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第12話 罠


 あれから三日が経過したが、マーガレットに危険が及ぶことはなかった。


 いじめが終わったなんてことはありえない。

 嵐の前の静けさに間違いはなかった。

 アンジェロ様はマーガレットをよく気にかけている。

 アンジェロ様自身も自分の追っかけのせいだとわかっているようだった。


 午後から基礎体力をつける実習が始まった。

 学園の外に出て少し歩いたところにあるイベットバルトスの森へ入り、ぐるっと一周走るという少々ハードな実習だ。イベットバルトスの森は広さではこの国一。様々なモンスターもそこに住んでおり、自由気ままに散策しよう思うならば、一瞬であの世行きだ。


 筋肉隆々の実習の先生が1年生全体に忠告をする。


「いいか。イベットバルトスの森へは必ず矢印の方向へ進むこと。進む場所を間違えれば人喰い植物やオーク、その他危険生物たちの巣窟に当たってしまう。死にたくなければ、矢印以外の場所には立ち入らない。わかったな。では、森へ向かうぞ」


 1年生たちは森までゾロゾロと歩く。

 到着すると、先生がホイッスルを鳴らした。


「よーし。私はここで待っている。何かあれば、配布した照明弾を打ち上げるんだぞ。それでは開始だ!」


 先生がもう一度ホイッスルを鳴らし、森の最前列にいた生徒達が走り出した。


 何だか嫌な胸騒ぎがする。

 私は急いでマーガレットを探した。


 すると、リリシア、アラーナ、エーミル、私の取り巻きたちが私の腕に自分の腕を絡めてきた。


「ロザリンド様。一緒に走りましょう」「みんなで走れば怖くないわ」「そうですわ。一緒にはしりましょう?」


 私はするりと絡めた腕を抜けて、冷ややかな目で返した。


「悪いけど、今日は機嫌が悪いの。あなたたち3人で走ってくれる?」


 ロザリンドの機嫌が悪いは、誰にでも構わず当たり散らすということ。

 3人はそれを察して私から離れていった。

 あの取り巻き三人を森に置き去りにしてオークの餌食にでもなればいいとも思ったが、今はマーガレットを守ることに集中しなければ。


 私は人混みからマーガレットを見つけて、こっそり近寄る。


「はぁ。走るの嫌だなぁ。私走るの苦手なのに……」


 一年生全体がゾロゾロと走り始めた。

 私はマーガレットに気づかれない程度に距離を保って後ろを走ることにした。


 ***


 ……遅い。

 あまりにも遅すぎる!


 一年生たちは次々とマーガレットと私を追い抜いていく。

 マーガレットはあまりに足が遅く、それどころか歩く速度とあまり変わらないくらいにまで速度が落ちていっている。


 アンジェロ様はこういう子が好きなの? 本当に目を疑いたくなるくらいに彼女は鈍臭い。


 私とマーガレットは矢印に従い、二つに分かれた道の右側を進んだ。


 次第に木々の色が暗くなっていく。

 道もだんだんと細くなり、最後は道がなくなってしまった。

 マーガレットと私は立ち止まると、彼女は汗を拭って息を切らせながら言う。


「あれあれ。道が……なくなってしまったわ。あ、あらロザリンド様。いらしたのね」


 今気づいたのか!


「あなたね。気づくのが遅いのよ」

「ロザリンド様は足がとてもお早いと聞いていましたのに。どこか具合でも悪いのですか?」

「こんな授業で本気を出すわけないでしょ。それにしても……」


 道らしい道がない。通った後を引き返そうと思ったが、霧がだんだんと立ち込めてきた。


 間違いない。

 これは罠だ。


「誰かが矢印を動かしたみたいね。照明弾を放ちましょう。助けを待……」

「きゃぁぁぁ!」


 自分たちの周りに生えていた黒い木々がうねりだし、根っこが足のように動き出した。


「人喰い木の住処だったみたいね! 逃げるわよ!」


 私はマーガレットの手を引いて人喰い木から逃げようとしたが、マーガレットの足首に人喰い木の枝が絡みついた。


「きゃぁ! 離して!」


 人喰い木は幹部分から口のような穴を開いて、マーガレットを食べようとしている。


「た、助けてぇぇ!」


 ここは、あれを使う時ね。


 私はポケットから、3つの種を取り出した。

 そして種に集中して、赤い光を放つ。


「咲け!」


 種を地面に向けて放り投げると、それらは一瞬にして芽吹き、そして人の顔ほどある大きな薔薇の花を咲かせた。

 私は赤い光を放ったまま、手を翳す。


 薔薇は長く伸びて人喰い木へと襲いかかった。

 薔薇の棘が人喰い木の幹に食い込み、メキメキと音を立てて蔦が絡みつく。


 人喰い木は痛いのか、マーガレットを掴んでいた枝が緩み、彼女は地面に落下する。

 彼女は気絶したみたいだ。


 人喰い木たちは攻撃してきた私の方を見る。


 私はまたポケットから種を取り出し、薔薇の花を咲かせた。


 これが私の能力だ。


「さぁ、咲き乱れてもらいましょうか?」


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