───『女神教』、この宗教の始まりは今からおよそ500年前ね。フラスコは過去に一度だけ人類滅亡の一歩手前までいった事があるの。その原因が何かと、答えると大変言い難い事ではあるのだけど…
当時はあの子もまだ神見習いで右も左も分かっていない状態、私の仕事の補佐が主な作業だったのだけど、
今思い出しても頭の痛い話ね。私が管理しているのを間近で見ていたからと、自分でも出来ると過信したらしくフラスコを管理モードに移行して、感覚で適当に操作した。今になって思えばロックをかけなかった私も悪いわね。過ぎた話だからいったん置いて置きましょう。
結果何が起きたかと言えば、元々一つだった大陸が二つに分かれる程の大地震が起き、それに伴い大津波や火山の噴火が定命の者を襲った。あらかじめ世界にかけておいた
本来は
問題はその後なのよね。適当に操作した事で天変地異が起き大惨事となった
───そして絶望は空から飛来した。
天より現れたのは空を覆い尽くすほどの巨大な隕石。直撃すれば
突然起きた天変地異と死を具現化したような
タイミング良く私が帰ってきた事でそんな悲劇は起きなかった訳だけど…。全ては
空から飛来したら
私からすればロロがやらかした事の尻拭い…、事務的に世界を修復して今回起きて天変地異をできるだけなかった事にしようとしたわ。査定も近かったから大慌だったわね。
被害は少なかったとはいえ、少なくない定命の者が亡くなったから…その後の対応は大変なものになったんだけど…。
何が起きたロロを問い詰めて叱ったり一緒に始末書書いたりしてたから
迫り来る
神の奇跡だと誰かが口にし、それが大陸全土に爆発的に広がった事で神によって世界は救われたと定命の者は勘違いしたみたいね。
こうして
ロロがやらかした時以降は大きな事柄もなかったから、私が干渉する事もなかったのよね。他の世界に比べると同族同士の争いも少ない平和な世界だったから、基本的に放置で良かったから。信仰が薄れていったのはそこも関係しているでしょうね。
「で、事が大きくなったのはこの子たちのせいね」
何も無ければ神の存在が薄れ、信仰を捧げる者もいずれいなくなるはず。その真反対な事になっている大きな要因は私が
私の知らない内に
今は予言者と名乗り私が下した命令を実行する為に世界各地で噂を広めている。その過程で今まで虚ろとなっていた神の存在が再び表舞台に上がってきた。神は実在すると心の内に信仰を秘めた者が活気づいた訳ね。
そして神の存在を仄めかしていた予言者の一人の元に信仰心を持つ者が集うようになった。結果から言えば、私が送り込んだ人間モドキの一人が宗教の
面白いのはフラスコに送った
それにしても噂を広める為だけに生み出した人間モドキがここまでの自我を持って行動するようになるなんて。
確かに私が操作しなくても勝手に動けるように人格は与えたけど、それは所詮命令を実行させるプログラムのようなもの。魂を持たない
子が成長する過程を見ているようで嬉しい気持ちが半分、驚き半分といった所かしら?
「聞こえますか同士の皆さま」
先程町で見かけた集団と同じ装いの信徒の前で、美しい声で語る人間モドキの姿が見える。
外見的特徴が送り出す前と大きく変化しているわね。統一していた髪型や衣装なんかが変わっている。それでも素顔を見せるなという命令は厳守しているようで仮面に隠された素顔は見えない。
これにも少し驚いたわね。全て同じ外見で、同じ人格になるように創ったの。にも関わらず個性を出そうとしている。以前創った時はこんな事にはならなかったのだけど?
念の為確認してみればこの個体が特別という訳ではなく、全ての個体が同じように自我が目覚めているようだった。この世界に送った
名を与えましょう。
まずは信徒の前で演説を始めたあの子に名を与えましょう。特徴から決めるべきかしら?髪色は変化はなく、雪のように白い髪を長く伸ばしている。もう少しで足元に届きそうな程、長い髪ね。手入れが大変そう…。
他の信徒と違い赤いローブで全身を包んでいる。この宗教の共通衣装かしら?趣味が悪いわね。
私が創ったのもあって出るところは出ているし、引っ込むところは引っ込んでいる。私には負けるけどスタイルもいいわね。
顔に付けた仮面で他の子と違いを出そうとしているのか、デザインが全員異なっている。この子場合は口元以外を隠す白銀の仮面が顔の半分近くを覆っており、右目から涙を流すように青いラインが入っているのがオシャレね。
決めたわ。この子名前は『システムB1-
「女神様のお告げはもうまもなくです。この世界の裏側に存在する魔界の扉を開き、邪悪なる竜がこの地に舞い降ります。ですが、決して絶望する事も…不安に思う必要もありません。私たちの信仰は女神様に届いております。だからこそこうして私たちが女神様の遣いとして皆さまの元へと現れたのです。かつての天変地異の時のように女神様は必ずや、私たちをお救いくださります。
今は私たちの祈り…信仰を証明する為に共に祈りを捧げましょう」
「頭が痛くなってきたわね」
「シスを送り出すのやめようかしら?」
───魔王シス・テムエープラスが現れる事で予言が実現したと、女神教の影響力が増す未来が見える。信徒が増えればまた煩くなるわよね? 予想出来る未来に嫌気がするけど、対策がない訳でもない。信徒が増えるのは諦めて予定通り進めるのが一番かしら?
女神教の全容は分かった事だし、一度仕事に戻りまょう。もう少しで噂を流し始めて5年が経過するわ。タイミングよくいきましょう。
「管理モード終了」
フラスコの観察を止めると視界が元に戻る。何時もの仕事場の光景。部屋の隅には惰眠をむさぼるシスの姿がある。羨ましいくらいに寝てるわね…まぁ、羨んでも仕方ないことね。
「また増えてるわね」
ほんと少し世界を覗いていた間にまた机の上に書類が置かれている。まだ山のように高くはなっていないけど、放置しておけば山脈のようになるでしょうね。世界の変革はこの書類を片付けてからね。
「起きなさないシス。私の仕事が終われば貴方を送り込むわ」
───もう間もなく