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第12話 Side.嶽丸

「久しぶり…!アパートついに追い出されたって?」


約束した居酒屋。

テーブルで俺を待つのは、美亜の従兄弟の霧島健だ。



「まぁ…な。で、聞いてるかもしれないけど…」


「なに?」


健が生ビールを飲みながら、はてな顔で俺を見たので、少し意外に思う。


俺が部屋に居座るようになったこと、美亜は健に言ってないのか?


てっきり健から、「変な気を起こすな」とか、クギを刺されると思っていた。


何も言ってこないからおかしいな…と思っていたら、昨日メッセージをもらった。


美亜とベッドにいるとき対応していたメッセージは、健からのもの。


正直、ちょっとムードを壊してくれた…とイラついた。



「今、美亜のところにいるんだわ。…居候って奴?」


「…へぇ…!嶽丸、ついに動いたか」


「はぁ?」



美亜の名前が出て、とたんにニヤリとする健。



「嘘だろ…気づいてないとか言うなよ?」


「…なにが?」


健は含み笑いを隠しつつビールを飲み干し、2杯目を注文してから俺の顔を見る。


「昔から美亜のこと好きだったじゃん。今だってなにかって言うと美亜の話を聞きたがってさ…」


好きだった…?俺が美亜を?


「バカ言うなよ…俺は別に、美亜のことはなんとも…」


言いながら、初めて会った中学生の時のことがふと蘇った。


今より少し幼い美亜の、花のような笑顔。制服の白いブラウスを着て、紺色のソックスを履いてたのを思い出す。



「隠してたもんな。…でも俺には丸わかり!」


何も言えなくなって、ビールを飲み干す俺を見て、健が意外そうに続ける。


「まさか…気づいてなかったのか?美亜への気持ちに」


「わかんねー…」


言われてみれば、初めて会ったとき、何か感じたような気がする。

でもそれが、恋とか愛とか気づくには、俺が子供すぎたのか?



