【莉乃side】
私は全速力で賢人の家に向かった。
走って、走って、走り続けて……賢人が家にいるかだって分からないのに、本当に今、勢いだけで行動してる。
「はぁ……はぁ、はぁ……」
賢人の家の前まで着くと、私は彼の家のインターフォンを押した。
こんな遅い時間にかけつけて、彼が家に入れてくれるかどうかも分からなくて怖かった。
しばらく経つと、賢人が家のドアを少しだけ開けて顔をのぞかせる。
賢人は私の顔を見て驚いた顔をした。
「賢人……あの、話したいことがあって……突然なんだけど来ちゃったの……」
私が小さな声でそう言うと、賢人は何も言わず、ドアの扉をバタンをと閉めた。
「あっ……」
閉められてしまった。
そりゃ、そう、だよね……。
あんな一方的に別れを告げて、彼にヒドイことだって言った。
それで……私と同じように会いたいなんて思ってくれるわけがない。
どうして会ってくれると思ったんだろう。
涙が零れそうになった時、ガチャガチャと音が聞こえてドアが開いた。
「……入れば?」
「賢、人……」
開けてくれた。
さっきは鎖を外しただけ……?
でも彼が何を考えているかはまだ分からない。
家に入ると、賢人は私が寒くないようにひざ掛けを用意してくれた。
「飲めば?鼻赤いぞ」
「ありがとう……」
丁寧に温かいお茶まで入れてくれて、お互いに向き合う。
でも、何を話したらいいか分からない。
自分勝手に別れを告げたのに、突然復縁してくれなんて自分勝手すぎる。
それに、別れている間……賢人にはもう次の相手がいるかもしれない。
どうしよう……もしそうだったら私は迷惑で……私はここにいるべきではないし……。
ふと賢人を見ると、少し痩せたように見えた。
クマもあるし、眠れていないのかな……。
全部、私のせいだ。
彼を傷つけたんだから。
そんなことを考えている時、賢人は言った。
「自分で部屋入れといてあれだけどさ、あんま別れた相手の家に来ない方がいいんじゃね?」
「あ、あの……」
「誤解されたらお前も困るだろ」
「……ごめんね」
切り出せない。
賢人の目を見ることが出来ない。
しばらく話せなくて、沈黙が続くと賢人は上着をきはじめた。
「賢人……?」
「今日話せないなら、帰れよ。仕事もあるんだろう?」
口調は優しい口調だった。
でも距離を置くみたいに冷たくて、私は落ち込んでしまった。
あの時のままなわけないんだ。
そんなことは分かっていたでしょ。
今、私と賢人は他人でしかないんだから。
「家まで送ってく」
夜が遅いからと、送ると言ってくれる賢人。
あんなこと言ったのに、賢人は私のこと心配してくれるんだ。
本当に賢人は優しい人……。
こんなに優しかったらきっとすぐに別の相手が出来ちゃうんだろうな。
私よりもステキで、しっかりした彼女が賢人の側にいるかもしれない。
そうなったら私は……きっと受け入れることは出来ないだろう。
「賢人……あのね。ごめんなさい」
私は立ちあがり、彼の前で頭を下げた。
「この間、別れ話した時にヒドイこと言った」
「別に。あれが莉乃の本気なら仕方ねぇよ。俺も冷静でいられなくてお前に対してよくないこと言ったしな。謝んなくていい。お互いもう別れたんだ。仕事頑張れよ」
そう言うと賢人は私に笑顔を向けた。
嫌だ……。
もうどうでもいい関係みたいに、笑顔を作る。
見送ってバイバイして他人に戻るなんて、そんなの嫌だよ……っ。
「ほら、行くぞ……あんまり遅くなると……」
そこまで言った時、私は賢人に抱きついた。
「お前……っ、何して」
「ごめんなさい。あんなこと言ったけど、賢人のことが好きなの……」
もう何も考えられなかった。
「ずっと忘れられなくて、賢人のことばっかり考えちゃうの……」
ポロポロと涙が零れる。
その涙を止めることは出来なかった。
「別れたく、ない……」
そこまで言うと、賢人は私の手を取り、距離をとった。
「そんなん、自分勝手すぎだろ」
──ズキン。
分かってる。賢人の言っていることは正しい。
私は自分勝手だ。
「……なんで好きなんて言うんだよ!」
賢人はこっちを向いて苦しそうな顔を見せた。
