植物を操る能力。私が授かった能力だ。
私は成長した薔薇たちに命令する。
「彼らに巻きつきなさい。棘を刺して、血を啜っても構わないわ」
薔薇はスルスルとしなやかに人喰い木に向かっていく。
人喰い木は振り払おうとしたが、私が傀儡を操るように薔薇をコントロールしており、そう簡単に払うことができない。
人喰い木は全部で六体。こちらの薔薇も六本。
大丈夫、なんとか倒せる。
私は3本同時に薔薇を操り、木の化物達に攻撃する。蔦の速さにそれらは追いつくことができない。
さらに3本。私は指を器用に動かして人喰い木全ての動きを止めることに成功した。
「ふん。大したことないわね」
それから私は懐から照明弾を取り出し、頭上に放つ。
赤い花火が大きく打ち上がった。これですぐに先生が助けに来てくれることだろう。
そう思ってホッとしたのも束の間、地響きが鳴り、私は一瞬だけバランスを崩した。
「何? 何なの?」
濃霧の中から大きなシルエットが浮かび、こちらに近づいてくる。
「ま、まさか!」
そのまさかだった。
通常よりもさらに一回り大きいオークが3体もここへやってきたのだ。
「ここは人喰い木の縄張りなのに! なぜオークが!」
オークは動きを止められている人喰い木を見て、ニッと笑うと棍棒を使って彼らを薙ぎ倒した。
なんて威力だ。
私は薔薇の蔦を使ってマーガレットを茂みに隠した。
「オーク! こっちよ!」
なんとしてもマーガレットから彼らを遠ざけないと。
人喰い木をさんざん倒した後、彼らは私を見つける。
それから雄叫びを上げると、大きな足でこちらに向かってきた。
私はオークに捕まらないように全速力で走る。
最悪の鬼ごっこの始まりだ。
オークはイライラしてきているのか、周りに生えている木々を薙ぎ倒し、叫び声を上げながら走ってくる。
さらに走ったところで、大きな湖が行く手を塞いだ。
ここまで来ればいいだろう。
私は立ち止まってオーク達を待つ。
少しして3体のオークがやってきた。
私はまたポケットから種を一粒取り出した。
今度は地面に撒かずに、手のひらの上に置く。
そして命令した。
「咲け」
種は通常サイズの薔薇の花に成長していく。
それから私は茎を握って、鞭のように勢いよく振った。
薔薇の花はその反動で落ち、茎だけになる。
もう一回振るうと、しなっていた茎がピーンと張って、一本の薔薇の刺突剣を作り出した。
私はできたその薔薇の剣を構える。
落ちた薔薇の花びらが咲き乱れた。
「私のことはご存知かしら。かつて多くの歴戦で大手柄を獲ったマリーティム公爵、大将軍の娘よ!」
オークたちは大きく吠えると、棍棒を振り回して私に襲いかかった。
オークの動きはそこまで早くない。
私は素早く避けると、フェンシングをするような動きでオークの足に薔薇の刺突剣をつく。
それは見事に突き刺さり、オークは片膝たちになる。
私はその隙をついて彼の肩に飛び乗ると、首に剣を突き刺した。
オークはうなり声を上げ、私を掴んで投げ飛ばした。うまく着地しようとしたが、運悪くぬかるみにハマって足を挫く。
まずは1体。
オークは血塗れになって倒れ、そのまま動かなくなった。
オークはまだ2体残っている。
足を挫いてしまった今、どうやって残りのオークを倒すか考えた。
しかも仲間を殺してしまったために、彼らの怒りは頂点に達している。
どうするロザリンド。
種はもう人喰い木の時に使ってしまった。制服の中になら多数の植物の種が入っているのだが、今は実習着。薔薇の種しか入れなかったことを酷く後悔した。周りの植物たちに助けてもらいたいが、オークを倒せる植物があるとは思えない。
ここはやはり、足を庇いながら戦う他ないようだ。
私は汗を拭い、剣を構える。
オークたちが2体一斉に襲いかかった。
その時だ。
茂みから誰かが飛び出し、オークの上を高く飛んだ。
オークもそれに驚いて動きが止まる。
助けにきたのは、実習の先生ではなく、第3王子ダース様だった。
「ダース様!」
「俺が相手になるよ」
「武器も無しに彼らを倒すつもりですか? 無謀すぎます!」
「まぁ、見ててよ」
オークはターゲットを私からダース王子に変え、吠えながら彼に突進する。ダース様は腕を捲って余裕そうな笑みを浮かべた。
オークがスピードを緩めることなくダース王子に向かってるいく。
このままだと、彼らに潰されるか、飛ばされるのが目に見えていた。
「危ない! 避けて!」
ドシンッと音がして、私は思わず目を閉じた。
ダース様の叫び声が聞こえるのかと思いきや、その逆。
私がゆっくり目を開けると、驚くべき光景が広がっていた。
ダース王子が片手でオークを軽々と持ち上げている。
オークと言っても通常の倍もあるオークをだ。
「さて、どこに飛ばそうかな」
王子は少し考えた後、もう1体のオークを指差した。
「決めた。そこだ! それ!」
彼がオークを投げ、もう一体の方のオークにぶつかる。
その衝撃に私は足がふらつく。
「しまった! ロザリンド!」
ダース王子の声も虚しく、私はそのまま湖へ落ちていった。