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第28話 疑惑の逸話

俺は先程の話で抱いた疑問をエリノアさんにぶつけることにした。


「いや、まぁ、なんて言うか、今の村長に都合良すぎだなって思って……」

「ふふ……その意見私も同意する。いまの話、一見その青年の功績を伝えるためのものにも聞こえるが、実の所この村を救った英雄の子孫という栄誉を得るための作り話にも捉えられる。しかし……」

「うん……作り話にして中身がしっかりしてあるんだ」

「そう、つまりこの話の大まかなあらすじは実際に起こったこと。」


エリノアさんも俺と同じ考えか……

今ある、この考えをより明確にするためにも怪我をして眠りについているという女性に話を聞かないと……


「イツキさん、どうかされましたか……?」


なにやら考え込むイツキに気がついたソフィーが心配そうに話しかけてきた。


「ん?あ、ああ、なんでもないよ……」

「……?そうですか、何かあれば言ってくださいね?」


まだ確信の持てない考えをいたずらに広げて困惑させるわけにはいかないか…


「言ってもいいんじゃないか?」

「え……?」


なんだよ、まるで人の考えることが分かるみたいに……


「分かるぞ?」

「……えっと、俺の心読んでます……?」

「ああ、そのくらい朝飯前だ」

「あ、アハ、アハハハハ……」


これじゃあ、この人の前で隠し事できないな……


「心配するな、いつも心を読むわけじゃない」

「お、お気遣いありがとうございます……」

「まぁ、そんなことより……イツキ、自分の考えを伝えることは決して悪いことでは無い。考えを共有することで、仲間と議論し精査することが出来る。そうすれば、自ずと問題の解決も早まるというものだ」


エリノアさん……

俺の不安を取り払うために…見た目こそ若いけど、伊達に年齢を重ねてないな。


「おい、次わたしの年齢の事を考えたら……」

「す、すみませんでした……」


エリノアは200年以上生きているにも関わらず……いや、だからこそか年齢に関して敏感であった。


「みんな!ちょっと話があるんだ」


イツキは、エリノアの助言通りソフィー達仲間に自分の考えをぶつけることにした。


「ーーと思うんだ」

「確かに、言われてみればそう受け取れますね……」

「そうか?俺にはよく分からん」

「アランはバカだなぁー。僕にはちゃんと分かったよ!」


ナタリーはボーイッシュなその見た目に反して、豊かな胸を得意気に張り、アランに張り合うように主張した。


「な、なんだよ、じゃあナタリー説明してくれよ!」

「え、えっと……つ、つまり……」


分かった、と言うのは見栄張りだったようで、説明を促されると分かりやすく狼狽え、言葉を詰まらせ、ソフィーに泣きついていた。


「なんだ、ナタリーも分かってねーじゃんか」

「う、うるさいなー、僕は説明が苦手なんだよー」


アランからの突っ込まれたナタリーは頬を膨らし不貞腐れていた。


「アランさん、ナタリーさん、仲良くいたしましょう?つまり、先程のお話は現村長のご先祖が自分の家がこの村を支配できるよう、都合良く改変したお話である、そう言いたいのですね?」

