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3章…11話

「…お帰り」


仕事が終わって店を出たところで、ふいに肩を抱かれて驚いた。


「嶽丸…っ!?…どこからわき出た?」


「わき出る?…俺は清流か?」


驚かすようなことをする犯人は嶽丸に決まってるけど、予告なしの待ち伏せは、本当に心臓に悪いからやめてほしい…!



「迎えに来たんだから喜べ。俺はみゃーの好きな人なんだろ?」


余裕で見下ろすドヤ顔がムカつく。

…でも、みるみる頬に熱が集まってくるのを止められない。



「…あ、頭から湯気が出てる」


「え?!っやだ!うそ…」


慌てて頭のてっぺんを押さえて、湯気の流出を防ごうとした私に、ケラケラと渇いた笑い声が聞こえる。


「かーわいー!家に帰るまで持たないから、ホテルにでも連れてこうかなぁ…」


嶽丸はいきなり脇道に私を連れ込む。

するとあちこちに、休憩と宿泊の文字が並ぶ看板が目立つ通りに出た。


「…ちょ!バカじゃないの?こんな職場の近くでこんなホテルに入るわけないでしょ!」


嶽丸の腕に巻き付いて、通りを右にぐいっと曲がって大通りに戻った。


「…おー!うまいうまい!」


何を褒められてるんだかわからないけど…なんだかちょっと嬉しくなる。




「…急に迎えに来て、どうしたのよ?」


帰り道、スーパーに寄って食材を買い込んで、荷物をエコバッグに詰め込みながら聞いてみた。



「…だから、早くヤりたいからホテルに連れ込もうと思って…」


さっきからエロに話を変換する嶽丸独自の話術で、なんとなく話をそらされてる気がする。


家に到着してみれば、案の定。


急に抱きついてくるわけでもなく、キスを落とされるわけでもなかった。



いつものように夕飯を作ってくれて、せっかくだから手伝おうと一緒にキッチンに立った私は、キャベツの千切りを担当すると宣言。


しかし途中で嶽丸によりストップがかかる。



「…ちょーっと待ったぁ…。みゃーちゃん?これはぶった切ってるだけで、千切りとは言わないんだよ?」


優しく微笑まれ、包丁を奪われてしまう。


与えられたカルピスを飲みながら料理を続ける嶽丸を見つめていれば、いつもと同じかな…と思ったんだけど。




「今日は一緒に風呂入ろうぜ」


食べ終わった食事の片付けは後回しでいいと言いながら、嶽丸は私の手を引いてバスルームに直行するけど、こんなのなんだからしくない。


いつも、後片付けは済ませてから、お風呂なのに。



「…はい、バンザイ」


言われてつい両手をあげてしまえば、着ていたカットソーが脱がされ、あっという間に下着姿にされてしまう。


スカートのチャックに手がかかったところでハッとして、嶽丸の手を止めたけど、時すでに遅し。


子供の服を脱がせるみたいな手早さで、私は身ぐるみ剥がされてしまった…。


仕方なく湯船につかってみれば、横目に写る、嶽丸の足。


ちゃぷん…と後ろに入ってきて、すぐに両腕両足の間におさめられた。



「…みゃー、あのさ」


すぐに話し出す嶽丸。

その雰囲気から、迎えに来たときから話したいことが、本当はあったんだと感じる。


「…どした?」


なんとなく…らしくなくて、後ろから抱きしめる嶽丸と目を合わせようと、後ろを向こうとした。



「…そのままで聞いて」



「うん…」


気持ちを落ち着けるように、嶽丸は私のうなじにキスを落とす。


「俺は、みゃーを愛してる。誰がなんと言おうと」


ウエストの辺りでクロスさせていた腕をほどいて、胸元に手を這わせた。


「…今朝、好きだよって言ってくれたことがすごく嬉しかった」


「うん…」


「俺は、みゃーの恋人ってことで、合ってるよな?」



恋人…

一瞬、嶽丸を縛ってしまう…という怖さが、心のすみにわいてくる。


でも私はもう自覚しちゃった。

好きだよって、今朝言ったことは嘘なんかじゃない。


「…嶽丸が、良かったら…」

「いいに決まってるじゃん」


被せるように言う嶽丸の言葉は温かくて…我慢できなくなって振り向いた。


ハッとした顔で私を見下ろす嶽丸の目には、涙が浮かんでるように見えたから、焦ってその首もとに抱きついた。


「…泣くほど、嬉しいの?」


「あ、まぁまぁ…だから振り向くなって言ったのに」



裸のまま抱き合って…高まり合うまで、10秒。


もつれ合うようにソファに組みしかれて、私の両腕は頭の上で縫い止められた。


何度、愛してるって言われただろう。

何度、切なく名前を呼ばれただろう。


言葉で表現しきれない何かをぶつけるように激しく愛されて、私は意識が飛んだらしい。


気付くと、嶽丸はまだ私の体を撫でていて、唇に、頬に、首筋に、キスを落としていた。


それは官能というより、慈愛。

何もかもを削ぎ落とした私をも、愛していると表してくれているような、深い愛を感じた。


「…嶽丸」


望むなら、もう一度受け入れたくて、嶽丸の頬に触れた。


でも嶽丸が望んだのは、自分が言う言葉を心に刻むことだったらしい。



「みゃーは俺のものだ。俺も、みゃーのものだ。どんなことになっても、俺はみゃーを離さない」


気付くべきだった。

嶽丸が言った言葉は、この先私たちが離れてしまうことがあっても、って、前置きがつくことを。


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