俺もたいがいどうかしてる。
ベッドで女と寝るだけなんて、前代未聞だ。
俺は美亜をどうしたいんだ?
こんな風に抱きしめて、深いキスにならないように気をつけながらキスをして…
なにが面白い…?
実際、辛い。
…俺の男の部分が雄叫びを上げて、
それをなんとかやり過ごして、また騒ぎ出して、やり過ごして…って、バカなんじゃないか?
でもこれで…その可能性は高くなった。
いやまだ…検証の余地はある。
余地はあるが、そんなことを確かめるために、また別の女を誘うのもダルい。
今朝、ここまで赤い車で送ってくれた女は、ここ最近では一番可愛いくて気に入ってた女だ。
メッセージをくれていたことに気づいて、会う気になった。
それは、美亜を抱きしめてそれなりにムラついてたし、発散したい思いがあったから。
でも…会った時からなにか違った。
彼女は以前と同じように可愛いしエロいけど、俺の中でなにも燃えない感じ。
それでも、積極的な彼女にねだられるようにホテルに入った。
彼女はいつも自分から仕掛けてくる。俺に火をつけるのがうまい。
…そのうち形勢逆転して、俺に組み敷かれ、コトが始まるのがいつものパターンなのに…
どんなに柔らかい肌に触れても、敏感なところを撫でて声をあげさせても、なぜか俺の芯が熱くならなかった。
それはすぐに彼女にも伝わった。
結局、奉仕だけはしたけど、あとは触れる気にもなれず背を向けて眠った。
なのに…今の俺はどうだ?
美亜を抱きしめて、その存在を身近に感じて、体が熱くなってる。
…甘い声で呼ぶな。
たまらず呼び返したのに、聞こえるのは規則的で穏やかな寝息。
…もう唇を合わせたまま眠ったろ。
「お…はよ。あれ?私…蹴り飛ばすとかしちゃったかな?」
寝乱れた姿を惜しげもなくさらして、美亜がキッチンに立つ俺に近づいてきた。
上目使いで心配そうに視線を合わせてくる。
「…まぁ、な。蹴りがすごくて早起きしたからハイ朝飯」
ハムとトマトとチーズをフランスパンに挟んだカスクートってやつ。
「わぁ…すごっ!なんかタレみたいの落っこちてるよ?」
パンの隙間からこぼれるソースが皿の上に広がるのを見て言う。
…美亜は、朝起きると小さい女の子に戻るのか?言う事がアホっぽくて可愛い…
「タレってゆーか、チーズソースな。適当に作ったから美味いかわからん」
「美味しいよきっと!わーい!」
可愛いふりをしたり、見られてることを意識したり…俺の周りにいる女なら、絶対しないような大口を開けてパンにかぶりつく。
「…ほら、慌てて食べるなって…ソースがほっぺについてるぞ?」
指先にもついてる…
あぁもう…舐め取ってやりたい…
そう思ったそばから、自分で指先を舐める美亜。
「あのさ、嶽丸…昨日のアレ、なに?」
「昨日の…アレ?」
キス…それとも下半身の変化がバレたか?それとも、下心満載で撫で回した背中のこと…
心当たりがありすぎてわからない…
「あの女の子に言ったじゃん。本命って」
「あ…」
あれは…彼女を抱けなかった理由を言いたかったというか、携帯の待ち受けを見られてたから辻褄合わせに白状したっていうか。
「それに、携帯の待ち受けが私って?」
「…ん」
「なんか、やらしい写真、撮った?」
「まさか…!」
ちょっと見せてと携帯を奪われた途端、ふわっと画面が明るくなって…
「これ、ソファで一緒に寝ちゃった時の?」
朝方、部屋が明るくなると、唇を突き出すようにして眠る美亜の寝顔がよく見えた。
閉じたまぶたの長いまつ毛が綺麗だと思ってつい、撮ってしまったもの。
「まぁ…可愛いと思ったから。女の子の寝顔、好きなんだよね。コレクションってゆーかさ」
…嘘だ。女の寝顔を撮る前にいつも先に爆睡してるし、先に起きたこともない。
「じゃあさ…あの、し、下着が嶽丸の部屋に置いてあったんだけど」
…それを今言われるとは思わなかった。忘れてた。あー…
「あ…あれは…」
畳んでやろうとして、つい見入ってしまった。黒い繊細なレースで…服の下にこんな下着をつけているのかと…妄想した。
「おかず…かな!」
いや、本当はそこまでのことはしていない。でも…妄想してうっかりその場に置きっぱなしにしてしまったのは確かだ。
だったら、俺のキャラからして、おかずって言っておいた方が笑えるだろ。
「…え?」
美亜がみるみる真っ赤になった。
「わ、私も…」
「?…」
「昨日帰った時、裸の嶽丸を見て、綺麗って思った!」
それだけ言うと、美亜はほっぺにチーズソースをくっつけたまま、「ごちそうさま」と言って逃げていく。
洗面室まで追いかけたのは無意識。
「綺麗って思って…あとは?」
「あ、あと?」
「触りたいって思った?」
美亜の両手を取って、Tシャツの裾から腹を触らせる。
「わ…固いね…」
「リモートで体が鈍らないように鍛えてるからな…」
美亜の手が腹筋を撫でて胸へと上がっていく。触れたところは弱い電流が走ったみたいになって…
俺は美亜のほっぺのチーズソースをキスしながら舐め取った。
そしてそのまま唇へと移動して、甘いキスへと変わっていく…
「…早く逃げないと」
されるがまま、キスをされている美亜に、注意喚起を促した。…このままでは、エスカレートしていくんだが?
荒ぶる俺を、感じないわけじゃないだろう…
「今日は、休日出勤だから、早くないんだ」
いつの間にか、唇を離しても抱きついてくる美亜。
これってあれか…先に進んでもいいっていう…
「何だかね、男の人の体って癒されるの」
いやらしく動き出した手がピタッと止まる。
「男の体に?」
「うん。自分とは違う、しっかりした…体。体温も多分私より高くて、固い体に寄りかかって、触れていたいって思う。すごく安心する」
洗面室で立ったまま、俺の背中に手を回して、胸元に頬を擦り付けてくる美亜。
柔らかくて甘い匂い。
細く高い声で俺の鼓膜をジリジリ揺らして…
「…猫のタマ」
「ん?…なんて?」
「猫みたいだって思ったんだよ。こんな風にスリスリ甘えてきて」
「じゃあ…嶽丸は、私のポチくん、って感じかな?」
「…ポチ?犬…?!」
…なんてこった。
女に犬呼ばわりされた。
この俺が?
「ふふ…」
でも美亜になら、犬でもポチでも好きなように呼べばいいと思う。
そしてそんな発想が好きだ。
それに…「私の…」ってついているからいい。
「…なんかさ…少し暑くなってきたね」
そうだった。エアコンが壊れていた。…朝のうちは涼しかったリビングも、太陽が高くなるにつれ、確かに暑い。
美亜が俺から離れてしまう…
くっそ…今日中に絶対エアコン直してやる!