界は脆かったりするから、力加減や神の権限の使い過ぎで世界が壊れるなんて事もある。世界の情勢を確認しにくいこの身体では使わない方が得策。
私や
「いい風ね⋯」
神の世界では太陽の温もりを感じる事すらない。効率ばかりを求めたせいで無機質なものに成り果てている。こうして大自然の息吹を身体に感じるのもたまにはいいかも知れないわね。息抜きにもなるし。
ま、そんな時間がないのが悲しい現実ね。仕事が忙しすぎるから世界に降り立って自然を感じるなんて事を神はしないわ。それこそ時間の無駄だもの。
気を取り直してケイトが住む村へと出発進行!と歩み出そうとした時に背後から近寄ってくる足音が耳に入った。振り返れば、小太りの男が視界に移りその男は人当たりのいい笑顔を浮かべて私に声をかけてきた。
「旅の御方ですよね」
「そうよ。それが何か?」
「この町に訪れた理由を伺っても?」
私の事を怪しんでいる様子ではないわね。なんでこんな質問をするのかしら。そもそも町に訪れたつもりはないし、ケイトの元に向かいたいから出立するところだったわ。町から離れようとしてたのが分からなかったのかしら? 本当に意味が分からないわね。
能力として『読心』を与えておくべきだった。定命の者が何を考えているか分からないのは、少し怖いわ。
「この町は通っただけよ。近くの村に会いたい人がいるの」
「そうでしたか。もし、お時間があるのでしたら町を見て行かれたらどうかと思いまして」
「わざわざ私に言うって事はこの町に何かあるの?」
「ええ、そうです。この町は、そう!預言者様が!我らが指導者様が初めて予言を告げた町なのです!」
「そうなの?」
「そうですとも!指導者様の予言があったからこそ私たちの町は化け物の被害に合わなかった。そう!全ては指導者様の!何よりも!女神様のお言葉があったからこそなのです!」
急激にテンションが下がっていくのを自覚している。この町にも絡んでいるのね、女神教⋯。
「それで、私に何を言いたいのかしら?」
「旅の御方は女神様を信仰しておられますか?」
「⋯⋯いえ、」
「それは良くない!我らを!あの大魔王からその身を犠牲にしてまで救ってくださった女神様ですぞ!考えを改めた方がいい!そうだ!やはり私の勘は間違っていなかった!ここに迷える子羊がいましたぞ女神様!」
「⋯⋯⋯⋯」
「おっと!名乗りが遅れました!私は『神聖女神教』の支部長をしておりますコブトと申します。迷える子羊である旅の御方に!女神様の素晴らしさを知って頂きたくお声がけしました!是非私のお話を聞いてください!さぁ!」
───