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第46話:【番外編②さようなら】

【莉乃side】


それから1週間が経った。

事務所からは彼氏の存在をどうするのか、仕事を受けるのかどうか、返答をせまられていた。


そしてもし、彼氏と別れることが難しそうであれば、今回のバレンタインのCMは辞退する方で動くと言われてしまった。


お仕事は受けたい。

でも受けるためには賢人に別れを告げなくちゃいけない。


私はずっと悩んでいた。


賢人はどう思うのかな?


私はモデルや女優の活動をしていて、これからどんどん忙しくなるかもしれない。


それに、男の人のキスシーンやデート企画の撮影をやらないといけなかったりもする。


賢人には我慢させていることばかりだ。


普通の人と付き合っていたらここまで我慢させることはなかったのに、私と付き合っているから、賢人も我慢しないといけないことがたくさんあるかもしれない。


そう考えると、私たちは……。


「ここで、終わりに……」


そこまでつぶやいて、心の中がジンっとする。


「……いや、だ。別れたく、ないよ……っ」


じわりと涙が滲んで頬を伝って涙が落ちる。

でもやらなくちゃいけない。


私は涙を拭って賢人にメッセージを送った。


【今日、ちょっと話したいことがある】

【お?どうした?じゃあ仕事終わりにいつもの駅で待ってるよ】


賢人から返事が来る。

今日来れないと言って欲しいくらい、悲しかった。


仕事が終わり、私は賢人がいる場所に向かった。


彼はいつものように無防備な顔で私を待っていた。

その顔を見るたびに胸が痛む。


でも、これ以上引き延ばすわけにはいかない。

今日、言わなくちゃいけない。


「賢人」

「お疲れ莉乃」


彼は笑顔を作る。


「話あるんだよな?どっか店でも入るか」


その提案に私は首をふった。


「ううん、少し人がいないところに行かない?近くの公園とか」

「公園……?いいけど」


彼は不思議に思いながらも頷いた。

それから私たちはあまり人がいない公園に移動した。


公園のベンチに座り、いつ言おうか考える。


賢人は私が別れを告げるなんて思っていないのか、今日会った大学の話をしてくれていた。


「それで?莉乃の話したいことってなんだよ。外ってことはあんま周りに聞かれたくない話?」


ちゃんと言わなくちゃ。

私は拳を握りしめ、ゆっくりと口を開いた。


「……私たち、別れよう」


その言葉が自分の口から出た瞬間、心臓が締めつけられるような感覚に襲われた。


でも、賢人の目の前では絶対に揺らいではいけない。


「は?」


賢人の顔が一瞬固まる。

それから、冗談だろうと言いたげに苦笑した。


「何言ってんだよ。いきなりそんなこと」

「本気だよ」


私は彼の言葉をさえぎるように、強い口調で言った。


「……なんでだよ、意味分かんねぇって」


その声は戸惑っていた。

本当の理由は、賢人に絶対に言えない。


彼がそれを知れば、きっと自分を責めるだろうから。

私は視線を彼から外し、地面に落ちた影を見つめた。


そして、小さな声で言った。


「……もう、好きじゃなくなったの」


その言葉が喉を通るたびに、体のどこかが壊れていくような感覚がした。

でも、これしか方法がない。


「ほら、芸能界に行ってさ正直賢人よりカッコイイ男の人と触れる機会がたくさんあったのよね。そういう人見てたら、なんか賢人といるのもなーって思っちゃって」


自分で言いながら、心がズキン、ズキンと痛み出す。


本当はそんなこと、全然思ってない。


賢人が誰よりも好きで愛してるのに……この言葉しか、彼を突き放す方法が思いつかなかった。


「……それ、本気で言ってんのか?」


賢人の声が低くなる。

涙が出そうになるのを必死にこらえた。


泣いたらダメだ。全てをダメにしてしまう。

私は悪女として、賢人に別れを告げなきゃいけないの。


「本気だよ」


私はできるだけ冷静に、感情を抑えてそう言った。


「ふざけんなよ!」


すると、賢人が声を荒げる。

静かな公園の空気が一瞬震えたように感じた。


「ずっと一緒にいようって言ったのはお前だろ?なのに、売れ出したら芸能人ぶって、他にいい人がいるだ?そんなの、ありえねぇだろ」


鼻がツ―ンと痛み出す。

それを手をぎゅっと握りしめてこらえた。


もう、これ以上彼を巻き込みたくない。

そのためには、この場で終わりにするしかないんだ。


「ごめんね、賢人。気持ちってさ、簡単に変わるんだよ。環境が変われば気持ちも変わる。それは当然のことでしょう?」


嫌な女。

でもこれで賢人はどうしてこんな女と付き合ってたんだろうって思ってくれるはずだ。


それでいい。

賢人、私のことを嫌いになって。


私は小さな声でそう呟いて、彼の目を避けるように立ち上がった。


「勝手なこと言ってるのは分かってる。私のことは忘れてくれていいから」


そう言って背中を向けて一歩踏み出す。

その瞬間、彼の声が背中に突き刺さった。


「忘れられるわけないだろ!」


振り返りたくなる衝動を、必死にこらえた。


今振り向いたら、ダメ。

だって好きだと言ってしまうから。


涙がこぼれそうになるのをぐっと抑えながら、私はただ歩き続けた。


賢人の言葉を無視して。


賢人、ごめんね。

こんな私を許さなくていい。



でも、どうか私を忘れて幸せになって──。




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