「あ、イツキおはよう!」
「遅かったな、イツキ」
「おはよー」
城の外へ行くと既にみんな集まっていた。
「イツキさん、おはようございます……」
「そ、ソフィーさん……おはようございます」
ソフィーの後ろに阿修羅が見えた俺は、深々と頭を下げ挨拶をした。
「なぁ、あいつ何があったんだ?」
「さぁ……でも、なにやらソフィーが不機嫌なのは確かだね」
「となると、俺らは関わらない方向で行こう」
「うん。それがいいね」
2人は、一目でイツキが何かをやらかしたこと、ソフィーが不機嫌なことを察した。
そして、被害が及ばないように関わらないことを決めた。
「今日は光の魔術師のところに行くんだろ?」
「ああ、でもその前にクレマンさんの店に寄って頼んでた武器を受け取ろうと思う」
「そういえば頼んでたな。じゃあ、行くか」
俺たちはクノンルデア森林に行く前に、クレマンさんの店に向かった。
「おお、来たな!イツキ!」
「おはようございます、クレマンさん」
「頼まれてた物出来てるぞ!」
クレマンさんは、店の裏から頼んでいた刀と手甲を持ってきた。
「言われた通り作っておいたぞ」
「軽い……!」
アーマード・スコーピオンの外皮と同じく漆黒の刀身、日本刀と同じ長さでありながら軽く振り抜きも良い。
「アーマード・スコーピオンで作られる武器は軽く、高い強度を誇るんだ」
「なるほど……いい武器を手に入れた!」
「よし、それじゃあその刀に名を付けろ」
「名前……?」
「名をつけることにより、武具との繋がりが生まれ、よりその力を引き出せるんだ」
武器への名付け。
それは、武具との繋がりを強め武具の力を引き出すことが出来る。
ただし、その力は使用者の力量、製作した鍛治職人の力量、そのどちらかが欠けていては引き出すことが出来ない。
「本来、名付けをしたところで力を引き出せるかは分からねぇが、アーマード・スコーピオンを素手で倒せるお前なら問題なく引き出せるだろう」
「名前……か……」
漆黒の刀身……黒…闇……
「決めた!こいつの名は
俺が名を呼んだ瞬間。
刀身に名が刻まれたことがハッキリと分かった。
「無月ねぇ、いい名前だな」
「うんうん!カッコイイね!」
「無月……月明かりが届かぬ暗闇…ということですね」
「ああ、黒い刀身のこいつにはピッタリの名前だろ?」
無月……この刀なら多少の強く振ってももつだろう。
「それと、こいつだ。戦闘の時だけ引き出して使えるように作っておいた」
「おお、これは使いやすい!ありがとう、クレマンさん!」
クレマンさんが作った手甲は普段の使いやすさを重視して、戦闘時以外はしまっておくことが出来る作りになっている。
「これが、イツキさんの言っていた防具ですか?」
「そうだ。こいつは手甲っていって刃物なんかから守る役割があるんだ」
「へぇ〜、初めて見るなそんなの」
「こいつは俺の故郷の防具だからな」
「そりゃあ、見た事ないわけだ」
お礼を言い店を出ようとした時、クレマンさんは思い出したように刀と手甲に付与魔法を施したことを教えてくれた。
「忘れてた、そいつらに付与したものについてだ」
「付与……そんなことまでしてくれたんですか?」
「まぁ、もののついでだ。まず、刀の方だが切れ味と耐久力を上げる魔法を付与しておいた。次に手甲の方には、魔法防御耐性と自然修復を付与しておいた」
「そんなに沢山……ありがとう!クレマンさん!」
改めてお礼を言い今度こそクレマンさんの店を出て、アルベルト王の計らいにより用意された馬車へと向かった。
「あれ、マーシャルさんもきてくれるんですか?」
「王家の頼みで動いてくれる君たちに、もしもの事があったらいけないからね。森の中まではついて行けないが入口までの安全を守る役を仰せつかったのさ」
「できれば光の魔術師の所までついてきて欲しかったです……」
「ハハハ。それじゃあ、出発する。乗ってくれ」
マーシャルさんの合図で馬車が動き出した。
俺たちの目指す先はクノンルデア森林。
長い草原を抜けた先にその森はある。
クノンルデア森林はプラチナランク冒険者でさえ入るのを拒む場所。
この森には強力な魔物が住むとされ、その強さはプラチナランク冒険者が苦戦するほどだという。
しかし、そんな森の最奥部に住むという光の魔術師。
一体、どんな魔術師でどれほどの婆さんが住んでいるんだろう……
どのような場所なんだろう、と馬車の外を眺めていると馬車の積荷が動いたような気がした。
「な、なぁ、今あの積荷動かなかったか?」
「なーに言ってんの?動くわけないじゃん」
「そーだぞイツキ!いくらこれから行く森が怖いからって今からビビんなよ!」
「いや、違うって!ほんとに動いたんだって!」
おかしいな……絶対に動いたはずなんだけど…
長閑な草原を抜けると突然森が現れた。
「ここがクノンルデア森林……」
「なんか思ったより普通の森だな」
「だねー、そんなに強い魔物居そうにない感じ」
確かに、見た感じ普通の森だ。
しかし、この森嫌な感じがするな。
何か大きい生物が獲物を捉えているような……
「それじゃあイツキくん、くれぐれも気をつけてくれ」
「分かりました。ここまでありがとうございました」
森に入ろうとした時、馬車から聞き覚えのある声が聞こえた。
「やっと着きました……」
「「「「あ、アリシア王女ーーー!?!?」」」」
積荷の中から出てきたのはアリシア王女だった。
「あ、アリシア王女、ど、どうしてここに?」
「イツキ様に頼んでも連れてきて下さいませんので、それならばとマーシャルに頼み積荷に紛れさせてもらいました」
「マーシャルさんが手引きを……」
マーシャルさんの方を向くと、爽やかな笑顔でこちらを見守っている。
「マーシャルさん、これ何かあった時責任取れないんですけど?」
「アハハハ!大丈夫だよ、イツキくん。アリシア王女はこう見えても強い。それに回復魔法も使える、君たちはついて来てもらって損は無いと思うけど?」
損は無いだと?この爽やかイケメンめ!
仮に得があっても、損が大きいだろーー!!
「あ、あのー、どう考えても損の方が大きいんですが?」
「イツキ様。無茶は百も承知です!ですが、わたくしが直接出向かなければ御無礼に値します。自分の身は自分で守ります。どうか連れて行ってください!」
アリシアは王族という立場であるにもかかわらず、俺に頭を下げお願いした。
「はぁ……分かりましたよ。連れて行きますよ。どうせあの人連れて帰らないだろうし……」
「あ、ありがとうございます!」
「ただし!俺らが全力でお守りします。アリシア王女はアランの傍から離れないでください」
こうして、マーシャルさんとアリシア王女の策略に乗せられた俺らは、王女様を連れこの危険な森に住む光の魔術師のもとへ向かうこととなった。
この森から感じる強い気配は気になるけど、まぁどうにかなるだろう。