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4章…10話

「よかった…泣く事ができましたね、やっと、やっとできましたね」


介護士さんに言われた母の顔は、さっきまでと違って、明らかに血が通っていると感じた。



「涙には、癒やしの効力があるといいますが…霧島さんは入院以来、ずっと泣くことができなかったんです」


それは、私も知らなかった事実だ。

…知らなかったというより、知ろうとしなかった。


私は母が恐ろしくて、理解しようとしてあげられなかった…



「これから少しずつ…で、いいんじゃない?」


嶽丸は私の心の言葉に気づいたように言う。 


私も父も、あの日から十数年ぶりに互いを見つめ合う事ができた。


嶽丸の言うように、少しずつ。

私も母を、父を理解していきたいと思う。


きっとできる。

それはきっと、でっかいハートの嶽丸が、私のそばにいてくれるから。





「父さん、母さんが住むあの家のそばに、戻ろうと思うんだ」


しばらくして父から来た連絡は、とても意外なことだった。



「戻るって…」


「母さんが許してくれるかは、わからんがな」


いきなり同じ家に住むことは無理でも、近くに住んで、少しずつ交流していきたいという。


「母さんの心の病は、美亜…お前のせいじゃない。原因は、俺だ」


今度こそ逃げずに、母を支えていきたいと…

また、一緒に暮らしていきたいと…


そうなったらどれほど嬉しいだろう…

それはきっと、お母さんだって。



離れていた年月を思えば、以前のような家族の形を取り戻せるか…不安はある。


でも、少しずつ、一歩ずつ…

大人になった私も、両親の間に絡まる糸をほぐす手伝いができたらいいと思う。




いつの間にか、私の心に重くのしかかっていた母への恐怖は薄らぎ、父への思いも変化しているのを感じる。


もちろん、すべてまるっと解決したわけじゃないけど…確実に家族の姿を変える手助けをしてくれたのは…

嶽丸だ。


嶽丸が全部…私の重たい荷物を、取り払ってくれた。



「ありがとう…嶽丸」 


今日も私の隣に当たり前にいてくれる。



「ん…お礼なら、体でして?」


その胸に飛び込む私を包み込みながら、相変わらず妖しい顔で笑う。



…さすが嶽丸。

ブレないそういうところも…



大好き…。






【私のポチくんと俺のタマ】


END












それなのに、しばらくして…

嶽丸が意外なことを私に告げた。







「俺、この家出るわ」








ずっと2人で暮らしてきた私のマンション。




また2人で暮らし始めたばかりなのに…なんで?





…番外編に続く




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