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STORY1.主人公に憧れる者

 ここら辺で一度主人公らしく自分語りを挟んでみるのもいいかも知れない。聞いている奴はいないが俺のテンションが上がる!という事で隙あらば自分語り。隙を与えたのが悪いのさ。


 俺の名はケイト、『ノーソン』という村で生活する農民の一人だ。家族は4人構成で父と母と二つ年上の姉がいるごくごく平凡な青年さ。

 というのは仮の姿!誰も俺の本当の姿を知らない。そう!俺が転生者であるという事をな!




 ───全ての始まりは神との出会いだった。



 モノローグってこんな感じであってるよな?まぁ俺の自身の自己満足だし、そこまで気にしなくていいか。事の始まりは日曜日の昼間、ご飯を食べようと外出した直ぐの出来事だった。雲一つない天気のいい日に道を歩いていた際に急に辺りが暗くなったんだ。何が起こったんだと頭上を見上げてみればが直ぐ目の前に迫っており、気が付いた時には押し潰されていた。痛みも感じる間もなく死んだんだと思う。


 気がついたら俺は来た事も見たこともない部屋の一室にポツンっと立っていた。パッと見の印象は清潔感のある綺麗な部屋。山積みの書類や『ゴッド』と書かれた聞いたこともないメーカーのパソコンが、やけに印象に残っている。何処かの仕事部屋か何かかとその時は思ったな。ボーッとしているうちに迷い込んでしまったのかと。


 そんな考えも彼女を一目見た瞬間に吹っ飛んだ。あまりに綺麗な女性だった。

 最初に目に入ったのは左右の色の違う宝石のような瞳。右目が赤、左目が青のオッドアイ。

 左右の色の違うその瞳に見つめられた時、まるで心を見られているような錯覚をした。それだけ俺は彼女の美しさに見惚れていたのかも知れない。

 透明感のある白雪のような髪は思わず手に取ってみたいと、邪な思いが込み上げてくるほどに美しかった。長さは腰より少し長いくらいか? 首元で一つに纏めたその髪型が彼女に良く似合っていた。服装がレディーススーツだった事もあり、最初は彼女が神だとは思わなかった。神秘的な見た目をしていたが、服装があまりに現実的すぎた。


 ───彼女はミラベルと名乗り、俺に何があったかを説明してくれた。簡潔に言ってしまえば俺はミラベルのミスで亡くなったそうだ。俺をこの部屋に呼んだのは俺に謝る為、そして新たな世界へ送り出す為。俺が趣味として見ていた小説ラノベのような展開だなと、どこか他人事のように聞いていたな。

 普段から小説を読んでは俺ならこうしていた、なんて妄想をしていた訳だがまさか現実になるとは思っていなかったから仕方ない。


 ミラベルは自分のミスを何度も謝ってくれたが、俺からすれば待ち望んだ展開であり、むしろありがとうと言いたいくらいだった。家族との仲は良くなかったのもあって未練は特になかったしな。妄想が現実になる、最高じゃないか?

 唯一、親友に会えなくなる事だけは心残りだったけどそれでも胸の高鳴りを止める事は出来なかった。俺は、小説やアニメのような転生者になれるんだと。


  それから転生特典を貰った。ミラベルは加護と読んでいたか? 色々と提案してみたが神の領域に踏み込むようなモノは与える事が出来ないと断れ、最終的に『時を止める能力』を貰った。いやいやいや、時を止めるのも神の領域に踏み込んでいないか? 本当にいいの?なんて何度も確認されて少し心が揺れたけど、その能力にした。『時を止める能力』なんてチートを代表する能力だ。敵や味方⋯どちらのサイドにその能力の使い手がいても強キャラとして扱われていたな。

 俺の場合は1秒しか時を止められないそうだが、要は使い方次第って事だろう。俺なら使いこなせるという謎の自信に溢れていたな。


 最後に記憶を保持するかどうかを問われた。当然、記憶は保持する方を選んだ。ミラベルが消した方が前世の記憶に引き摺られないから、馴染みやすいと教えてくれたが断った。記憶を消したらそれこそ転生者じゃないからな。

