私たち神は見習いを卒業すると一つの世界を預けられるわ。教育係となった先輩や上司が管理する世界を渡される事が多いかしら?私も見習いを卒業した際に先輩から世界を預かり、ロロが見習いを卒業した時も世界を預けたでしょ?
先輩や上司から世界を預けられた後はその世界を維持する事が最初の仕事となるの。預けられる世界は上司や先輩の手によって元々完成しているから基本的に手を加える必要がないって覚えておきなさい。
世界の情勢や魂の流れを常に管理し、世界を安定させる事が
その場合は『創造』と『破壊』の二つの資格を持っていかないといけない。私も資格は持っているけど、資格を取得するまでに試験は二回落ちたのよね。問題が悪いわ、問題が⋯。
それはさておき、
「えーと⋯ミラベル様、
───そもそもの話、なぜ神は世界を創りわざわざ管理するのかって事ね?単純な話、神がそれを必要としているからよ。世界が生み出すエネルギー、『マナ』と呼ばれる力は知っているわよね?
私たちが使う神の権限は『マナ』がなければ使えないの。流石に分かったかしら? 私たち神が世界を創るのは神の力の源である『マナ』を生み出す為、世界を管理するのは安定して供給させる為。
ロロも知っていると思うけど世界は放置しておいても簡単に滅びないわ。ただとある要因で衰退してしまう。
「『瘴気』ッスね!」
正解よ。神の力の源であり世界の原動力である『マナ』が時間の経過と共に劣化し、腐ったモノが『瘴気』と呼ばれるの。『瘴気』が世界に満ちてしまうと、生物はおろか大地や海、空や空気すらも腐り落ちて誰も生存できない死の世界になってしまうの。
軽い気持ちで聞いてるみたいだけど、神すら殺す悪毒よ。対処法を間違えればロロ、貴女も死ぬわよ。ふふ、私が貴女に口煩く忠告する理由が少しは分かったかしら?
「『瘴気』が増える前にこまめ浄化ッスね!」
そういう事よ。少量なら簡単に対処が可能なの。でも世界全土に満ちてしまうと流石に浄化する事は不可能ね。最高神様なら可能かしら? まぁでも、浄化する方に労力を回すより世界を破壊する事を選ぶかしら?
話を戻すわね。『瘴気』が増えた世界からは『マナ』を得る事は出来ないから破壊するのだけど、そうなると世界を創った意味がなくなってしまうわ。『マナ』を得る為に世界を創るのだけど、創るのにも『マナ』が必要なの。
神に求められる仕事は世界を『瘴気』で溢れないように管理して『マナ』の安定した供給を保つ事。
ロロが前に言っていたけど、世界を創るのにもそれなりにリスクがあるから世界の管理を任せられる神にのみ許されるのよ。結果を出して能力を認めさせるしかないわね。
「ウチが世界を創れるようになるまでどれくらいかかるッスかね?」
まずは私が預けた世界を維持してから言いなさい。あと少し間違えてたら何千万の人間が死んでいたのよ!いえ、下手したら億? 考えたくはないわね⋯。世界が滅びるような事はないけど、『マナ』の供給量に大きく影響する所だったの。
貴女の『海によって隔たれた大陸を繋げたらどんな反応をするか?』なんて先の事を考えない行動があの騒動になったのを心に刻みなさい!天使が神を殴るなんて余程の事よ。あの子たち泣いてたんだから、後で謝りなさい。
聞きたいことは終わり? まだあるの? でもほら、貴方の教育係があそこで待っているわよ。そんなに嫌そうな顔をしないで行ってきなさい。
───ドナドナドナと訳の分からない言葉を漏らしながら教育係の神にロロが連れて行かれた。いきなり私の仕事場に来たと思ったら教えて欲しい事があるって言うから聞いたはいいけど、初歩中の初歩を聞かれるとは思っていなかったわね。私も教えたつもりだったのだけど、全く頭に入ってないじゃない。アレだと教育係の神も苦労しそうね⋯。
「『フラスコ』の世界を変革⋯した方が楽しいでしょうけど、管理は難しくなるわね」
───『マナ』の供給量は世界に存在する魂の量に比例する。魂の量が多ければ多い程、供給量は増えるし、逆もまた同じ。だからといって不用意に世界に魂を送り込めば溢れかえった魂で世界が壊れてしまう。容量いっぱいで破裂しちゃうんだっけ?聞いてそんなバカなって思ったけど魂もまたエネルギーだから、それだけの力がある訳ね。
神が勝手な事をしないように最高神が魂の行先を予め定め、魂の供給量を一定のモノにした。それによって魂の量が安定するようになった。
先にあげた『瘴気』と生物の大量死がない限りは魂の量から一定の『マナ』が取得出来る。ロロのやらかしは下手すると億の単位で魂が流出するところだったのよね。間に合って良かったわ、本当に。
「次の査定は三年後だったかしら?」
今の私の『マナ』の供給量だと昇格はまだ無理ね。『マナ』を増やすか美しい世界を創って芸術点で稼ぐしかない。最高神によって世界に送り込まれる魂の量が一定のものなった事で供給される『マナ』もまた一定のものとなった。
