二人の前には、ブラックホールの秘密を解き明かす最後の鍵が待ち受けていた。それはブラックホールの中心にあるとされる特異点と呼ばれるものだった。二人は特異点の正体を明らかにするため、エアシップ・ノヴァを特異点に向けて進めた。
特異点に近づくにつれ、時間と空間の歪みが一層と激しくなり、現実が崩れ落ちていくかのような感覚に襲われた。光と物質が奇妙な軌跡を描きながら、高密度に集中した一点に吸い寄せられている。
「これが特異点か……。時間と空間がこんなにも歪むなんて……」
タケルは目を輝かせた。
「ま るで 万華鏡の中にい るみたいだね」
ユウの声が引き延ばされて歪み、遅延して聞こえる。
「タケル、聞こえる?」
音波が引き伸ばされて低音が不気味に響き、高音は刺すような鋭さを持って聞こえる。
タケルは意識が不鮮明になりながらも、窓の外を眺め続けた。
タケルはその光景に目を見張った。宇宙の織り成す壮大なストーリーが目の前に広がっている。
それは、まるで星々の誕生を見ているかのようだった。
ブラックホールの中心から溢れ出る光が、まるで生き物のように脈打ちながら、遠く暗い宇宙の隅々まで届いている。
星々が生まれ、消えていく様子や銀河が形成される瞬間、そして宇宙の創造の秘密が次々と映し出されていく。
──これがブラックホールの本当の姿……
涙が自然と溢れ出てくる。
──僕たちは今、宇宙の真理に触れているのかもしれない。
その時、タケルは謎めいた存在を感じた。不思議と怖くはない。
「あなたたちの探求心と勇気を称えたいと思います」
どこからともなく声が聴こえてくる。優しくも力強い声だ。
「タケルとユウ、あなたたちは長い旅を経て、ここまで辿り着きました。地球での辛く悲しい体験、アエリアやセレスティアで学んだ想像力や優しさ、出会った人々との対話と共生が、あなたたちをここまで導いたのです」
タケルとユウは顔を見合わせた。二人の目には感謝の光が宿っている。
──これから先、僕たちは何をすべきだろうか。
タケルとユウは自身に問いかけた。
二人は宇宙そのものの存在と対話をする中で、これまでの旅が単なる冒険ではなく、何か大きな使命の一部であったことに気づき始めていた。
二人は深く考え込んだ。
「あなたたちの運命は、ここで終わることはありません。ここから始まるのです。ブラックホールは破壊の象徴ではなく、創造の源です。多くの人たちと結びつく力と二人の想像力を駆使して新たな未来を築き上げて下さい」
──ブラックホールが創造の源……
タケルはその考え方に驚き、しばらくの間、言葉を失った。これまでの記憶が次々と蘇ってくる。家族の笑顔、投げかけられた温かい言葉、そして支え合ってきた日々……。それらは全て失われた。
今まで数々の困難を乗り越えてきた。その答えが一つに集約されていく。
──終わりなんてものは存在しない。そこには常に再生がある。恐れるものなんて何もなかった……
タケルは光の中で、宇宙の無限の可能性を感じ取った。
「タケル、これを見て。このデータから新しい星の誕生が予測できるよ。僕たちの行動が未来の宇宙に影響を与えるかもしれない」
多くの人たちがより良い世界で生きていくために、僕たちは希望を繋いでいかなければならない。僕たちの行動が、次の世代に光をもたらすのだ。
「よし。ブラックホールの特異点に向けて僕たちのデータを送信しよう。新しい星の誕生に貢献できるかもしれない」
タケルとユウがデータを送信した瞬間、ブラックホールが輝きを増し、新たな星の誕生を告げる光が宇宙に広がっていった。
タケルとユウは身体が宇宙に溶けだしていくのを感じた。言葉では言い表せない感覚だ。
色と音が一体化し、意識が無限に広がった世界……。宇宙の鼓動を感じる……