 俺は前世の知識を持って、チート能力を使って俺TUEEEEってしたいんだ! そんな強い意気込みと共に俺は新たな世界へと旅立った。


 というのが転生までのあらすじってヤツだな。幼少期に関しては下手に記憶があるせいで辱めを受ける羽目になったとだけ答えておこう。肉体が実際に赤ちゃんとはいえ、精神年齢は19歳を超える。赤ちゃんプレイは俺にはハードすぎたぜ。

 ある程度大きくなって自分の足で歩き回り、喋れたりする年齢になるとこの世界の事が分かってきた。ミラベルが気にかけていたように使う言語や価値観が違ったな。確かに下手に知識があるせいで覚えるまでに時間がかかったと思う。同年代に比べると俺がハッキリと喋れるようになるまで時間がかかったらしい。食生活は前世に近かったのがせめてもの救いか。ただ、やはりと言うべきか見た事もない食べ物もあれば口に受け付けない食べ物もあった。それを当たり前のように食べる家族に戦慄したものだ。


 それはさておき、肝心の世界についてだ。世界観はアレだな、前世でも流行っていた中世ファンタジーからファンタジーを抜いたみたいな⋯、うん、ただの中世だな。

 転生者の特典として知識と転生特典を引っさげてこの世界にきたけど、魔法もなければモンスターもいない。なんだったら人間以外の種族もいないときた。いないものは仕方ないし、ファンタジーじゃなくて戦記ものの可能性もある!って期待したが、ここ数百年国同士の争いは起きていないらしい。

 なんだったら国同士の結び付きをより強化する為に俺の村を領国とする国の姫と隣国の第一王子が結婚する。政略結婚なんだが⋯お互いに想いあっていたなんてエピソードもあるそうだ。ふざけろ。という訳でこの世界に転生して数年経過して分かった訳だ。


 ───この世界が平和だと。


 いや、別に平和な事が悪い訳ではないんだが、俺が転生する前に夢見た世界とあまりに違うから現実のギャップが凄いんだほんと。

 それに転生特典として貰った能力⋯『時を止める能力』、これにも問題がある。アレだ、短いんだよ一秒って。時を止められるってスゲーって思ったけど、実際に使ってみて分かる一秒だと本当に何も出来ん。オマケに能力を使うと30秒くらいのインターバルが必要だ。強能力だと思ったけど、思っていた以上に使いにくい能力だと判明した。こればっかりは能力を使い続けて慣れるしかないな。


「地面に横たわって何してるのケイト?」


 不意に暗くなったと思ったら俺の事を見下ろす少女の姿が視界に映った。風に靡いている緑色の髪を見ると前世とは違うなと改めて実感するな。ショートヘアの髪型が似合っているなと思いつつ、俺として長い髪の子がタイプだからもう少し伸ばしてくれないかなと密かな願望を抱いている。

 髪と同色の瞳に俺の姿が映っており、とても残念な事にフツメンだ。家族の中で俺だけ、なんて事もなくしっかり遺伝だった。現実は本当に夢がない。

 俺の事を見下ろしている彼女の名前はソフィア。簡潔に言ってしまえば家が隣の幼なじみだ。絶世の美少女という訳ではないが、普通に可愛い。


「その位置だと下着を見えるぞソフィア」

「見たいの?」

「見たい」

「見せないよーーだ」


 彼女が着ていたのがスカートだったのもあり、下着が見えるか見えないかの絶妙な位置だった。半歩後ろに下がった事で見える可能性が完全に消えた訳だが⋯。


「ところで何で横たわってるの?」

「それは海よりも深い理由があってな」

「またロドフィンに負けたの?」

「またってなんだ、またって」

「だって、一度も勝った事ないんでしょ?」

「ぐぬぬぬ」


 言い返せない自分が情けない。事実、俺はロドフィンに一度も勝った事がない。なんであんなに強いんだあのニワトリは!?

 この世界ではシャウトバードなんて呼ばれているが、見た目は少し大きくなったニワトリだ。他に違いがあるとすれば特徴的な赤いトサカが黒いくらいか? ロドフィンと名付けられているシャウトバードは村の共有財産として飼われている、言ってしまえば家畜の一匹だ。

