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第25話 ギルマスからの面倒事

「こんにちはー……」

「おう、来たか」


 今日、俺たちはギルドマスターに呼び出されギルドまで出向いていた。


「あの、俺らに頼みたいことって何ですか……?」

「まぁ、そんな怪訝そうな顔をするな。頼む代わりにいつもそれなりの報酬を渡してるだろ?」

「そういう問題じゃないんですよ……あんたが呼び出すとろくな事が起きないんですよ……」


 そう、ギルドマスターに呼び出される案件は高確率で面倒事に巻き込まれることが多い。

 以前の、マグワイア伯爵の件然り、アルベルト王からの招待然り、かなり面倒事に巻き込まれている。

 しかも、その面倒事に関しては俺に拒否権が無いまま話が進み巻き込まれる。

 今回は、一体どんな面倒事なんだろうか……


「ま、まぁ、今回お前らに頼みたい依頼というのが、オーガが出たという村の調査だ」

「……はぁ……」


 俺は、それだけの依頼でギルドマスターが頼むはずが無いと悟り、この依頼に嫌気がしため息をついた。


「内容はそれだけですか?」

「それだけってーと?」

「他に隠してることはないのか?と聞いてます。現地に着いてから色々分かるのは面倒なんですよ」


 ギルドマスターは、詰め寄り問いただされた事で、隠していたことを話し出した。


「あ、ああ、どうもその村の話を聞くにただのオーガじゃなさそうなんだ」

「ただのオーガじゃない?」

「ああ、巧みに人の言葉を操り、村の娘を襲っていたそうなんだ。そして、その姿はオーガというより俺ら人間に近いものだという」


 ……ギルドマスターにだけは言われたくないだろう、ということは置いておいて、人間の姿のようなオーガ……なんだそれ。


「なぁ、オーガって俺らみたいな見た目になることってあるのか?」

「そうですね……オーガは元々私たちと同じように二足歩行をし、その手で武器を持ち戦う魔物ではあります。しかし、私たちよりも遥かに大きく、その肉体は強靭なものです。ですから、オーガが私たちに近い姿というのは普通は有り得ません」

「だよな……」

「そもそも、それ本当にオーガだったのか?それがなにかの見間違いとかだったら話拗れねーか?」

「そうだよねー。そうなったらややこしいし、僕たちでどうにか出来るかなー」

「確かに、オーガではなく亜人族の見間違え、という線もかなり薄いですが有り得ます……」



 てなると、やっぱりこれは面倒な案件だな……

 断るのが吉だ。


「マスター、これことわ……」

「頼む……!!!」


 ギルドマスターは俺が言い切るより先に床にその輝く額を付け、願い出た。


「お前らしか居ないんだよ。このギルドでこんな、めんどうご……クエストを頼めるのは!」


「……おい、今このオヤジ面倒事って言いかけなかったか?」

「言いかけたな」

「言いかけました」

「言ったね」

「言いましたわね」


 やっぱり面倒な案件なんじゃねーか!

 こんな事ばかりやってらんねー!

