セレナが主犯格だとわかれば話が早い。
本性を現せば即効病院行きになる。彼女が学園にいるときに挑発でもして発狂させてしまえばいい話だ。
私は差出人の名前にアンジェロと書き、セレナに手紙を書いた。
アンジェロ様が書いたようにみせれば、彼女は必ず待ち合わせの場所にやってくるはずだ。
2年生であるセレナの教室は校舎の西側にある。
明日の早朝に机の中に入れれば、後は楽勝だ。
私は手紙を机に置いて、明日に備えた。
「助けて……助けてロザリンド様!」
マーガレットの声で目が覚める。
どうやら夢を見ていたようだったが、これが正夢でないことを祈った。
制服に着替えていると、誰かが扉の下に手紙を忍ばせた。
「誰!?」
急いで扉を開けたが、すでに誰もいない。
セレナの下僕だろうか。一体、彼女は何人の下僕を連れているのだろう。
考えるだけでも身震いした。
紫色の手紙を開く。
まず初めに見えた文。
それは、マーガレットは預かったという文章だった。
〜裏切りもののロザリンド
マーガレットを預かっていますわ。
生きたまま返して欲しかったら、午前10時に4階の西にある旧音楽室へ来ること。
必ず1人でいらしてくださいね。
あなたの友人セレナ・アーガイン〜
彼女に手紙を送るどころの話ではない。どうやら私と直接対決したいようだ。
私は小箱から、何種類もある種を選抜し、制服に着替えて髪を高く結ぶ。
それからアンジェロ様に向けた匿名の手紙を書いて鞄に入れ、それから部屋から出た。
早朝の生徒会室。生徒会長であるアンジェロ様は朝の仕事をこの部屋で行うのが日課だ。以前に追っかけていた時の記憶がここで役に立とうとは。私は朝に書いた手紙をアンジェロ様の机に置いた。
彼がこの手紙を読んでくれますように。
そう願いを込めて、部屋から出る。
教室に入ると、やはりマーガレットの姿はなかった。
10時まで後1時間。ホームルームを終えたら来いということだろう。
私が席に着くと、頬に傷をつけたダース王子がやってくる。
「フェードルス令嬢が来ていないぞ。何かあったんじゃないか?」
私は王子を見ずに答える。
「さぁ、私には関係ないことですわ。ホームルームが始まります。席につかれては?」
第3王子は小さくため息をついて、自分の席に戻った。
これは、私に宛てられた手紙。1人で解決できる問題よ。
今日に限って先生の話が長く、終わった頃には約束時間の10分前になっていた。
私は急いで教室を出て、セレナが言っていた旧音楽室に向かう。
走りながら、薔薇の種を手に握りしめた。
「咲け」
***
残り1分。
旧音楽室に到着し、私は呼吸を整えて扉を開けた。
旧音楽室と言っても楽器は既に新しい音楽室に運ばれており、部屋自体は何も置かれていない。
カーテンが仕切られた薄暗い部屋の奥で、マーガレットは椅子に縛られて気絶していた。
「マーガレット!」
彼女に近づこうとした時、音楽室の奥にある扉からセレナが現れた。
「ロザリンド。もう一度あなたにチャンスをあげますわ。彼女を殺して私の僕に戻るか。ここで2人とも私に殺されるか。さぁ、どっちがよろしい? 私的にはどちらちとも死んでいただく方が好都合なのですけれど」
セレナの僕という妄想は続いているようだ。
私は薔薇の茎を一振りして、刺突剣を構える。
「私、元からあなたの僕じゃありませんの。あなた随分悪いことしているみたいだけど。悪女は私だけで十分でしょう? もう一度あなたを病院送りにしてあげますわ!」
「やってみなさいよ! あなたたちに紅蓮地獄を味合わせてあげるんだから!」
セレナが白いオーラを纏い、口からふぅと息を吐く。
吐いた空気は吹雪へと変わり、教室一面が銀世界に変わっていった。
これがセレナの能力。
念力の能力をもっていたおさげ髪の彼女が怖がっていた紅蓮地獄。
それは彼女の氷の能力ゆえの言葉だった。
彼女はさらに手をかざす。
すると、床全体が凍りついた。
「死ね! ロザリンド!」
手を上げて天井に大きくて鋭い氷柱を出現させる。
それは私の頭上に落ちてきた。
床が氷のせいかうまく避けれず、氷柱が右腕を掠める。
氷柱を避けている間に、セレナは教室の温度を下げていく。
部屋は氷点下まで下がり、吐く息が白くなる。
マーガレットを見ると、瞼に霜が降りていた。
このままだと先に彼女が凍死してしまう。
「ほらほら。避けている間に彼女が死んでしまうわよ。どうするの?」
ここまで温度が下がると植物が育たない。
私の装備はこの薔薇の刺突剣だけ。
「おほほ。あなたのその剣だけで私に敵うとでも?」
「剣だけですって?」
私はほうっと息を吐くと、剣をスッと構える。
「これで終わりよ! ロザリンド!」
天井と床両方から鋭くて氷柱が突出してくる。
「紅蓮地獄の中で死ぬがいいわ」
「紅蓮地獄ですって?」
「!」
私は既にセレナの首元に剣の先を向けた。
「な、なぜ……まさか氷柱を全て避けて……」
「だから、私を誰だと思っているの?」
セレナは恐怖の色を浮かべた。
「私はロザリンド。大将軍の娘よ」