 俺は現在進行形でロドフィンと戦いを繰り広げており、178戦中178敗という記録に本日分の1敗が追加されたところである。


「勝てるわけないよ。お父さんや村の大人だってロドフィンの顔色を窺うのよ?」

「家畜の顔色を窺う飼い主ってどうよ」


 いや、本当に。ロドフィンとの戦いのきっかけは卵を取ってきてくれと父親に頼まれた時だな。父親からは頭を下げて『卵を頂いてもよろしいでしょうか、ロドフィンさま』って言えば貰えるからとアドバイスを貰ったな。その時の俺は家畜に頭を下げるのはどうなんだって思ってしまい、他のシャウトバードから卵を取るようにロドフィンの卵に手を出した。気付いたら地面に横になっていたな。

 後でロドフィンにぶん殴られたと気付き、『時を止める能力』を使って再度卵を取ろうとしたが結果は失敗に終わった。それから能力の練習も兼ねてロドフィンに挑むようになったな⋯。いい練習相手が見つかったと思ったがここまで勝てないとは思わなかった。なんであんなに強いんだ?


「それで、何か用事があったんじゃないか?」


 いつまでも地面に横になっていても仕方ないと思い身体を起こす。立ち上がるとソフィアが俺の背中に周り服についた土を払ってくれたのでお礼を言っておく。


「さっき変な人を見かけたの」

「変な人?」

「そう。顔を仮面で隠した明らかに怪しい人。お父さんも不審がっててケイトを呼んでこいって」

「分かった。どこにいるか分かるか?」

「多分、村長の家の近くね」


 ソフィアの父親が俺を呼んだのは戦力として俺を数えているからだろう。狩りを共にする機会が何度もあり俺の腕を褒めてくれたのを覚えている。それにしても怪しい人物か⋯、俺が住む村はかなり辺境なところにあるらしく旅人はおろか商人も滅多に訪れない。それもあって知らない人が来たら村の人は直ぐに気付く。

 一先ず見てみようとソフィアと一緒に村長の家まで向かうと、人集りが出来ているのが視認出来た。村の大人たちだな。その大人たちの前で両手を大きく広げ何か演説している者がいる。アレがソフィアが言っていた怪しい人物だな。


「かつて大陸を救った我らが女神さまがお告げになられました。これより五つの時が流れし時⋯魔界の扉が開き大きな災いが訪れる。ワタシの子供たちよ、脅威に備えよ⋯と」


 美しい声だった。同時に聞くだけで魅了されるような怪しさを秘めていた。外見と声から女性であることは分かる。赤いローブを着ており、フードを深く被っている事でより怪しさが増している気がする。その上、ソフィアが言っていたように顔に仮面をつけている。あからさまに怪しい人物だ。話を聞いている者の反応は半分は疑い、また半分が信じている⋯そんな感じだ。


「魔界の扉? 災い?何が言いたいのかしら?」

「さぁ⋯俺にも分からないな」


 嘘だ。この場で最も話を理解しているのは間違いなく俺だ。何故、仮面の女性が神のお告げとして演説しているかは分からないがその内容が事実である事を俺は知っている。

 俺をこの世界に送った張本人である神、ミラベルが俺の夢に出てきた際に教えてくれたからな。災いとは魔王のこと、脅威とは魔王が従える魔物の軍勢のこと。5年後に世界は劇的に変化するから俺に備えるようにとミラベルが言っていた。その日からずっと鍛錬を重ねてきたつもりだ。

 俺がここまで体を鍛え能力の熟練度を上げてきたのは、ミラベルの言葉を信じたのもあるが⋯心のどこかで楽しみにしていたからだろう。


 俺が夢見た世界がもう間もなく訪れる。俺はその時、『時を止める能力』を使って活躍するんだと夢想した。平和な世界で退屈していたからこそ、刺激を求めてしまっている。

 村の大人たちは半信半疑の様子だ。だが、それでいい、俺だけが理解していれば十分だ。村のみんなを守るために努力してきた、備えも出来ている。魔王が現れ、魔物が現れ⋯この村に脅威が迫ってきたとしても大丈夫だ。俺がこの村を守る。そして世界を守る。それが出来るのはミラベルから直接、脅威に備えるようにと言われた俺だけだろう。


「何があっても俺が守るから大丈夫だ、ソフィア」

「急に何言ってるの? 別に怖がってなんてないわよ」

「ハハハ!いや、今はそれでいいと思う。時がきたら分かるさ」

「意味不明なんだけど⋯自分一人で納得しないでくれない?」


 ソフィアの文句も今は聞かなかったことにしよう。その時が来れば分かることだ。


 俺は⋯転生者として、主人公として!この世界を救う英雄ヒーローになる!

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