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第33話:羨ましいな

【未玖side】


賢ちゃんが走って学校に戻っていくのを見て、私はいいなって思った。


あんなに莉乃ちゃんのこと、思って想われて……羨ましいな……。


私なんて、有川くんと最後の時も気持ち伝えられずに終わっちゃったし……。


最後別れる時だって有川くんはあっさり去っていってしまったもんね。


放課後になり最初に集まった私たち。


『あ、あの有川くん……』


私は彼に感謝を伝えようと思っていたけれど……。


『じゃあまたね』


彼はあっさりと言葉を交わした。


まるで最後とは思えないほどの別れで、すごく淡々としてた。


有川くんにとって、わたしとの最後って別にこんなものだったのかな。


そう思ったら寂しくなってしまった。


もう、有川くんとは会えないのかな?


学校で会っても他人みたいな顔をするのかな?


一人で公園のベンチに座っていると、じわじわ涙が出るけど我慢する。


だって有川くんは泣く人は嫌だって言ってたから。


我慢しないと、ってまた考えちゃうのは彼のことばっかり。


ぎゅっと手に力を入れて涙をこらえていると、近くにいた男の人が声をかけてきた。


「ねぇ、どうしたのキミ」


「あ、すいませ……なんでもないです!」


顔を見られないようにうつむいていると、中を覗き込んで来た。


「でも泣きそうな顔してるよ?俺が元気付けてあげようか?」


私の隣に腰かけて来て肩を抱く。


ぞわっとした。


気持ち悪い。


「やめてください……!」


精一杯大きな声で言って、立ち上がろうとした時。


「やっぱりね、想像通りだ」


目の前には有川くんがいた。


「有川くん……?」


「本当にキミは色んなことに巻き込まれるね。最初は迷惑だって思ってたのに、僕もそれに慣れて来ちゃったじゃないか」


ぐいっと私を引っ張って、私をこっちにこさせると有川くんはさらに続ける。


「ねぇ、おじさん。こんなところで何してんの?仕事したら?それとも警察いく?」


低く言う声は相手をびっくりさせるのに十分で、目の前にいた男の人は慌てて逃げて行った。


「はぁ……世話がやける」


「ごめんなさい」


いっつも有川くんに迷惑かけちゃうな……。


有川くんはどうしてここに来てくれたんだろう。


莉乃ちゃんとはちゃんと話せたのかな?


「あの、有川くん……莉乃ちゃんとは話せた?」


私が問いかけると、有川くんはこくんと頷いた。


そっか……。


ふたりともしっかり話せたんだ。

ってことは、帰宅途中で偶然私を見つけたってところだろうか。


有川くんが莉乃ちゃんのどう伝えたのか分からない。

より戻すことになったのか、それともお別れすることになったのか。


冷却期間を延長するって選択もあるかもしれない。

聞きたいけど……聞くのもちょっと怖いかも。


「莉乃ちゃんとの話、終わったんだね。有川くんに会えると思わなかったから、なんか嬉しいな……」


私がキレイに光る夕陽を見ながらいうと、彼は小さな声で言った。


「何言ってんの?また、って言ったじゃん」

「え!」


私はばっと顔をあげる。


『じゃあ、また』


そうだ、確かに彼はそう言った。


「また、って……」


「僕はまた会えるしと思って、そう言ったんだけど」


そっか、そうだったんだ。

そっけない言葉だと思っていたそれは、また来てくれるっていう約束だったんだ。


なんか嬉しい……。


あの時から有川くんが私とこれからも関係を続けようと思っていてくれたなんて。


たとえ友達としてでも嬉しい!


有川くんが私の隣に並ぶ。

肩がぶつかって、私が彼に寄り添う。


すると、有川くんは突然言った。


「付き合おっか」


付き合う……?


うん、そっか。じゃなくて……。


「付き合う……!?え!!!」


「何?」

「え、いや有川くん、私のこと好きなの?」


「はあ?」

「ごめん、違うよね!また守ってくれるってことだよね?でもそしたら莉乃ちゃんとの話し合いは……」


ビックリして、勝手に解釈しようとする私に有川くんは言った。


「うるさいから、ちょっと黙んなよ」


──グイー!