「俺がどれだけ傷ついたと思ってんだよ!莉乃の相手は俺じゃなかった、そう言い聞かせて必死に自分の気持ちを抑え込んで莉乃を諦めるしかなかった……それなのに、なんで今、こんなところに来てんだよ!」
賢人の必死の叫び。
苦しそうで辛そうな顔だった。
私が彼を傷つけたんだ。
「ごめん、なさい……っ」
賢人をひどく傷つけた。
本当はこんなことを伝える資格なんかなかったのに、私はわがままだ。
「ぐちゃぐちゃだよ。お前と会わなかった時は、なんとか時間が解決してくれるかもしれないって思ってた。でもそんな簡単には忘れられなくて、お前が出てる広告見つけたり……すげぇ気分が悪かった」
「賢人……」
私はうつむく。
涙が出そうなのをこらえて必死に唇を噛みしめた。
「別れるとかそんなん……無理だろ。無理に決まってんだろ……好きなんだよ!お前のことが……」
「賢、人……?」
「こっちは必死に忘れようとしてるのに姿なんか見せられたら、また簡単に好きになっちまうだろ……」
えっ。
賢人のつぶやきに私は顔をあげる。
賢人は私を憎んでいるんじゃないの?
もう嫌いになったんじゃないの?
すると賢人は告げた。
「ここまでお前がその足で来たんだ。もう離れるとか言われたって帰す気ねぇから」
賢人をちらりと見ると、私の手をぎゅっと握った。
その手は熱を帯びている。
「賢、人……許して、くれるの……?」
「許すも何もねぇだろ。俺だってお前のことが好きでたまらないんだからよ。こういうのは惚れたもん負けってやつだろ……」
賢人はそういうと、私をぎゅっと抱きしめた。
「その代わり、全部説明してくれ。莉乃が今日、どうしてここに来たのか。莉乃の本当の気持ちが知りたい」
賢人はどこまでいっても優しくてまっすぐな人だ。
私は賢人の胸の中でこくこくと頷いた。
涙を拭って少し落ち着くと、私は全てを賢人に話した。
マネージャ―に言われ、賢人と別れるように言われたこと、このままの気持ちで付き合って賢人に迷惑をかけるわけにいかないと思ったこと。
別れるしかないと思い、ヒドイことを言って嫌われようと思ったこと。
全部を話すと、止まっていた涙は再び流れ出した。
「ごめ……っ、私に泣く資格なんてないのに……っ」
賢人は唇を噛みしめながら、私の話を聞いてくれた。
そして賢人は自分も泣きそうになりながら言う。
「バカ野郎。なんで相談しないでひとりで決めるんだよ。それじゃあなんのための彼氏か分からねぇだろ!」
「だって……賢人に迷惑かけると思って……」
「そういうの、迷惑なんて言わねぇんだよ……!ふたりで一緒に歩んでいくんだ。ひとりで苦しいの抱え込んだりすんなよ!」
「どうして……っ、私賢人より仕事の方をとったんだよ?嫌な女だって思わないの?」
私は仕事の方を優先した薄情者だ。
「それの何が悪いんだよ」
「えっ」
私は泣いていた顔をあげた。
「別にいいじゃん。これから先、俺たちはさ……仕事しながら生きていくわけだよ。莉乃はそれが早かっただけだろ?大事な選択を迫られた時、どっちかを取らなきゃいけないんなら、俺じゃない方を取れ」
「どう、して……そんなこと言うの?」
賢人の言っている意味が分からなかった。
だってそんなことしたら、私と賢人は離れ離れのままだ。
「俺は何回だって戻ってくるよ。お前の元に。だから俺じゃないものを選択すればいい」
「そん、なの……っ」
賢人は笑っていた。
堂々としていて大人っぽくて、まるで俺が支えるとでもいいたげな表情だった。
「莉乃の夢は俺が一番応援してやりたい。だからそのために俺が邪魔なら遠慮なく捨てろ。でも俺は……お前の邪魔じゃなくなった時に絶対に戻ってくるから」
ぽたり、と涙が零れた。
こんなにまっすぐな人が側にいてくれた。
支えてくれていたのに、全部自分で抱え込んでいた。
「賢、人……」
賢人は私のはるか先を見ていてくれたんだね。
「でもその代わり、心変わりするのは無しだぞ。俺はお前に好きじゃないって言われるのが一番堪えるんだ。絶対に迎えに行くからその時まで待っていてほしい」
ただ少し先の将来の話しじゃない。
私が女優になって大きくなって、それから成長したその先まで見ていてくれた。
そしてそこに自分がいると、ハッキリと告げてくれた。
だったら……私にもやらなきゃいけないことがある!
