「まだ死ぬな炎王竜【リフレイン】」
女が魔法を唱えると倒れていた炎王竜は目を覚まし起き上がった。
(我は力尽きたはず……お前がやったのかエリノア)
(何やら厄介なやつが居たみたいだね。あんたなら無茶しかねないと思ったのよ)
(そうか、ならば頼みがある……)
(わかっている)
女と炎王竜は互いに見つめ合い微笑んでいた
「お、おい、あの人なんでドラゴン見て笑ってんだ?」
「さ、さぁ?」
炎王竜と見つめ合っていた女はクルッとこちらに向き直した。
「ああ、すまないな。私はエリノア・シモンズ、君らが探しに来た光の魔術師と呼ばれる者だ」
「「「「「え、えええええーーーー!!!」」」」」
エリノア・シモンズ今から約200年前、勇者と共に魔王を倒したとされる者。
200年以上も生きているのに若すぎないか?
若すぎるというか20歳そこそこにしか見えない……
「え、えっと……俺達はアリシア王女の頼みであなたを探しに来ました」
「お、お初にお目にかかります。アルベルト王国王女アリシアと申します」
「ああ、知っている。ビューラを治療してもらうため、わたしを探しに来たのだろう?」
さっきからこの人、俺らの事もビューラ王女の事も知っている……ということは。
「見てたんですね?この森に入ってからずっと」
「見ていた?この森に入った時から!?」
「ど、どういうこと!!イツキ!」
「見ていたって……どうやってですか?」
イツキは森に入ってから感じていた強い気配とは違う、もう1つの違和感の正体に確信を持ちぶつけた。
「ほお……やはり気づいていたか」
「この森に入った時から強い気配とは別に誰かに見られている感じがしたので」
「その通り。この森に入ってくる者は全てこれで監視している」
光の魔術師は何も無いところから水晶玉を取りだした。
ん!??どこから出したんだ??
「そ、それは、マジックボックス!?」
「ソフィー、そのマジックボックスってなんだ?」
「マジックボックスとは、異空間収納魔法の事です。この魔法はその名の通り、異空間に荷物を収納することができるんです。さらに一一一」
ソフィーは魔法の事となると目を輝かして興奮するな……
要約するとこうだ。
異空間魔法は習得するのに膨大な魔力と才能が必要であり、この魔法を習得できたのは開発したエリノア・シモンズ、この人だけだという。
「なんだ、この魔法を覚えたいのか?後で教えてやろう」
「あ、ありがとうございます!!!!」
今までに無いくらい目を輝かせ喜んでる……
「さてと、君らはわたしの弟子……ビューラ王妃を案じ、このプラチナランク冒険者でさえ入るのを恐れるクノンルデア森林に赴き、更にはバルハードまでも身を呈して守った。その礼だ、力になるか分からんがビューラを診てあげよう」
光の魔術師なんて呼ばれて、こんな森の奥地に住む人だ。どんな気難しい婆さんが出てくるかと思ったが……
なかなかどうして、優しいうえに美人。
更にはスタイルも……
「イツキ……さん……?」
「な、なにも考えていません!!」
危ない、邪な考えを察知したソフィーから消されるとこだった……この世から。
「それと、イツキ……と言ったな。君には何か礼をしなければな」
「礼ですか……?」
「そうだな……ひとまずわたしの家に来るといい」
エリノアはイツキ達パーティーを森の奥地の自宅まで招いた。
すごい……ここだけ別の時間が流れているように綺麗で穏やかな場所だ。
「ここが、光の魔術師が住む森……」
「凄いです……この森にこんな場所が……」
「なんて言うか、落ち着く!」
「おお!それな!」
エリノアの住む場所は、木々が生い茂ったこの森野中で唯一陽の光を遮るものがなく、花や川が美しい自然の中に家が1件立っているだけの場所だった。
「改めて礼を言わせてくれ、炎王竜を、バルハードを守ってくれてありがとう」
エリノアさんは深々と頭を下げ俺らに礼を言った。
「いや、あのまま見捨てたら目覚めが悪くなると思って……」
「それでもだ。わたしの、私たちの友人を守ってくれ感謝している」
私たち……それは恐らく勇者パーティーの事を言っているんだろう。
200年以上もの友人。
それを守ったイツキたちへの感謝は到底推し量ることは出来なかった。
「ところで、夜竜を倒したキミ。名前は?」
「ああ、遅れました。俺はイツキアイザワ。こっちは仲間の……」
「ソフィーです」
「ナタリーだよー!」
「アランだ」
「イツキ…アイザワ……」
自己紹介をすると、突然エリノアはイツキの背に手を当て目を閉じた。
「ふむ……イツキ、キミはこの世界の人間では無いね?」
「な、なんのことですか?」
「とぼけなくていい。この世界の人間はどんなに小さくとも魔力を持っているものだ。だが、キミは魔力が全くのゼロだ。いや、そもそも魔力回路が通っていない。そんな者は、この世界には居ない。後にも先にも勇者、やつ以外は」
魔力回路が通っていない……だから、俺には魔法の適性が何も無かったんだ!