 …………しかし、マスターがその輝かしい頭を擦り付けてまで頼んで来てるしな……


「はぁ、分かりましたよ。やります……」


 はぁ、嫌になる。

 断ろうと思っても真剣に頼まれると断れないこの性格……


「本当か!助かる!やっぱりお前らは他の連中とはひと味違うな!!」


 ハッハッハ、と笑いながら調子よく俺の背中を叩くギルドマスターに少々腹が立った俺は、交換条件として、最も難解な問題をふっかけることにした。


「その代わり!マスターどうせ暇でしょ?俺らが訳あって面倒を見ているエリスっていう子の世話を俺らが帰ってくるまでしてください」

「なんだ、そんなことでいいのか?任せろ!こう見えても子供の相手は得意だ!」


 任せろ、と胸をドンッと叩き許諾するギルドマスターを見て、俺は心の中でガッツポーズを取った。

 当然、このガッツポーズは日頃の仕返し……もとい、エリスの面倒を見てくれるということに関してだ。


「イツキ、お前なかなか酷いな……」

「イツキ、ダメだよー?ギルドマスターも歳なんだからさ」

「イツキさん、わたくしギルドマスターさんに何かあっても手助けはできませんよ?」


 エリスが駄々をこねる事を見越したアラン達は皆一様にギルドマスターを哀れんでいた。


「マスター……どうかご無事で……」

「え?あ、ああ……それはお前らの方じゃないのか?」


 ソフィーは哀れみを通り越し、ギルドマスターの身を本気で案じ、肩に手をそっと置いた。


「それじゃあ、明日その村に向かいます」

「よし、分かった。村までの馬車と、着いてからの宿は俺が手配しておこう」

「ありがとうございます」


 おおよその流れを話した後、ギルドマスターに挨拶をしてギルドを後にした。

 そして、その日の夜。

 エリスを寝かしつけながら、明日依頼で家を空けることを伝えた。


「エリス、いいか?パパ達は明日からお仕事なんだ。いつもはエリノアさんがいるけど、明日はパパの知り合いのおじちゃんに遊んでもらうんだぞ?」

「……?……うん!わかったー!」


 恐らく何もわかっていないであろう返事をした後、エリスは眠りについた。


「一一ということなんです。俺たちだけじゃ不安なのでエリノアさんもついてきてくれますか?」

「なるほど……まぁ、いいだろう。わたし1人家に居ても暇なだけだ」


 エリスを寝かしつけた後、俺らは明日のことについてエリノアさんに話をしていた。


「エリノアさんは、何か心当たりはありませんか?」

「……これは推測に過ぎないが、話を聞くに恐らくそのオーガというのは鬼人族きじんぞくという亜人だろう」

「鬼人族……?」

「鬼人族というのは、私たちと変わらない体格でオーガのような強靭な肉体を待つ亜人族のことです」

「ですが……鬼人族は滅んでいるというのが定説のはずでは……?」

「確かに、俺もその話聞いたことがある」

「僕も!確か何十年も前に魔物に襲われて最後の鬼人族の里が滅んだ、とか」

「そうなのか……」


 もう既に、この世界に鬼人族が居ないというのならエリノアさんの推測もハズレだということか……


「鬼人族は滅んでなど居ないぞ?」

「「「「……え??」」」」


 エリノアさんはさも当たり前の常識を話すかのように、平然と鬼人族が未だ生きているということを明かした。


「え?生きてるんですか?その、鬼人族っての」

「うむ、まぁ生きていると言っても里を形成できるほどの大人数では無いはずだがな」

「それって、大ニュースなんじゃないか……?」

「滅んだとされていた鬼人族が生きているとなれば、大発見のようなものです」

「エリノア様!なぜ、こんな大事なことお父様の前で黙っていたんですか!?」

「なぜと言われてもな……聞かれなかったからな」

「「「「ごもっともです……」」」」


 滅んだはずの種族が生きていたとなれば大発見なのは間違いない。

 それはそれとして、鬼人族が生きているとすれば、今回の依頼のオーガの招待も鬼人族で、何か訳があったんじゃないのか……?


「とにかく、明日に備えて準備していてくれ」

「おう!」「うん!」「「はい!」」

「エリノアさんもお願いします」

「ああ、任された」



 ーー次の日ーー


 俺らはエリスをギルドマスターに預け、依頼のあった村へと向かうため馬車に乗り込んでいた。


「それじゃあ、エリスいい子にこのおじちゃんの言うこと聞くだよ?」

「うん!いってらしゃい!」

「エリスちゃんの事は心配すんな!こんな可愛い子ならいくらでも面倒みてやるぜ!ハッハッハ!」

「ああ、うん……」


 ギルドマスターのこの元気がいつまで持つものか、と哀れみの顔で俺は静かに返事をした。

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