「賢人……別れるなんて言ってごめんね。私……もう言わない」
「えっ」
「賢人と別れるなんて嫌だから。だから……大人を説得させて見せる!」
「お前何言って……」
私はすぐにマネージャーにメールをした。
そして、事務所の社長も含めて時間を作ってもらえないかかけあった。
賢人は私と付き合う覚悟があった。
覚悟がなかったのは私の方だ。
この人を大事にすると決めたの。
傷つけない。
誰にも傷つけさせない。
私は賢人と側にいてお仕事を頑張りたいの……。
賢人の決意を無駄にはさせない。
「莉乃、本当にそれでいいのか?」
私は強くうなずいた。
「私も覚悟を決める。賢人もついてきてくれるかな?」
私がたずねると、賢人は笑った。
「当たり前じゃん」
それから次の日、私は社長も同席するとのことで時間を作ってもらうことになった。
すごく緊張してる。
上手に伝えられるかも分からないし、全てがダメになる可能性だってある。
でも……。
「莉乃、大丈夫だ。俺もいるから」
隣には賢人がいるから。
私は安心できるんだ。
ふたりそろって今日は来ている。
できるだけ本気であることを伝えるためだ。
「どうぞ、こちらに座ってください」
事務所の会議室は、いつも以上に緊張感のあるものだった。
目の前には私のマネージャーと事務所の代表が座っている。
その向かいに私と賢人がとなり合って座った。
ふたりとも静かに私たちを見つめている。
その視線が少し重たく感じるけれど、今日はどうしても譲れない。
しっかり伝えないといけない。この先も賢人と歩んでいくために。
「莉乃ちゃん、今日は話があるって聞いたけど……教えてくれる?」
マネージャーが話を切り出した。
隣に賢人がいることから、マネージャーの方もおおかた予想は付いているだろう。
「はい」
私は座り直し、テーブルの上で軽く手を握りしめる。
それから、しっかりとふたりを見据えて口を開いた。
「今日は、私たちの関係についてお話しさせていただきたくて時間を作ってもらいました」
最初の言葉を慎重に選びながら、私は静かに続ける。
「私は、今隣に座っている賢人さんとお付き合いをしています。そして、この先も彼と共に人生を歩んでいきたいと思っています。なので、彼と別れることは考えていません」
その言葉を口にした瞬間、空気がピリッと張り詰めるのを感じた。
緊張で肩が上がってしまった時、賢人がポンと私の肩を叩いてから言った。
「莉乃さんに全部聞きました。今が大事な時期であること。大きな仕事を受けるためには俺の存在が邪魔になること。全部聞いて最初は別れることも考えました。でも俺は……胸を張れない恋愛をしてるわけじゃない。莉乃とは将来を見据えて付き合っています。決して適当な気持ちじゃないし、彼女が傷ついた時に側で支えられる存在でいたい。だから……別れることはできません」
賢人は緊張している素振りはなくて、堂々と告げていた。
大人に囲まれ、不安になるはずなのに……萎縮してもおかしくないのに、賢人はしっかりとマネージャーと社長の目を見ていた。
いつからこんなに頼もしくなったんだろう。
こんなに紳士的で優しくて私に寄り添ってくれる彼氏。
そんな人、きっと一生探し続けたってもう出会えないだろう。
すると、マネージャーが困ったように眉を下げながら言う。
「今後うちの莉乃と付き合っていく中で、傷つくのは莉乃だけじゃなくあなたも同じです。もしかしたら、あなたの方が傷ついたり晒されたりするかもしれない。そんなリスクを背負っても莉乃と付き合っていけると言えますか?」
その声に、賢人は静かにうなずいた。