一気に引き寄せると、有川くんの唇がぶつかる。


「んん……!」


彼は私の唇を塞いだ。


「……んっ、ありかわく……」


何が起きてるの!?


ぱっと唇が離されると彼はいう。


「好きじゃない人にキスなんてしないでしょ」


え……。じゃあ私、自惚れてもいいの?


「あの……私……」


「拒否なんてさせないよ?」


「そうじゃなくて……あの、あの、好きです……!」


ぱっと彼の顔を見て言うと、あまりにも恥ずかしくてやっぱりうつむいた。


「ふっ、僕が告白したんだけど?」


「そうだけど私も好きです」


「まぁいいか。こうすれば、僕もいいやすくなるしね」


そう言って有川くんは私を優しく引き寄せた。

ぎゅっと有川くんに抱きしめられる私。


「好きです、吉田さん。付き合って下さい」

「はい……」


有川くんに包まれて、そんなこと言われて、私は嬉しくて彼の背中に手を回した。


夢みたい……。


有川くんから告白されるなんて。

……私、こんなんでこんな幸せでいいのかな。


そう思っていたら、彼は突然言った。


「じゃっ、付き合ったわけだしタピオカでも飲みに行く?」


「へっ……あ、はい!」


そういえば、助けてもらったのに有川くんにおごってなかったな。


助けてもらったらおごるって約束したもんね!


「行こうかタピオカ屋さん」


有川くんも最初タピオカ飲むとき、眉をしかめていたけど、意外とタピオカにハマったのかな?


手を繋いでお店の前にいくと、有川くんにそう聞かれた。


「何がいい?」


「ミルクティーがいいな」


「ミルクティー2つ」


バックの中からお金を取り出して払おうとする。

しかし、有川くんの方が先に2人分払ってしまった。


「タピオカミルクティー2つになります」


「あ、有川くん……お金!さっき助けてもらったから……」


「何言ってんの?」


有川くんは相変わらず、呆れた顔を私に向ける。


「彼氏なんだから助けるのは当たり前でしょ?」


え……。


「お礼なんてない。僕は無条件にキミを助けますって言ってるんだ」


彼女って……。すごい。

有川くんの彼女になるってこういうことなんだ。


ぽっと赤くなった顔に手を当てて「はい……」なんて意味の分からない返事をしたら彼は言った。


「助けるからって平気で色んな迷惑持ってこないでよね」


「きょ……極力気をつけます」


でもたぶん、私……気づかぬうちに有川くんに迷惑かけちゃうんだろうな。


タピオカを持ちながら近くにある街を眺める。

すると有川くんは言う。


「キミと会って苦労することばかりだけど、それも悪くない。キミに気付かされたこと、たくさんあるからね」


「え、それってどういうこと!?うにゃっ」


有川くんに聞こうと思ったら、鼻を思いっきりつままれた。


「いひゃいです……」


「だからさ……ありがとうってこと」


そっぽを向く彼を見て、不器用なんだなって思うと同時にそれでも一生懸命伝えようとしてくれることが嬉しくなった。


「好きです、有川くん」

「うるさい」


「大好きだよ!」

「分かったってば」


へへっ、なんかすごく幸せだ。

初めて見たときは怖い人って思ったけれど、今は私を守ってくれる大切な人。


「有川くん……あの……」


「何?」


だから不器用でもちゃんと気持ちを伝えてくれる彼に、私も頑張ろうって思って彼の耳元でつぶやいた。


「もう1回キス、したいです……」


「……はぁ」


え?なんでため息……!?


「本当だったらそういうのもやめた方がいいって教えてるところだけどキミ、将来僕意外と付き合うつもりないから教えなくていいや」


そ、それは……。離さないって言われてるのかな!?


考える間もなく引き寄せられて甘いキスを落とされる。


「ん……」


有川くんでいっぱいになって。好きが溢れていくのは本当に幸せだなって思った。



その恋はワケありだった。


だけどもう、ワケありじゃない。


本当の恋に出会えた私たちは目の前の夕日よりも輝いて熱くなっていた──。





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