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第13話:どうしていっつもこうなるの?

【莉乃side】


未玖って子に朝から話しかけられて、私はイライラしていた。


2人のキスを目の前で見て、すごくショックを受けたのに、なんで平気で話しかけられるの?


あげくのはてに潤が優しいだなんて言ってきて、本当に……性格悪すぎよ。


『そんな中途半端なことして賢人のことも私のことも傷つけてるって分からないの?私はあんたみたいなヤツと話もしたくないから。おはようとか言って来ないで!』


……でも、ちょっと言い過ぎたかな。

ううん、あれぐらい言ってやらないとああいう子には分からないのよ。


イライラしやがらも教室に行く。

私が教室に入りとみんなが私を白い目で見る。


その理由はもう分かっている。


『え、何?有川くんにフラれたの?』

『そりゃフラれるでしょ、それで賢人くんに乗り換えだって、ホント最悪だよね~』


せめてあいつがモテなければ、ここまでウワサになったりしなかったんだろうけど、あいにくアイツは他のクラスからも人気があるらしい。


まぁ、別に気にしないし。


ウワサ話をしている女子をキッと睨みつけると、彼女らはびくっと体を揺らして目を反らした。


ふんっ、好きなだけウワサ話でもしてたら?


イライラは募るばっかりだ。


私はそんな雰囲気の中、授業を受けた。



授業が終わり、昼休みになると、賢人のクラスに向かった。


前まではクラスの子と食べていたけど、今はウワサ話をされて居心地が悪い。

それに一緒に食べてた子たちも迷惑がって私から離れていくようになったし……。

だから賢人と食べることにしている。


作戦会議もしなくちゃいけないのもあるしね!


「賢人」

「おう、待ってろ」


クラスに顔を出すと、やっぱりここでも女子に睨まれる。

でもまぁ潤と付き合った時からそうだったから慣れている。


潤は手の届かない憧れの存在。

賢人は誰とでも仲良くなれるモテ男ってところかしら。


2人ともモテるからこうなってしまうんだ。

でも別に怖いなんて思ったこともない。


憧れの存在を手に入れる努力をしてきた。


私は見てるだけで僻んでる連中とは違う。


コンビニ袋を持った賢人と屋上に行くと、彼はすぐに座った。


「てか、毎日コンビニのパンってどうなのよ?」

「あ?購買で買ったりもするぜ?」


「そうじゃなくって!お弁当とかにしないの?」

「うーん、俺ん家、母ちゃん忙しいからよー」


そう言いながらもぐもぐとパンを食べる賢人。栄養……偏りそうじゃない?

「ふーん、じゃあ私が作ってきてあげようか?」


珍しく気が向いてそんなことを言ってみたら、アイツはその言葉を簡単に蹴って来た。


「えー、お前料理下手そう」

「うまいから!!」


「いやぁ、うまくても未玖の玉子焼きには敵わないと思うぜ」


あーはいはい。またその話ね。

呆れた顔をした私に賢人は思い出したかのように言った。


「そういや、お前……朝未玖と話したんだって?ダチが見たって言ってたんだけど何話してたの?」


その話か……。


「何って別に……あの子が話かけて来たから、もう話しかけてこないでって言っただけ」


そう言うと賢人の声色が少しだけ変わった。


「なんでそんなこと言ったんだよ」

「だって!朝から有川くんは優しいね、なんて言ってくるのよ。私の目の前でキスしてそんなこと言ってくるなんてあり得ないじゃない!」


私が怒りながら、朝の出来ごとを伝えると、彼はいつもの調子で言う。


「あーそれな……未玖いっつもあんな感じなんだよ。天然つーの?悪気とか全然なくてああいうの言っちまうからさ、そんな強く言わないでやってよ」


……何それ。

悪気はなくたって、私が傷付いたこと自体は変わらないのに、なんだかあの子をかばおうとする賢人に無性にイラつく。


なんなの。なんでいっつもああいう子なの?


けっきょくは可愛くて、女の子らしい弱い子が守ってもらえる。

私はそんな状況をいつも見てきた。


だから私は……いっつも一人で……。


「…………っ」


イライラがピークにたちした私は、今思っていることをすべて吐き出した。


「……そうやって甘やかしてるから、ああいう性格になったんじゃないの?私にはわざとやってるようにしか見えないわよ!賢人が気付いてないだけで、あの子絶対性格悪いと思う!賢人のことだって守ってもらえればいいと思って一緒にいたんでしょ?けっきょくは好きじゃなかったんだから利用されてたんじゃん!」