その結果、どの神が管理しても同じ『マナ』の供給量となる為査定が難しくなった。そこで神事部が見出したのが世界の美しさを競う芸術点ね。
世界の風景だったり、そこに住む生物の生態系等⋯様々な分類で判断され芸術点が与えられる。それが他の神よりも多ければ昇格って事になる。
他にも『マナ』を増やす方法はあるのだけど、その場合はリスクが伴う。世界に存在する魂の量は一定だけど、魂の大きさによって『マナ』の供給量が増える事が分かっているわ。
特に英雄や魔王なんて呼ばれるモノの魂は格段と大きい。供給される『マナ』の量も普通の魂とは桁違いね。問題なのはそういった優れた魂が限られた数しかいないこと。なら、増やせばいい話なんだけど、それも簡単にはいかない。
魂を大きくするには魂の持ち主が己を限界を超えるしかない。死と直面するような大きな場面で己に打ち勝って初めて魂は成長すると言われている。強大な魂の持ち主である英雄は数多くの試練を乗り越えた事で強大な魂を持つに至った。
つまり魂を成長させる過程で魂の持ち主が死ぬリスクも常に付きまとう。成長すればいいのだけど、死ねば魂が流出する結果だけが残る。魂の育成は神が行っても至難の技と言われているわね。
魂が育って『マナ』の供給量が増えればいいけど、逆に減ってしまえば他の神と差がついてしまう。昇格は絶望的ね。安定を取るなら芸術点を狙うべき。それなら今のまま『アース』のように安定した世界を維持した方がいいわね。
魔物や異種族が混合する世界はどうしても争いが付き纏う。『アース』でもメインとなる種族は人間しかいないのに、種族間で争って数を減らすのよ。異種族が増えるとどうしても価値観の違いから争いに繋がる。生存戦争になってしまうとどれだけ多くの生物が亡くなるか⋯。
私が管理する世界で異種族が混合する世界は一つだけ。その世界の管理の難しさを知っているから種族は一つに保っているし脅威となるモノは出来るだけ創らないようにしている。
楽なのは現状維持⋯でも、それだとつまらないわよね。たまにはリスクを背負って変えてみるのも一つの手⋯。
先輩もリスクを背負わないと上にはいけないなんて言っていたわ。ケイトの活躍をみたい気持ちもあるし、丁度いいわね。彼が英雄になれば『マナ』の供給量も増えるしケイトが求めていたモノを手に入れるからお互いに満足の結果になるわ。
「世界を変革させるにあたって⋯『フラスコ』の定命の者たちにも準備をさせておきましょう」
ある程度対策はするけど、いきなり現れた魔物という脅威に『フラスコ』の人間が立ち向かうのは難しいと思うわ。混乱が起きれば尚更。私がケイトに告げたように、『フラスコ』で大きな事件───歴史に残る変革が起きる事を予め広めておく。そうする事で混乱は最小限に治める事が出来るわね。英雄は作りたいけど、多くの死者が出る事は望んでいないのよ。
「『フラスコ』を管理モードに」
管理モードに移行したのを確認してから、神の権限を使って20人程の人間モドキを創造する。それなりに広い部屋とはいえ20人も集まれば少し窮屈ね。『フラスコ』の世界に直接生み出しても良かったけど、少しばかり手を加える必要があるから一旦私の仕事部屋で創造した。
私が創ったこの人間モドキは魂を持たない人形のようなもの。死ねば無となり初めからいなかったように消えてなくなる。
生物と呼ぶのもおこがましい存在だけど、私の指示で好きなように動かせるから便利ではあるのよね。今回は人間モドキに人格を与えてあるの。こうする事で私が直接操らなくても命令を下しておけば勝手に動いてくれる。魔王や魔物を創ったり、他の世界の仕事もあるからずっと見ているなんて事は出来ないから仕方ないわよね。
これから創る魔王と魔物も同じように魂を持たないモドキとして創造する。最初から異種族と混合した世界とは違うから様子を見ながらゆっくり進めていかないと⋯、取り返しのつかない事態にはだけはしたくないわ。ある程度世界が安定してきたら、モドキではなく悪人の魂なんかを魔物として送り込みましょう。
「さて、貴女たちは世界全土にこの噂を広めなさい。『5年後に魔界の扉が開き、大きな災いが訪れる。脅威に備えろ』っと⋯言い方は任せるわ」
「畏まりましたミラベル様」
命令を下すと共にその内の一体に手を加えておく。これはあくまでも保険。使わないにこした事はないわ。さて、これで準備はできたわね。
「行ってらっしゃい」
この時の私はまだこの人間モドキ───後に預言者と呼ばれる者たちのせいで頭を抱える事になる事をまだ知らなかった。
「魔王の姿はドラゴンにしましょう!人型もいいけど、やっぱり一目で脅威って分かる見た目がいいわ!」