「でもな…美亜か…ちょっと厄介だな…」



急に奥歯にものが挟まったような言い方をする健。



「なんだよ。美亜がなんだって?」


「いや…まぁ、今日は飲もうぜ!」



ごまかされてイラッとしたものの、これ以上追求してひやかされるのも嫌で、移った話題に乗ることにした。



………


酒に酔って「女の子と一緒に飲みたい!」と叫ぶ健を、知ってるガールズバーに連れて行ってやった。


「…あ、嶽丸!」


ドアを開けた瞬間、女の子たちがワッと俺に群がる。

…悪いな、健。



ボックス席が1つ空いていて、そこに案内してもらうと、さっそく両隣を知ってる女の子に挟まれた。


見ると健もそれなりに接待されていて楽しそうだ。


しばらく酒を飲んでトイレに立つと、後ろから「嶽丸…」と呼ぶ声がして振り返る。



「舞子…」


このガールズバーのママ的存在。

とは言っても、まだ26…俺と同い年だ。



「最近…全然連絡くれないね…」


「あぁ…ちょっとプライベートがバタバタしててな」



それは嘘じゃない。

ここのところ、美亜の部屋に転がり込んだり、バカ真面目に働く美亜のことを心配したり、疲れきった美亜を癒すのに忙しかった。


それに…



「じゃあ…今日は?ここに来てくれたってことは…いいでしょ?」



人目を避けるように廊下の奥に押され、抱きついてきた。ふと下を向けば、いっとき夢中になった色っぽい唇が目に入る。


一瞬、キスをしてみれば、自分自身が反応するのか確かめられる、と思った

すると次の瞬間、舌を絡め取られ、貪るようなキスで唇を塞がれる。


…俺が相手に選ぶのは、自分から旺盛に求めてくるタイプ。そういう女は面倒なムード作りなんかしなくていいから楽。お互い手っ取り早く気持ちよくなれれば、それでいい。


この前ホテルに行った女の子もそうだが、舞子もその代表的なタイプの女だ。


…止めなければ、このままトイレの個室にでも連れ込まれ、自分から下着を脱ぐだろう。


でも…今日は無理だな。



「お前…この店の責任者だろ?営業中に客とベロチューとか、いいのかよ?」


そう舞子に言いながら、店長として働く美亜を思っていたことは秘密。



するとキスを中断されて、らしくないことを言う俺の股間を、舞子がサッと撫でた。



「…嘘…なんで?」



手応えを感じないソレに、ショックを受けたらしい。



「知らねぇ。…なんか俺も、1つ大人になっちゃったのかもな?!」



なんで急にこうなったのかは…俺も自分自身に聞いてみたい。


…………


泥酔一歩手前の健をアパートに送り、俺は美亜のマンションに帰った。


もう深夜0時を過ぎている。

そっと…玄関のドアを開け、自分の部屋の灯りをつけようとして固まった。



…俺のベッドに、美亜が寝てる。




長い髪がシーツに広がって、立膝に万歳したポーズ。

子供みたいな寝姿に笑みがこぼれる。


なんで俺のベッドで寝てるんだ?

…もしかして、帰るのを待ってた?



うるさいからシャワーは明日にしようと思ったけど、美亜の隣で眠るなら、このタバコ臭をどうにかしたい。


そっとドアを閉めて、俺は手早くシャワーを浴びることにする。



…どうしてこんなに心臓がうるさい?


眠る女の横に入るのは初めてのはずないし、何なら寝込みを襲ったことだってある。


なのに、これから眠る美亜の横に入ると思うと…酒の余韻もあって理性を保てないかもしれないと若干の不安。


あぁ…やっぱり、俺は美亜にしか…




シャワーから出て、できるだけ起こさないように気を使いながら、美亜の横に忍び込む。


そんなに気を使うなら、リビングのベッドで寝ろ!…と自分に突っ込みを入れながら、深まる美亜の甘い香りにめまいがした。



「…んん、…」


起こしてしまった…と、一瞬フリーズした俺を、次の瞬間美亜は、完全に硬直させる。


「たけ、まる…来て…」


細い腕が首に絡んできて、自分から俺の腕の中におさまってきた。



来て…とは?

どこへ…



「…起したな…ゴメン」



とりあえず謝りながら、その背中を抱きしめれば、舞子とのキスでは無反応だった俺自身に、再び熱が集まるのがわかる。



そして、さらに俺を硬直させることを言う美亜。



「抱いてほしぃ…」



「…っ!」



その細い声に、俺としたことが…動揺する。



抱くって今から…?

衝動のまま動いていいわけ?


……………



「おはよ…」



ムニャムニャ言いながら俺の腕の中でゴソゴソ動く美亜を見下ろして声をかけると、ハッとしたように見上げる大きな目。



「…っ?!…嶽丸、帰ってきたんだ…?」


「夜中にな。…なに?まったく覚えてねーの?」


「…」



…ということは、俺を焦らせた「抱いて」発言も覚えてないということだ。


突っ走らなくて、良かったかもしれない。マジで。



それにしても、俺をこんなに翻弄するの、ホントにこの子が初めてなんだよな。



「私は今日も仕事なので、お先…」


「…ちょっと待った」


「…なに?昨日、和臣ともケンゾーとも話せなかったから、早く仕事に行かなくちゃ…」



腕を抜け出そうとする美亜を仰向けにシーツに押し倒し、上からのしかかって唇を奪った。


…いつもと違うのは、そのまま首筋までキスで伝って…型崩れなんか気にせず、Tシャツの襟元をぐいっと引き下ろしたこと。


「ちょ…あの…嶽丸?!」


慌ててるのは俺の行為か?それとも時間?


あらわれた白い胸元に、迷いなく唇と舌を這わせる。



「…忘れんな」


「…?」


「美亜にこんなことを出来るのは俺だけだ」


白い胸元にキスを落とし、そのまま吸い上げると、しっかり紅い跡がつく。


「…これ…?!」


「…マーキング。知らねぇの?」


わずかに頬を紅潮させ、美亜はそのまま俺の手から離れていった。



ふん…これくらいさせろ。


美亜が寝ていたあとに倒れ込み、思いっきりシーツの匂いを吸い込むと…


美亜のシャンプーの香りがして、俺はまた落ち着かない気持ちになった。


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