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ナナメ四畳半ゲーム実況奮闘記
深海インク
ゲーム配信・ゲーマー
2024年11月28日
公開日
3,470文字
完結
バグ発生で配信ピンチ!現れたのは最強助っ人…おばあちゃん!?ミカン片手に珍問答、まさかの神展開に視聴者熱狂。計算外の笑いが、まさかの奇跡を起こす!

第1話

「でね、ポチッと押したら、ブワッとこう、予想外の色に染まるってわけ!」


星子の指先が宙を踊る。目線の先には最新ゲーム機。モニターには、ただいま絶賛バグり中のゲーム画面が投影されていた。マゼンタ色の爆発に続いて、虹色の謎生物がピョンピョン飛び跳ねる。背景は、なぜか横縞模様の回転寿司。


「寿司ネタが飛んでるってどういうバグよ?」と、あきれたようにツッコミを入れるのは幼馴染の健太だ。ゲーム実況配信のため、星子の家に集まっている。賑やかし役兼ツッコミ役を買って出た健太は、実況を盛り上げる名脇役を目指し、日々特訓中だ。


「宇宙回転寿司銀河だから?」と星子が首を傾げる。至って真面目な顔だ。


「説明になってない。というか宇宙回転寿司ってそもそも何?」


「知らん。だってバグってるんだもん」


「バグで設定生まれたの?」


「ありえるかも」


噛み合っているのか、いないのか。珍妙なやり取りは、だが不思議と心地よいリズムを生んでいた。モニターの向こうの視聴者たちを意識して、星子は努めて明るい口調を保つ。


「ま、いっか。宇宙寿司が跳ねる世界もオツなものよね、みんなもそう思わない?」


視聴者からのコメントが画面を流れ出す。


『あるあるwバグは醍醐味』

『逆に新鮮』

『斬新な設定!』


好意的な反応に星子はホッと息をつく。バグを逆手に取り、楽しんでしまおうという作戦勝ちだ。


「じゃ、宇宙寿司、キャッチするよ!おりゃ!」


星子はコントローラーを握り、画面に向かって叫んだ。宇宙寿司は果たしてキャッチできるのか。緊迫の瞬間!……と思った次の瞬間、ゲームは突然フリーズした。モニターは静止画と化し、BGMも消えた。そして数秒後、画面は真っ黒になった。


「……え?落ちた?」星子が呟く。


「おいおい、どうなるんだよ、これ」健太も呆れ顔だ。


配信画面にコメントが殺到する。


『配信事故w』

『強制終了?』

『ドンマイ』


「みんなごめん!えーっと、これはあれだ、あれ。えーっと……」星子は必死に言葉を探す。どうにかこの状況を笑いに変えなければ。焦れば焦るほど言葉が出てこない。沈黙が配信を支配する。


その時、背後で「おやつですよ」というのんびりとした声が響いた。襖を開けて現れたのは、星子の祖母、通称ばあちゃんだ。手にはお盆。山盛りのミカンが載っている。


「あら、テレビ壊れたの?」


「壊れてないわ!配信中なの!」星子は少し苛立ち気味に答えた。


「そうなの?よくわからないけど、おやつ食べながら頑張りなさい」


ばあちゃんはお盆をテーブルに置くと、のっそりと星子の隣に座り、ミカンの皮を剥き始めた。マイペースすぎる乱入者に、視聴者たちは、


『ラスボス現る』

『おばあちゃん、ナイスキャラ』

『ミカン食べたい』


星子は諦めたようにため息をついた。


「もー、ばあちゃん、配信中だって言ってるでしょ」


「そうなの?よくわからないけど、頑張ってるなら良いことだね」


「よくわからないなら、せめて邪魔しないでよ」


「邪魔してるつもりはないんだけどねえ。ミカン美味しいよ」


「ミカンは関係ないから」


祖母と孫のちぐはぐな会話。この奇妙な空気感に、視聴者たちはすっかり魅了されている。コメントは途切れることなく流れ、もはやゲームのバグは話題にすら上がらなくなっていた。主役は完全に、天然系おばあちゃんへとシフトチェンジしたのである。


「あのー、配信再開しないんですか?」と恐る恐る尋ねる健太。空気を読むのが上手い彼は、あえて大人しく見守っていたのだが、さすがに見かねたらしい。


「あ、そうだ。ごめんごめん」


星子は慌ててゲーム機を再起動する。が、画面は相変わらず真っ暗だ。


「あれ?つかない?」


「さっきのフリーズで逝ったかもね」と冷静に分析する健太。


「え、嘘でしょ?」星子は顔を青くする。楽しみにしていたゲーム実況配信が、とんでもない方向へ転がっている。これもまたバグの一種か。いや、人生のバグなのかもしれない。


