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第2話 追放された赤い花


「間違いありません。彼女が、マーガレット様を殺しました。彼女の飲み物に他枯草を入れたと」


 周りの者がわっと驚き、私は信じられないと言う顔でカデオ様を見た。


 カデオ様は一瞬、本当に一瞬だが、ニヤリと私に向かって微笑んだ。


「この騎士は嘘を言っている! 皆皆嘘つきよ! 私じゃない! 私がやるわけないじゃない!」

「やるわけない? 本当かな、ロザリンド」


 カデオ様は声を張って、言い返した。


「周りにある他の植物をも枯れさせる猛毒草。この他枯草は生半可な知識をもった物には扱えない危険な植物。植物を操る能力をお持ちの君なら植物への知識、そして扱いには手慣れているはずだ。君以外に誰がこれで人を殺そうと思う?」

「そんなの憶測でしかないじゃない! 私が採取したのはたしかに吐戻し草よ!  そんな毒草知らないわ!」


 私が怒りのままに叫ぶと、カデオ様の後ろから皇太子アンジェロ様が現れた。


 金髪碧眼の爽やかな顔立ち。

 王子になるべくしてなった私の想い人。


 その意中の人が、軽蔑な眼差しで私を見ていた。


「アンジェロ様……! 私はやっておりません。あなたならわかってくださるはず」

「わかりたくもない」


 いつもの優しい声とは違う。冷たく、刺さるような声だ。


「今までの君の素行の悪さには目を瞑ってきたが、もう我慢できない! 彼女の傍若無人さ、皆も我慢してきただろう? どうだ?」


 周りにいた大臣たちは、声を揃えてそうだそうだと言い出す。


「わがまま三昧でこちらも迷惑していたんだ」「マリーティム公爵の娘だからといつもビクビクしていたんだ」「名のある公爵家だから我慢してきたが、彼女は酷すぎる」


 アンジェロ様は大臣たちを鎮めると、父であるオデュロー王に言う。


「ロザリンドは私の最愛の人、マーガレットを毒殺しました。この罪は死に値するものですが、死んで楽にさせるのも私は惜しいと思っています。そこで、辺境の北国、紅蓮地獄と例えられた極寒のサイガーダへ幽閉し、一生の罪をそこで償ってもらいたいのです。陛下。ご決断をお願いいたします」

「サイガーダ……!」


 その名を聞くだけで周りの大臣たちは震え上がり、私は頭のてっぺんから血の気が引くのを感じた。


「そんなこと! お父様が黙っていませんわ!」


 いつだって私の味方になってくれたお父様。

 美しい赤い花だと褒めてくださったお父様。

 目に入れても痛くないとおっしゃってくれたお父様。

 お父様なら、絶対にこんなこと許すわけがない。


 アンジェロ様は呆れた顔をしながら、嘲笑した。


「それではマリーティム公に直接聞いてみようではないか! マリーティム公爵をここへ!」


 アンジェロ様がそう言うと、マリーティム公爵、私の最愛のお父様が玉座の間へやってきた。


「お父様!」


 お父様は私を一度も見ることなく、オデュロー王に跪く。


「この度の件におきましては私の躾がなっていなかったことによる罪。どうか娘を死罪にするなり、流刑にするなり好きにしてかまいません」

「お父様……?」


 お父様のあっさりとした返答にオデュロー王は驚く。


「いいのか? 将軍。唯一の愛娘ではないか」

「そうよ、お父様。お母様が早くに亡くなり、お父様には私しかいない。私にそう言っていたじゃない。そうでしょ? ねぇ」


 お父様の服の裾を握っていたが、うるさいハエを撒くように冷たく振り払われた。


「陛下。実のところ娘は、正妻の子ではありません」


 不死鳥の間のにいた誰もが驚き、私自身も頭を打たれたような感覚に陥る。


「嘘よ。お父様嘘よね!」


 ここでやっとお父様が私を見た。だがその目は、今までの温かい愛情のこもったものではなく、まるで他人の子を見るような目だった。


「お前は、私と召使いとの間で誤って生まれてしまった子供だ。ロザーナが死んで日が浅く、子供もいなかったため仕方なく正妻の子供として迎えたのだ。お前に対する愛情などただの仮物。所詮、卑しい女から生まれた娘だ。どうなろうがかまわん。この一族の恥晒しめ! お前が生まれなければこんなことにはならなかったのだ!」

「そんな……そんな嘘よ」


 オデュロー王は眉間をなぞりながら、ふうむとため息をつく。


「決まりだな。では、罪多きロザリンド・フォン・マリーティムよ。極寒の地サイガーダで己の罪を悔い改めるがよい!」

「嘘よぉぉぉ!」


 アンジェロ様は兵士たちに命令した。


「この者を連れていけ。国外追放だ」

「アンジェロ様! アンジェロ様! 違うんです! 私はやっていません!」


 麗しきアンジェロ様は私を見ることなく、死人のような青い顔のまま、不死鳥の間から出ていった。

 私は力の限り叫んだ。


「アンジェロ様―――!」


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