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第14話:久しぶりの未玖

【賢人side】


震える莉乃を保健室に運び、落ちつかせると5限目は出ずに俺も一緒にいることにした。

事情は教師に説明済みだ。誰かが一緒にいた方がいいと、俺がここにいることも許してくれた。


「申し訳ないけど、少しだけここを外すわね」


保健の教師は外せない用があるみたいで部屋から出て行った。


「落ち着いたか?」

「だいぶね……」


莉乃の手を見る。

確かに震えは止まっていて、少しは落ちついたんだと分かった。


莉乃のいるベットに俺も腰掛けると彼女は言った。


「ごめん……さっき、ひどいこと言って……」


あの時のことか。

きっと本当に反省しているんだろう。


莉乃は顔をうつむかせている。

あれは俺も言いすぎだった。


それに。


「俺の方こそ……性格悪いとか言ってごめん」


性格悪いなんて本当は思ってなかった。


「本当はさ、あの時俺はお前の1番の理解者になってやんねーといけなかったと思ってる」


同じ状況で、俺の最低なところを許してくれた莉乃。彼女のあの時の行動に、俺は救われた。


「なのに、あんなこと言ってごめんな」

「いいわよそんなの。今日……助けに来てくれただけで十分だし。こんな私でも助けてくれる人っているんだなーって思ったらなんか嬉しかった……」


「つーか、あれはほとんど俺のせいだから」

「別に、あんたのせいじゃないでしょ。ただモテるってだけで私にとっては憎たらしいだけよ」


「言ってくれんじゃん」

「まぁね、もう震えも止まったし」


「良かった」


いつものように悪態をついてきたからもう大丈夫だろう。

俺はベットから立ち上がると莉乃に言った。


「じゃあ教室行くわ。今、アイツらは事情聴衆されてるっぽいから会うことはないと思う。今日放課後はお前のとこ行くから教室で待ってろよ?」


「うん、ありがとう!」


放課後はアイツらと会わせないように俺が迎えに行った方がいいな。

そんなことを考えながら、教室に向かうと、俺は残りの1コマの授業を受けた。


そして放課後──。


「莉乃」


俺はすぐに莉乃の教室に向かった。


「あー今いく」


俺が顔を出すと周りはすぐザワつき始める。

きっとここでもウワサされてるんだろう。


あのグループに言っただけじゃ、収まんねぇかもしれねぇな。


莉乃にも聞いてみるか。


「お前クラスでは平気なの?」


莉乃が来て、小声でそんなことを聞くと、彼女はけろっとして言った。


「あいにく、そんなに弱くないから。変なウワサ立てられるくらいなら大丈夫よ」


変なウワサくらいって、そんな軽いもんでもねぇだろ……。


「呼び出されたり、危ない予感がしたらとりあえず連絡しろよ。そん時はすぐ行くから」


莉乃に念押しして言うけれど、彼女には響いていなかった。


「別にそこまでしてもらわなくてもいいわよ、今回はひどかっただけだから」


コイツは本当に。未玖より警戒心がねぇんじゃねーか?

いや、いつもの強がりが出てるのかもしれねぇけど。


全くさ、もうちょっと頼れつーの。

そう思って莉乃の腕をグイッと引っ張る。


「今は俺の彼女なんだから、お前を危ない目に合すのは俺のプライドが許さねぇ」


普段強気でいるからこそ莉乃があんなに震えているところ見て驚いた。

ずっと頑張ってきたんだな。


強がって一人で平気って言い聞かせて来たんだな。

そう思うほど守ってあげたいという気持ちは強くなる。


「な……何よそれ、仮なんだから別に」

「いいから」


「…………」


莉乃が静かになった時は"分かった"という合図だ。


俺も最近コイツのことが分かるようになってきた。


2人して並んで帰る帰り道は、夕日がいい感じに影を作り輝いている。


「明日また美玖たちと集合する日だけどお前大丈夫かよ」

「ちょっと気まずいけど平気」


莉乃は有川をビンタして、未玖ともケンカしてって最悪な状態だ。

明日は俺が仕切らねぇとな。


そうやって気合いを入れると夕日に光る影は大きく揺れた──。


そして次の日。

俺たちは授業を受け終わると、2回目の集合を果たした。


──ズーン。


4人全員が揃ったのはいいが、雰囲気はまじでどんよりしている。


「さ、さて報告すっか……」


それは、もううまく仕切れないほどに。


「お、俺たちはだな、ケンカして色々あったけど今は順調だ」


たどたどしく状況を話す俺に有川はさっそく口を出してきた。


「いつものラブラブアピールはしなくていいの?」

「……っ、」


バレてたのかよ。


「ラブラブだからケンカもしたんだよ。それでちょうどいい空気感的な?なあ莉乃」

「そうね」


莉乃は俺の様子を見て少し笑っている。


「僕たちの方は吉田さんがいいなよ。もうビンタはこりごりだからね」

「あ、はい!」


目線を未玖に移すと、有川の言葉で未玖は姿勢を正した。


コイツの言うこと聞いてる未玖はなんだか心を開いてるように見えてちょっと寂しくなった。


なんか、美玖イキイキしてんな……。


「えっと……私たちは一緒に帰って……それで有川くんが色々と助けてくれまして……」


「そんなことはいいよ、てかもっとまとめて話せないわけ?」


「ご、ごめんなさい!」


前は未玖が脅されてるように見えたのに、今はなんだかうまく掛け合ってるようにも見える。


しかも有川の口数も増えたような……。


向こうも話したりしたのか?


「助けたって……未玖なんかあったのかよ?」

「あ、別に大したことじゃないよ」


俺が心配になって聞いた言葉も、未玖は目を逸らすだけで教えてくれない。でも有川には話せるんだな。


「でも……」

「彼女がキミには教えたくないって言ってるんだあんまりしつこく聞くなよ」


しまいには、有川に邪魔されて、聞き出せず……。

俺と未玖の距離はどんどん離れて行っているように感じた。


なんだろうな……これ。


「もういいだろ?今日僕は委員会があるから早めに帰るよ」


虚無感つーのかな。

有川は俺が考えているうちにカバンを持って屋上から出て行ってしまう。


「ちょっと賢人、大丈夫?」

「あ……ああ」


俺の意識を戻したのは莉乃だった。

そして莉乃は手を合わせると言った。


「ごめん、私も今日は先生に呼ばれているから行くわね」

「おう、」


莉乃までいなくなってしまうと、この場に残っているのは俺と未玖だけだった。

未玖は今日、有川を追いかけなかった。


委員会だからか。委員会じゃなかったら一緒に帰ろうとか言ってたのかな。


「賢ちゃん……」

「未玖……」


どうしよう。

何を話したらいいのか、何なら美玖は聞いてくれるのか、頭がまわらなかった。


沈黙を埋めるように俺は言う。


「あの……さ、一緒に帰ってもいいか?」


そうしてやっと出た言葉はその言葉だった。

また断られるかもしれないと思ったが、未玖はこくんと頷いた。


久しぶりに未玖と2人で帰れる。


帰るだけじゃねぇ、こうやって話すのも久しぶりだ。


「じゃ、行くか」


俺はちょっと緊張しながらも立ち上がり、カバンを持って屋上出口に向かった──。



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