「もちろんです。どんなことがあっても彼女の側にいます」
ああ、私の彼氏って……こんなにカッコいい。
絶対に大事にしなくちゃ。
私だって賢人が傷つかないように守りたい。
「賢人は、私にとってただの恋人ではありません。彼は私の将来を真剣に考えてくれていますし、私も彼との将来を考えている大切な彼氏です。もし賢人がいて、私のイメージが悪くなるっていうんなら、私はそのイメージと戦って勝ってみせます」
絶対に負けたりしない。
隣に座る賢人をちらりと見ると、彼は小さくうなずいてくれた。
「もちろん、これからも仕事に全力を注ぎます。それを邪魔するようなことは決してしません。彼の存在が私の支えになり、私を成長させてくれると私は信じています」
その言葉を聞いたマネージャーはこくんとうなずいた。
どうやらマネージャーは納得してくれたようだった。
社長はどうだろう……。
腕を組んで考え込むような表情を浮かべている。
「恋愛が問題になることは少なくない。特にキミのようにこれからもっと注目される人間は、スキャンダルで簡単に足場を取られることになる……」
社長は眉をひそめている。
やっぱり説得するのは難しい?
不安に思った時、社長は言った。
「でもそのくらいの強さがふたりにあるのなら、恋愛を任せていても大丈夫だろう」
「えっ」
てっきり厳しい言葉をかけられるんだと思っていたんだけど!?
「応援するよ」
「本当ですか!?」
「ああ、キミはまだ若いし、適当な恋愛をするモデルが今まで多かったんだ。それでスキャンダルになって潰れていった人がたくさんいてね。そうならないために、恋愛を禁止するように伝えていた。でも彼ほどしっかりした人と将来を見据えた関係を築いているなら、それを邪魔する必要はない」
「良かった……」
社長もOKしてくれた。
「それに彼……ビジュがいいね。モデルにならない?」
「ええっ!?」
「いやまさかこんな男前でしっかりした人と付き合ってると思わなくてね。背も高いし、顔もいい。けっこういい線行くと思うんだけど」
まさか賢人がモデルとしてのスカウトを受けるなんて想像もしなかったんだけど!?
「それに、安心して欲しい。彼ならきっとバレンタインのCMの許可も下りると思うよ」
「そうなんですか!?」
そっちももうダメなのかと……。
「あそこの企業の社長は慎重派だけど、誠実だと分かると信頼してくれるはずだよ」
なんか全てが上手くいってるんですけど……。
「良かった……」
「ただし、今後慎重に行動すること。デートくらいはいいけれど、評価を落とすようなことをしないように!いいね?」
「はい。ありがとうございます」
私は深く頭を下げ、隣の賢人と目を合わせた。
私たちふたりは揃って事務所を出た。
「良かったな、CMも受けられそうだし、事務所にも認めてもらえて」
賢人の言葉に私は立ち止まる。
そして彼に告げた。
「賢人……ありがとう」
こんなに上手くいったのは、彼が覚悟を見せてくれたからだった。
普通にお付き合いをするなら、こんな覚悟は必要なかった。
一緒にいて幸せで、楽しければそれでいい付き合い。
でも私の場合それじゃあダメだから、賢人が覚悟を見せてくれたんだ。
「先のこと考えてるってさ……まだ大学生の私たちにはなかなか言えないことでしょ?この先のリスクだって考えたら、別れる方がいいのかもって思ってもおかしくなかったのに……こうやって事務所にまで来てくれて、本当にカッコイイって思った」
カッコイイ彼を選べたこと、賢人の彼女であることを誇りに思ってる。
「ふっ、そんな恰好ついたもんじゃねぇよ。ただ莉乃と別れることが考えられなかっただけだ」