画面に流れ出す同情のコメント。


『泣くな星子』

『ドンマイすぎる』

『再インストール頑張れ』


その時、再び「おやつですよ」と朗らかな声。ばあちゃんが再び襖を開けて現れた。今度は煎餅の山盛りだ。


「あら、まだ直らないの?」


「直ってないわ!」星子の声には、わずかな疲労の色が滲んでいた。


「そうなの?大変ねえ。お煎餅食べながら頑張りなさい」


「もうおやつ食べたから!」


「あら、ミカンだけじゃ足りないでしょ。たくさん食べて元気だしなさい」


「そういう問題じゃないから!」


絶妙なタイミングで現れ、マイペースに場をかき乱す祖母。彼女の存在は、もはやこの配信にとって不可欠なものになりつつあった。想定外のハプニング、予測不能の展開、そして流れるように繰り広げられる祖母と孫の頓珍漢な会話。完璧なシナリオなど存在しない。ただ、そこにあるのは偶然の産物が生み出す不思議な調和だった。


『おばあちゃん、いいキャラしてる』

『もうおばあちゃん配信でいいよ』

『癒される』


コメント欄は称賛の声で埋め尽くされていた。星子の必死のゲーム実況よりも、祖母との何気ない日常の方が視聴者の心を掴んだのだ。ゲームという機械と、人間の温かみ。そのコントラストが、予想外の反応を生み出したのかもしれない。


その後、どうにかゲームは復旧したものの、配信の主役はすっかり祖母になっていた。星子がゲームを進める傍ら、祖母は独自の視点で感想を述べ、視聴者を笑いの渦に巻き込んだ。


ファンタジーRPGの戦闘シーンでは…「あら、この子、やたらピカピカ光らせて。電気代もったいないねぇ。それに、あのトカゲさん、かわいそうに。そんなに痛めつけないで、お話し合いで解決できないのかしら?」


レースゲームでは…「みんな急いでどこ行くのかしら。そんな危ない運転して、事故起こさないといいけど。あ、この赤い車、色がきれいでいいわね。でも、もう少しゆっくり景色を楽しめばいいのに」


パズルゲームでは…「あら、この四角いの、いろんな色があって綺麗ねぇ。でも、せっかく積んだのにすぐ消えちゃうの?もったいない。私だったら、もっと丁寧に並べて、ずっと飾っておくのに」


 街づくりシミュレーションゲームでは…「まあ、たくさん家が建って賑やかね。でも、こんなに高いビルばかりじゃ、日当たりが悪そう。みんな洗濯物、どこに干すのかしら。公園も作って、お花を植えなきゃね。」


ホラーゲームでは…「あら、この子、こんな暗いところで何してるの?危ないから早くお家に帰りなさい。それに、あの変な人、お腹でも痛いの?顔色が悪くて心配だわ。温かいお茶でも飲ませてあげたら?」


数日後、星子のチャンネル登録者数は急上昇し、一躍人気ゲーム実況者となった。思わぬハプニングから生まれた、奇跡のゲーム実況。機械と人間、計算と偶然、計画と脱線。そのすべてが混ざり合い、不思議な化学反応を起こした結果だった。


星子は新たな動画をアップする。もちろん、そこにはあのマイペースな祖母の姿もあった。「今日はね、このゲームをやるんだって」と、ぎこちない手つきでコントローラーを握る祖母。その隣で星子は微笑んでいる。予測不能な祖母の行動にハラハラしながらも、どこか楽しんでいる様子が窺える。


モニターに映し出されるのは、やはりバグだらけのゲーム画面。だが、もう誰も気にしていなかった。視聴者が見たいのは、完璧なゲームプレイではなく、そこに生まれる人間模様だった。完璧ではないからこそ面白い。予定調和ではないからこそ魅力的。人生もまた、そういうものなのかもしれない。


星子は気づく。完璧を目指すのではなく、目の前にあるものを受け入れ、楽しむこと。それが一番大切なのだと。完璧な攻略法など存在しない人生というゲームを、笑いと共に生き抜くためのヒントは、いつも身近なところにあるのだと。祖母が差し出すミカンや煎餅のように、素朴で温かい、かけがえのないものの中に。


画面の向こう側では今日も、小さな笑いが生まれている。計算された笑いではない。偶然が生み出す、生命力溢れる笑い。それこそが、人々を惹きつけてやまない、かけがえのない宝物なのかもしれない。


…その時、隣で煎餅を頬張りながら画面を見ていた健太が、ぽつりと呟いた。


「…俺のツッコミ、完全にバグってなかった?」


その声は、配信マイクには乗らなかった。けれど、確かにそこに、名脇役の矜持と、かすかな達成感がにじんでいた。


「大丈夫、健太のツッコミは、最高の隠しコマンドだったよ。おかげで予想外のボーナスステージに突入できたし!」


星子はいたずらっぽく笑って、健太の肩をポンと叩いた。


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