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第26話 村への道すがら

俺たちが向かう村は、アグノリアから約100キロほど離れた場所にあり、人口は50人ほどの小さな村だ。

村までの道のりは、とても長閑なもので眠たくなるほど平穏な道のりだった。


「今回行く村の名前って……」

「サイハク村です」

「そうそう、そのサイハク村ってどんな村なんだ?」

「サイハク村は、人口約50人ほどの小さな村で、昔からオーガにまつわる逸話があるとか」

「オーガにまつわる逸話……?」

「はい、内容までは分からないのですが……」


オーガに関する逸話……今回の鬼人族の件、その逸話ってのが関係している気がする。

内容によっては、今回の鬼人族の件が一気にきな臭くなる。


「ま、今はいいじゃねーか。村までまだまだかかるんだし、のんびり過ごしてようぜ」

「……それもそうだな」


俺たちを乗せた馬車は、草原を抜け、川下に下るように進んで行った。


「お客さん、今日のところはここで一旦休ませてください。これ以上は私も馬たちも体力がもちません」


街を出てからおおよそ50キロ。

村まで残り半分といった所で、今日は一旦打ち止めとなった。


「野宿か……久しぶりだな」


パチパチ、と音を立てる焚き火を見ながらエリノアは呟いた。


「それって、俺のじいちゃんと旅してた時?」

「ああ、あの時は毎晩野宿をしていてな。宿屋に泊まれることなどほとんどなかった」

「やはり、険しい場所を訪れていたからなのですか?」

「いや、勇者のバカが金を使いまくるせいで宿屋に泊まれるほどの金が無かっただけだ」


……なんか、エモい感じがしていたのに。

野宿してたのは、旅をしていたからとかじゃなくて、俺のじいちゃんが金を使いまくったせいとか……


「あ、あの……なんかすみません」

「ふっ……まぁ、今となっては懐かしい思い出だがな」


エリノアは優しい笑みを浮かべた。


「ていうかよ、エリノアさんの魔法あれば村まで一瞬じゃないのか?」

「「「「……あ……」」」」

「ああ、それなら無理だ。わたしの魔法は、わたしの行ったことのある場所、もしくは知っている人の元にしか行けない」

「絶妙に不便なんですね……」

「魔法を万能などと思っていないか?魔法でも出来ないことくらいごまんとある」


エリノアさんにも出来ないことがあるのか……

まぁ、でもそれって知ってる人が居ればそこに行けるってことだもんな……

確かに、思い出してみたら俺らの拠点を教えていないはずなのに急に現れたな……

あれ……?そう考えたらやっぱり反則だなこの人……


「もう夜も遅い、明日も早いんだお前らは早く寝ろ」

「そ、そうですね、おやすみなさい」


エリノアは自分が焚き火を見ておくと、言いイツキ達を眠りにつかせた。


ーー次の日ーー


「おはようございます……」

「……起きたか」


早朝、目を覚ました俺は焚き火が消えずに残っているのに気がついた。


「もしかして、エリノアさん夜通し焚き火を見てくれたんですか?」

「わたしは眠くならない魔法を自分にかけているからな」

「……ありがとうございます」


恩を着せぬように、雑に言い放つエリノアの優しさに触れたイツキは温かい笑みを浮かべエリノアに礼を言った。


「な、なんだその表情は……!」

「いえ、エリノアさんは優しいなって思ったんですよ」

「……ば、馬鹿なことを言っていないで、起きたのなら代われ!」


正面から褒められたのが恥ずかしかったのか、エリノアは赤く染めた顔を背け、わざとらしくキツく言った。


「あれ……イツキさん、もう起きたんですか?」

「……ソフィー起こしちゃったか?」

「いえ、ちょうど目が覚めたので……」


少し、はしゃぎ過ぎたのか先程まで眠りについていたソフィーが寝ぼけまなこを擦り体をゆっくりと起こした。


「焚き火……イツキさんが見ててくれたんですか?」

「いや、俺じゃなくてエリノアさんが1晩中見てくれてたんだ」

「エリノアさんが……ありがとう……ございます……」


あまりに眠いのか、ソフィーは普段とは違いおぼつかない言葉で礼を述べた。


「焚き火……温かいです……」


ウトウトしつつ焚き火にあたるソフィーに、エリノアは、こっちに来い、と手招きをした。

ソフィーが近寄ると、自分の太ももを軽くポンッと叩き、枕にしろと合図を送った。

ソフィーも余程眠かったのか、それに逆らうことなくエリノアの膝枕を受けいれた。


「エリノアさん……いい匂い……」

「う、うるさい……いいからまだ寝ておけ……」


ソフィーに膝枕をし寝かしつけるエリノア。

この絵を見たイツキは、聖母が子供を優しく包み込む、そんな風に見えた。


「綺麗だなぁ……」

「何か言ったか?」

「あ、いえ……」


口に出してたか……

妖艶なエリノアさんが、ソフィーのような美少女に膝枕をする。

この光景、めちゃくちゃ美しく思う。

俺も出来れば、膝枕して欲しいなぁ……


「だらしない顔をしているな……お前何か変なことを考えているだろう?」

「あ、いや、そ、そんなことは……」

「言っておくが、お前にはせんぞ」

「わ、わかってますよ……」


俺には膝枕は無い。

分かっていたが改めて面と向かい言われると、どうにも凹むものがあった。


おれも、美人なお姉さんや美少女に膝枕をされてみたいものだ……


イツキは、とてもこの世のものとは思えぬほど美しい、エリノアとソフィーの光景を目に新たな目標……もとい、願望が芽生えた。

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