あの女神……魔力すら持たない俺にどうしろと?
というか、そのせいか!
俺だけ魔道具を使う時に魔力石を握っていないといけないのは!!
それにしても、勇者以外……か。
「勇者が気になるか?」
「勇者……勇者アグノリア様のことですか?」
「その通り」
「勇者アグノリア様とイツキさん……なにか関係しているんですか?」
「ああ、さっき名を聞いて確信した。勇者アグノリア、それは君の祖父だ」
そ……ふ?そふ……?……祖父!?!?
……お、思えば、俺のじいちゃんよく分からない昔話とかしてた!
しかも、ジジイのくせにやたら強かった……
「ちなみに、勇者アグノリアとは後の世に仲間であるわたしたちが広めた嘘の名だ?本当の名はーー」
「ショウジ……ショウジアイザワ」
「その通りだ。やはりキミはショウジの言っていた孫だな?」
エリノアはショウジとの話を始めた。
イツキの祖父ショウジアイザワはある日偶然女神にこの世界に勇者として召喚された。
勇者としての力を持っていなかったショウジは鍛え続けた武術を用いてこの世界を救い元の世界へと帰っていた。
そして、帰る間際この世界とあちらの世界を繋ぐ秘宝を女神により託された。
エリノアがショウジの孫がイツキであることを知っていたのもこの秘宝によってショウジが逐一報告していたからである。
ちなみに、イツキを送った女神とショウジを送った女神は同じ女神アリアである。
「で、ですが、勇者は200年以上前の人物のはずです。それが事実ならイツキさんのお爺様であるというのは辻褄が合いません」
「それは、この世界と勇者のいた元の世界の時間の流れが違うからだ。あちらの世界はこの世界より時間の流れが遅い。だから、こちらで200年経っても向こうでは数十年しか経っていないといったところだろう」
全員驚きが隠せないといった表情だ。
無理もないだろう、200年前世界を救った勇者が俺のじいちゃんで、しかもその俺もじいちゃんもこの世界の人間じゃないんだから。
「ま、そんなもんか」
「そうだねー」
「まぁ、驚きましたが……これでイツキさんの異常さには納得出来ます……」
「「「うんうん」」」
驚きが隠せない表情をしていた仲間は、割と直ぐに状況を飲み込み、むしろイツキの強さに納得していた。
「いや、本人が驚いてるんだから、もう少し驚いてくれ……」
「イツキ様、残念ですがわたくしも妙に納得致しました」
イツキはアリシア王女にも肩をポンっと叩かれ、慰められた。
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「さて、ビューラの元へ行く前に1つ、君らに頼みがある」
「俺らに頼み……?」
「バルハード……あのドラゴンの子を引き取ってはくれないか?」
「「「「は、はぁーー!?!?」」」」
「バルハードは先の戦いで力を使い果たしたようでな。わたしの魔法で一時は良くなっているが、もういつ力尽きてもおかしくない。奴自身もそれを理解していて、自分を守ろうとした君たちなら、と頼まれてな」
「いやいや、ドラゴンの子なんて育てられないですよ!」
「何、心配するな。強い力を持つドラゴンの子はその力を抑えるために人の姿で生まれる。お前らでも育てやすいぞ?」
お前らでも育てやすいぞ?じゃない!
なに、ニコッと微笑みながらえぐいこと言ってんだこの人!!
「なんだ?ダメなのか?ならば仕方ない……可哀想だがバルハードの子はこのまま他の魔物に襲われるだろうな……はぁ……どこかに心優しい冒険者は居ないものか……」
ち、チラチラこっちを見ながら言うな……
「……はぁ、分かりましたよ。ただし!条件があります!」
「ほう……なんだい?」
「エリノアさんも手伝う事です!!」
「なんだ、そんなことか。いいだろう、ではバルハードの子を頼んだぞ」
エリノアさんの家を出てバルハードの元へと戻ると、既に息絶え絶えと言った様子で俺らを待っていた。
(安心して眠れ、バルハード。お前の子は、このイツキが預かり育てる。わたしも力を貸し育てる。立派な炎王竜の娘としてな)
(すまぬな、エリノア……我の子を頼んだ……)
バルハードはエリノアと最期の挨拶を済ませ、静かに息を引き取った。
こうして、俺らは炎王竜バルハードを看取り、その子を育てる事となった。
後は、エリノアさんを連れてビューラ王妃の元へ帰るんだ!
「……ん?何してるんですか?」
「何ってビューラの元へ行くのだろう?ならばポータルを使った方が早いだろ?」
キョトン、とした顔でエリノアは魔法を起動していた。
「ぽ、ポポ、ポータル!?幻の転移魔法じゃないですか!?」
「「「「転移魔法!?!?」」」」
「どうした?ほら、早く行くぞ!」
早く行くぞ!じゃないよ。
本当に王都に着いてしまった…俺らが何十時間もかけた距離をこうも一瞬で……
この人色々とおかし過ぎるだろ!!