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第17話:いつもと違う賢人

【莉乃side】


昨日、潤に気持ちを伝えられたことで私は少しスッキリした気持ちだった。

ただ気持ちを伝えただけで響いてないかもしれないけどね。


それでも、思ってることを伝えられたからいいんだ!


前向きな気持ちで半日を過ごすと昼休み、いつもやってくる賢人の姿がなかった。


……全くもう、何してんだか。

早く迎えに来なさいよね。


仕方ないから私が賢人のクラスに行くと、そこには衝撃の光景があった。


「ねぇ賢人ぉ~賢人がなんでもOKしてくれるとか本当嬉しいんだけどぉ、今日の放課後は私とデートね?」


賢人にベタベタくっつく女たちとそれを許す賢人。

いつもはそんなこと、絶対にさせないのに、今日はなんだか様子がおかしい。


クラスの女子たちは、賢人に抱きついたり手を握ったりして楽しんでいた。

いつもなら拒否するのに、なんで普通に受け入れているの?


しかも。

「デートどこ行く?」

「お前の好きなとこでいいよ」

ってなんなの?


意味が分からない。

まさかこの人たちと本当にデートに行くつもりじゃないわよね?


いつもと違う彼にイライラしながら、教室に入っていくと私は言った。


「ちょっと何してんの?」


冷めた口調で言っても彼の態度は変わらない。


「別に?お前に関係なくね?」


はぁ??関係ない?

どの口がそれを言うのよ。


関係ないわけないでしょ!私たちは仮にもカップルなんだから!


完全にイライラがピークに達した私は、いつまでも賢人にくっついている女子を引き離して言った。


「触らないで!あたしの彼氏なんですけど!」

「痛……っちょっとなに?」


女の子が離れている間に賢人の手を引っ張る。


「ちょっと来て」


ズイズイ引っ張って屋上までやってくると、私は賢人に向かって言った。


「何してるわけ?あんな女子とベタベタしてさあ!」

「別に女寄ってきてもいいかなって思っただけだつーの」


女寄ってきてもいい?


「いいわけないでしょ!なに血迷ってのよ!」


賢人の顔にはなんだか表情がなくて、全てが投げやりになっているように見えた。


「うっせぇよ。昨日未玖と話して気付いたんだよ。美玖はもう俺の方見ることはねぇなって」


昨日……?

昨日賢人も話す機会があったんだ。


「どうせ美玖が戻ってこないなら、女寄せつけようがデート行こうが俺の自由だろ」


ふてくされた賢人の態度に本当にイライラした。


あの子が自分の見てくれないってふてくされてるのはよく分かった。

でも……だからってなんであんな女子たちのとこに行くのよ!


もっと頼れるところはあるでしょうが!


イライラしてムカついて言う。


「今は私がいるでしょ!!」


真剣に目を見て言うけれど、賢人は私の目をみようとしなかった。


「だからお前とのカップルももう意味ねぇって……」


「そういうことを言ってるんじゃないの!カップルとかそんなんじゃなくて、何かあったなら私に相談すればいいでしょって言ってるの!!私がいるんだから、そうやってヤケになる前に!!」


人のことはちゃんと心配してくれるクセに自分のことは抱え込む。


あげくの果てに投げやりになって、そこら辺の女子と遊んで?

そんなのなにになるって言うの?


「言ったでしょ、私はあんたの味方!何があっても絶対に味方するパートナーなの!だからちゃんと話しなさいよ」


賢人はそんなところで自分の価値を落としていい人間じゃない。

それは私が一番分かってる。


「莉乃……」


強引にこっちを向かせて言った言葉に、やっと賢人はこっちを見た。

ぎゅっと賢人の手を握る。何かあったら助けてくれた賢人。


私だって話くらいは聞ける。


「何があったの?」


冷静にそうやって尋ねると賢人は非常階段の階段に座ってはなし始めた。


「ってわけ……だからもう無理だと思ったんだよ」


昨日の出来ことをすべて教えてくれた頃には賢人はいつもの賢人に戻っていた。


「そうだったんだ……」

「美玖、有川の話ばっかりしてた」


あの子……。潤のことが好きなの?


でもそれを賢人にベラベラ話してしまうところはやっぱり天然なんだって思った。


「お前の言うとおりかもしれねぇ……」

「え?」


「やっぱりさ、俺未玖に利用されてただけなのかもな」


うつむく賢人。


どうしてそうなるの?

それは違うって言ったのはあんたじゃない。


私は悔しいけど賢人の言うことを信じることにした。


だって長い時間向き合ってきたんでしょ?

長い時間一緒にいたんでしょ?


あの子のことを一番知ってるのは賢人じゃない。


「何言ってんの?未玖はそんなヤツじゃない、んでしょ?」

「でも……」


「そんなヤツじゃないわよ。私はあの子のことよく知らないからああやって言った。でも……賢人はあの子とずっと一緒にいてあの子の性格をよくわかってるでしょ?そんな人が違うって言ったんだから違うのよ」


私はあの子のことを疑った。

でも賢人が違うっていうから、違うんだって信じることにした。


「まっすぐにさ、誰かを想って全力で守って……カッコイイじゃん!私はあんたのそんなところが唯一すごく好きだから、自信なくさないで」


「唯一ってなんだよ」


賢人に日ごろ思っていることを伝えると彼は少し笑った後また、うつむいた。


「やべ……なんか泣きそうだわ」

「ぷっ、キャラじゃなさすぎ」


軽く笑うと、賢人は頭をあげる。


「だな」


そして、いつもの笑顔を見せた。

そうそうそれ。似合わないつーの、うじうじ悩んでるのは。


「ありがとな、莉乃」


ポンっと賢人に頭を撫でられる。

その瞬間、ふわりと香水の香りがした。


「てか、香水くさい。シャツのボタン開けすぎ!」

「あ、開けられたんだったわアイツらに」


「もうやめなさいよね、こんなこと」


そう言いながら、私は賢人のワイシャツのボタンをしめる。


「こんなの似合わない。せいぜい誰かを一途に思ってる方がマシよ」

「なんだよマシって」


文句を言う賢人の第1ボタンまで閉めようとした時。


「ちょ、おま……そこまでは閉めなくて」


ーーパチ。


至近距離で目が合った。

まるでキスでもするみたいな距離。


「……っ」


な、なにこれ……。

ドキンっと心臓が胸を打つ。


なんだか急に恥ずかしくなって来て、ぱっと離れると賢人も目を逸らして言った。


「……お前ってまつげめっちゃ長いのな」

「はぁ!?なに急に!キモいんですけど!」


「か、可愛くねぇ~」

「なんですって!?」


ムカつくんですけど!!!


結局私たちはこうなるんだ。


こうしてもう一度向き直ると、彼は言う。


「なあ、この香水の匂いとって」

手を広げて待っている賢人。


「……どうやってとるつもりよ?」

「お前が抱きついて上書きしてくれてもいいぜ?」


──ドキ。


ニヤっとからかうように笑った賢人に、思わず心臓が音をたててしまった。


「冗談やめてよ、虫よけスプレーならあるけど」


ポケットに入れていた虫よけスプレーを賢人に向けると、賢人は驚いた表情を浮かべた。


「うわ、お前やめろつーの」


完全にいつもの賢人だ。


……元気になって良かった。


賢人が元気じゃなきゃ、私の調子も出ないから。

あんたはあんたらしくいてよね。


私は虫よけスプレーから逃げる賢人を見ながら、思わず笑顔になった──。




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