「大好きだよ、賢人」
「今日はやたらデレてくれんじゃん」
当たり前だよ。
本当はもっとたくさん伝えたいくらいなんだから。
「まっ、俺も今回ので気づかされたことたくさんあったしなぁ~」
「気づかされたこと?」
「ああ、莉乃においてかれるんじゃないかって怯えてるよりも、もっと出来ることはあるだろって思ってさ。さらに莉乃ちゃんに似合う男になっちまおうかと」
そんなの、もう十分くらいなのに……。
「でもまさか賢人までスカウトされるとは思わなかったよ」
うちの事務所の社長が賢人もモデルとしてどう?なんて言ってたのは、冗談じゃなくて割と本気だった。
その証拠に賢人は社長の名刺をもらって考えといてなんて言われていた。
「どうするの?モデルになるの?」
「おー、考えたことなかったけど、それもいいな。そしたら莉乃と切磋琢磨してお互い高められそうだし?」
そしたらふたりして芸能人になっちゃったり。
「でもそんなことしたら浮気が心配だなぁ~!絶対美女たくさん寄ってくると思うし?」
「お前が隣にいて目移りなんてするかよ」
──ドキ。
「もう……ズルいな、そんなこと言って」
「本気だし」
賢人はそういうと、私に手を差し出した。
「もう暗いし……手くらいはいいだろ?」
「そうだね」
私も帽子を被っているから顔までは見えないと思うし……。
そっと手を繋ぐと温かくて幸せな気持ちになった。
「あのさ、すぐにってわけじゃなくていいんだけど」
「うん?」
「一緒に暮らすのとかってどうなんだ?」
賢人は私にたずねた。
同棲か……。
大学生のうちから同棲はまだ早いのかもって思って考えてなかったけど……。
「これから忙しくなってさ、生活リズムが合わない日も増えてくると思うんだよな。でも莉乃が帰ってくる場所がここだったらすげぇ嬉しいなって思ってさ」
そっか……。
そんなこと考えてくれたんだ。
帰る場所が賢人のいる場所。
「ただいま」ってドアを開けたら、そこには賢人がいて「おかえり」って迎えてくれる。
それってなんかいいな。
「同棲……いいかも!」
すると、賢人は立ち止まって声をあげた。
「マジ?」
「でも賢人も嫌じゃない?一緒に暮らすって自由が無くなると思うし、女の子連れ込んだり出来ないよ?」
ちょっと意地悪にそう伝えると、賢人はぱあっと顔を明るくさせながら言った。
「女の子は莉乃ちゃん専用だから。だいたい嫌なわけねぇじゃん!俺、莉乃が俺の家来るたび帰したくねぇなって思ってるから、返さなくていいのは助かるな」
「な、何言ってのよ……っ」
賢人の言葉に顔が赤くなる私。
「一緒にさ、ご飯作って食べてテレビ見て笑って、寝る時も一緒にいられるんだろ?それって幸せだよな」
賢人は優しい顔でつぶやく。
私もその生活を想像してみたら、すごく幸せに感じた。
「じゃあ……家見に行こうか」
「ああ、そうだな。でもその前に莉乃家に挨拶しに行かねぇと」
「えーそんなのなくていいよ?うちの両親気にしないタイプだし」
「ダーメ。将来一緒にいるって決めてんだから、ちゃんとしなきゃだろ?」
「そっか、そうだね……」
ふたりで手を繋いで揺らしながら先の話をする。
賢人といたら、きっとお互いを高めあって、幸せな生活を送れるに違いない。
そしていつか……。
「野上賢人さん、あなたは病める時も健やかなる時も莉乃さんを愛し続けることを誓いますか」
「誓います」
「雪森莉乃さん、あなたは病める時も健やかなる時も野上賢人さんを愛し続けることを誓いますか」
「はい、誓います」
もっと幸せな未来が待っていることだろう──。
END