「さすが、アリシア。その通り。ただ、それだけじゃなく、この話の本当の英雄は誰なのかっていうことだ」

「本当の英雄……?」


そう、この村に伝わる話は軍勢の数や青年が1人立ち向かい後に援軍が来たなど、全て創作ならば省かれる場所が残っていた。

つまり、相手や状況は違えど実際に軍勢に立ち向かった者が居る、ということだ。


「その英雄を知るヒントを襲われたという女性が持っているんじゃないか、と俺は睨んでいる」

「襲われた女性が……?」

「まぁ、確証はないんだけどな」

「じゃあ、その女性の家に行こうぜ」

「まず、その女性が話せる状況か分からないだろ」

「何言ってんだよイツキ、怪我ならアリシアが治せるだろ?」

「そういえば……」


失念していた……


「アリシア、頼めるか?」

「任せてください!こういう時のためにわたくしが居るんです!」


アリシアは、頼られたことが嬉しかったのか腕をまくり気合いを入れていた。


「よし、そうと来たら怪我をしたという女性の家を探さなきゃな」

「オーガに襲われた者を知りたいのかい?」


俺らの話が落ち着くのを待っていたのか、お婆さんはその場に留まっており、話しかけてきた。


「あ、はい。ちょっと襲われたっていう女性に会いたくて……お婆さん知ってますか?」

「知ってるも何も、そりゃ私の孫だよ」

「え、マジ……?」

「うん、マジ」


偶然にも、村に来た際に話しかけてくれ、この村の逸話を話してくれた、優しいお婆さん。

そのお婆さんの孫が、オーガに襲われ怪我をした張本人だと言う。

俺たちはお婆さんに頼み、孫の元へ連れて行ってもらった。



「ジーナ、入るよ」


お婆さんは、俺らを家まで案内すると扉をノックし、入っていった。


「この子が私の孫、ジーナ……この子の父親、母親はオーガに殺されてね……今は私と2人でこの家に住んでいるんだ……」


ベットで眠りにつく、孫のジーナの顔を優しく撫でながら話した。


「そうだったんですね……」

「あ、ああ、すまないね、辛気臭い話をして。見ての通り、この子は今眠っている。話をさせたいところだけれど、この状況じゃね……」


そういうと、肩から腰にかけて付いている大きな傷をイツキたちに見せた。


「この子が何をしたって言うんだい……まだ20歳そこそこの嫁入り前の娘が、体にこんなに大きな傷を残して、目覚めないなんて……」


年齢を感じさせるシワが刻み込まれ両の手で孫の手を優しく握るお婆さんの目からは涙が流れていた。


「大丈夫ですよ、お婆さん。わたくしが必ずジーナさんを治してみせます」

「アリシア、頼んだ」

「はい!【ハイヒール】」


アリシアが手をかざし、ハイヒールを唱えると体の傷はみるみるうちにふさがっていき、ジーナの顔はどんどん血色がよくなっていった。


「おお……なんという……」


さすが、アリシアだ。

ジーナさんの怪我があっという間に治っていく。

しかし……


怪我こそ完全に治ったものの、ジーナの体に刻まれた傷跡を消し去ることは出来なかった。


「すみません……怪我を治すことはできても、わたくしには元の綺麗な体に戻すことは……」


自分の不甲斐なさからか、悔しさを滲ませるアリシアにお婆さんはアリシアの手を取り優しく語りかけた。


「いいんだよ、お嬢ちゃん。ジーナの怪我を治してくれたじゃないか。お嬢ちゃんが気に病むことじゃない」

「す、すみません……」


いいんだよ、とお婆さんはアリシアを優しく抱きしめ、頭を撫で労った。


「はぁ、仕方ない。アリシア、お前は帰ったらビューラの元で回復魔法の修行をしろ。今回は、お前の頑張りに免じ、わたしが''完璧''に治してやろう」


そう言うと、今度はエリノアがジーナに手をかざした。

エリノアが手をかざすと、ジーナの体にあった傷跡はみるみるうちに薄くなっていき、元の綺麗な肌へと戻った。


なんだかんだ優しいんだよなエリノアさん……

素直に、手伝ってくれたらいいのに。


イツキは、エリノアの優しさに思わず笑みが零れた。


(イツキ、お前には後で罰を与える……!)


え……?

今、エリノアさんの声が頭の中に響いたような気が……


(当然だ。お前の頭に直接語りかけてるからな。所謂、テレパシーというやつだ)

(え、えーっと……もしかして、また心を読んでます?)

(いい加減慣れろ。わたしの前で隠し事や考え事は出来ないと思え)


こ、怖ぇよ……

俺にプライバシーは無いのかよ!


(失礼なことを考える方が悪い)

(う、うぐ……反省します……)

「……?イツキ、お前どうしたんだ?」


テレパシーでエリノアに詰められ、表情がコロコロ変わるイツキに気づいたアランは不思議に思い話しかけた。


「あ、いや、なんも無いよ」

「……そうか?ならいいんだけどよ」

「よし、もういいだろう」


エリノアがジーナにかざしていた手をどけると、ジーナはゆっくりと目を開き、状況を理解出来ていない様子で祖母に話しかけた。


「お……お婆ちゃん……?」

「じ、ジーナ!!」

「お婆ちゃん、わたし、魔物に襲われて……それで、けがをして……」

「お前の怪我は、この人達が治してくれたんだよ」


お婆さんはそう言うと、イツキ達がジーナから見えるようにそっと横にずれた。


「……皆さんが……ありがとうございます……」

「イツキと言います。治したのは、このアリシアですよ。それと、エリノアさんもね」

「ありがとう……アリシアさん、エリノアさん……」


ジーナはゆっくりと、2人に目を向け礼を言った。


「お嬢ちゃん、アリシアというのかい。いい名前だねぇ……アリシア……?アリシア、アリシア……」


アリシアという名前に聞き覚えのある、お婆さんは思い出そうと、アリシアの名前を唱えるように呟いた。


「あ、アリシアって、もしかしてお嬢ちゃん、アリシア王女様かい!?」

「あ、はい……アルベルト王国王女、アリシア・アルベルトと申します」

「お、王女様になんて失礼なことを……」


王都以外でその姿を見ることがなかった、アリシアに気づくことがなかったお婆さんは、自身が王女に対し、馴れ馴れしくも抱きしめ頭を撫でていた、という事に気づき、お婆さんは平謝りに謝った。


「お、お婆さん!やめてください!お婆さんに抱きしめられ、頭を撫でられたこと、わたくしはとても嬉しかったです」


アリシアは優しく穏やかな笑みでお婆さんに語りかけた。

その姿は正しく、聖女そのものだった。


「ね、ねぇ?僕たち後半空気じゃなかった?」

「空気だったな……」

「ふ、2人とも!」


その光景を後ろで眺めていた、ナタリーとアランは自分達は必要なかったんじゃないか……と出番の無さに密かに危機感を覚えていた。

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