目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第2章 第20話 恋してると言われても


「君は僕のこと、怖くないの? みんな僕のこと怖いと言って遊んでくれないんだ」

「怖くないわ。だってあなたは優しい人だって知っているもの! 私はこれからもずっとあなたの友達。笑って! 笑顔笑顔!!」


 僕はあの時誓ったんだ。

 絶対に、君の笑顔を守るって。


【第2章 呪われたネックレス】


 ーロザリンド。君に恋しているー


 君にコイしている。

 わかった。コイってあの魚の鯉のことよね?

 コイ、鯉、濃い。


 いや、なにをどう考えてもやはりラブの恋だ。


 まさかダース王子もカデオのように私に圧力をかけようとしているとか?

 いや、彼に限ってそんなことありえない。


 と言うことは、彼は真面目に私に恋をしているのか。


 私はあの言葉の後、頭が真っ白になり気づいたら一目散にその場から逃げていた。

 いきなりあんなことを言うのだから当然だろう。

 おかげで昨晩は一睡もできなかった。


 私は机に突っ伏し、頭を抱えてうめいた。


「ロザリンド。恋なんてしている場合じゃないの! 自分の使命を忘れた!? なんでこんなことになるのよ!」


 ダース王子には悪いけれど、気持ちは受け取れない。

 私は誰かに好かれたり、誰かを好きになったりする資格はないのだ。


 トントン。

 誰かが扉をノックした。


 ようやく届いたようだ。


 私は寮母さんから小包を受け取ると、机の上に広げる。

 中には、銀色の薔薇の紋様が入ったロケットと、少量の植物が入っていた。


「ちゃんと全部届いてる。さっそく、すり潰しましょう」


 私は椅子に座って、届いたばかりの植物をすり潰す。


 これは、他枯草に効く解毒草だ。

 マーガレットが他枯草を飲んだ時にすぐに解毒できるように。


 アンジェロ様の誕生日パーティーで、マーガレットが毒殺される。

 次こそはそのルートを回避しなければ。


 解毒草を細かい粉にして練り合わせた後、秤量して平ったい錠剤を作る。

 できた解毒剤をロケットの中に入れ、それを首にかけて服の中にしまった。


「よし、これでいいわ。これでマーガレットの毒殺ルートは回避できるはずよ」


 錠剤を作って、なんだか気分がスッキリした。


 今日、ダース王子に会った時きっぱり断ろう。

 好きになられても困る話だ。

 そう、お互いに困るだけの話。


 私はササっと髪を解かして、鞄を手に取り部屋を後にした。


 ***


 ティターニウス学院まで歩いていると、うしろからカデオが挨拶してきた。

 朝から会いたくない人に会うなんて、幸先が悪い。


「おはよう。ロザリンド。今日は少し曇り空が広がっているね。雨でも降るのかな」


 私は会えて嬉しいという顔をどうにか作って挨拶を返す。


「おはようございます、カデオ様」

「今日の放課後暇かな? 君に渡したいものがあるんだけど」

「渡したいもの?」

「美しい君のためのプレゼントだよ。ぜひ受け取ってほしい」


 受け取ってはいけない。

 絶対に何か裏がある。

 だが、いけない理由をどうつくるべきなのだろうか。


「ロザリンド? 今日が悪ければ明日でもかまわないんだよ」

「それが……」


 まずい。

 何も思いつかない。


「おはよう。ロザリンド」


 さらにうしろからダース王子がやってきた。

 これはチャンスだ!

 私はダース王子の腕に自分の腕を絡めて、カデオに言う。


「申し訳ありませんカデオ様。今、中間試験の真っ只中でしょう? 放課後はダース王子に勉強を教えてもらっていますの。プレゼントはまたの機会に。そうだ! テストの点数がよければそのご褒美にいただきに参りますわ」


 だがカデオはなかなか引き下がらない。


「あぁ、勉強なら私でも……」


 私はどうにかカデオの言葉を遮った。


「さぁ、ダース様。早く学校に向かいましょう! 早朝も勉強を教えてくださるとおっしゃていたではありませんか。さぁ。参りましょう」

「あ、あぁ……」


 ダース王子はなんとか合わせてくれたようだ。私は王子を引っ張りながら足早でカデオから離れた。


「はぁ、なんとか回避できたようね……」


 呆然と私を見ていたダース王子は、にやっと笑いながら私の耳元で囁く。


「んで、早朝は何の科目を教えたらいいんだい?」

「ひや!」


 私はダース王子の腕を離して、距離を保った。


「あはは。ダース様。話を合わせてくださってありがとうございます」

「放課後もやるんだろう? 勉強会」

「いやあのそれは……」

「あれれ。嘘だったのかい? それならカデオ兄様に本当のこと言っちゃおうかなぁ。カデオ兄様ー!」

「あぁぁぁ! わかった! わかりました。勉強を教えてくださいダース様」


 ダース王子は意地悪く微笑んだ。


「それじゃ、朝は言語学、放課後は魔法学だ。手取り足取り教えてあげるよ」


 そんなつもりじゃなかったのに……。

 でも、カデオのプレゼントをもらうよりはいい。

 ……いや、良くないかも。


 ー君に恋をしているー


 そうだ……。

 ダース王子とは距離をとっておかないといけないんだった。

 それなのに、腕まで絡めてしまって。しかも勉強を教えてもらうと言ったのも私だし。

 まるで私が乗り気みたいな感じじゃないの。


 私は額をコツコツと指で打つ。


 放課後、勉強を教えてもらっているときに、丁寧に気持ちを伝えればいいだけよロザリンド。

 それなら、相手もわかってくれるはず。


「さぁ行くよロザリンド! 勉強する時間がなくなってしまう」


 いつもより元気になったダース王子が私の背中をポンっと叩いた。


「は、はーい……」


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?