大きな声で言い放つ。

すると賢人は静かに低い声で言った。


「おい、言いすぎだろ」


──ビクッ。

聞いたことのない賢人の声に、しまったと思っても、もう遅い。


「だって……」


私が反論しようとする言葉にも、彼はかぶせて言った。


「未玖はそんなヤツじゃねーよ、それは俺がよく知ってる。つかそんな風に考えるお前の方が性格悪いだろ」


冷たく言い捨てられた言葉。

込み上げて来た怒りは一気に虚しさに変わる。


「…………っ」


ムカつく、ムカつく。

けっきょく私は……賢人といても一人じゃんか。


私はお弁当箱を持って立ち上がると、屋上を出た。


「あ、おい……!」


そして走ってトイレに逃げ込むと、声を押し殺して涙を流した。


「…………っ。」


どんな涙なのか分からない。


性格悪いって賢人に言われたのが嫌だったのか、悪口を平気で口に出してしまった自分が嫌だったのか、けっきょく自分の味方は誰もいないんだってことが嫌だったのか、全然分からない。


だけど涙はポロポロと流れて止まらない。


泣かないって決めたのに。


潤がすぐ泣く子は嫌いだって言ってたから、絶対に泣かないって決めていたのに、アイツに出会ってから私は泣いてばかりだ。


こぼれる涙を拭って、外に出るともうすぐ授業が始まる時間だった。


……お弁当食べ損ねちゃった。

もういいや。


「わ、戻って来たよ」

「賢人くんと一緒にご飯でも食べてたんでしょ?よく落とせたよね。あんな性格悪いのに」


けっきょくは一人。自分が強くないといけない。

だからすごくあの未玖って子が羨ましかった。


誰かが自分のことを守ってくれること。

守るって言ってくれる人がいることが。


お弁当をカバンにしまい、授業の準備をしていると、なんだか虚しさだけが心の中に残った。授業中も全然集中出来なくて、モヤモヤしてしまった。


あんなに怒った賢人初めてみた。


そりゃ……好きな人けなされたんだから怒るのも当然か。


それから授業は終わり、放課後になったけれど賢人から連絡が来ることはなかった。


……そんなに怒らなくてもいいじゃない。


携帯を見つめながらも、自分から賢人のところに行くことが出来ない。

なんかバカみたい。


これじゃあまるで私が賢人のこと好きみたいじゃない。


「はあ……」


私は、一人でカバンを持って学校を出ることにした。


下駄箱でクツを履き、校門を出ると目に映るのは潤とあの子の歩く姿だった。

……なによ、やっぱりよろしくやってるんじゃない。


前の2人の雰囲気とは違って普通に会話を楽しんでいるように見えた。


なんか、潤が楽しそうにしてるようにも見える。


カップル交換を承諾したのも潤だったし、本当はああいう女の子らしい子の方がいいのかな……。


なんとなく、自分だけは3カ月経っても潤と元に戻れそうに感じなかった。

とぼとぼと家に帰り携帯を見つめる。


連絡はいまだに来ない。

謝った方がいいんだろうか。


メール画面を作成したけど、なんて書いたらいいのか分からなくて私はそのまま携帯を閉じた。


はあ……。

可愛くない性格は人に壁をつくる。


前からそう。

こうやって色んな人に嫌われちゃう。


潤もそう、賢人もきっと……嫌になっただろうな。

それでまたひとりぼっち。


誰も私のところには来てくれない。

じわっとにじむ涙をこらえながら、私は携帯を握りしめていた。


次の日──。

けっきょく私からメールすることも出来ず朝を迎えた。


一人で学校に行き、下駄箱でクツを履きかえる。

その時。


──ドン!


「痛……っ」


誰かにすごい勢いで肩をぶつけられた。


「ちゃんと前みて歩きなさいよ~乗り換え女!」


あれは……賢人のクラスの女子たちだ。

リーダー格の女子がそんな言葉を言うと周りはくすくす笑う。


本当に呆れちゃう。

一人じゃなにも出来ないくせに。

集団になれば強気になって、こうやって粋がって。


「邪魔なんだけど」


そういう女子が一番嫌い。


私はリーダー格の女子を睨みつけると、すぐにクラスに向かった。

だけど教室に入ったってウワサは絶えない。


前仲良くしていた子たちも、私と関わると何か言われると思ってもう話しかけてくれなくなった。


私のこと、何も知らないクセに勝手にウワサして楽しんで、本当に嫌になる。

視線を無視して授業を受けると、昨日眠れなかったせいで机に伏せて眠ってしまった。


午前中はほとんど身の入らない状態で終わった。


昼休みになってもやっぱり賢人から連絡は来ないし教室に来ることはなかった。

今日……どこでご飯食べよう。


そんなことを考えていると朝ぶつかってきた女子が私のところへやって来た。


「ちょっと一緒に来てもらってもいい?朝のこと謝りたくってぇ」


また集団で私のところに来たってことは謝りたいなんてまっさらな嘘だろう。


「いいわよ」


どうせ何か言おうとしてるんだろうけど、負けない。

私は逃げたりしないんだから。


女子の後を付いていく。


するとやって来たのは体育館裏だった。

なるほど……人目に付かないところってことか。


女子たちは私を囲むと、余裕な笑みを浮かべながら言った。


「潤くんから賢人に乗り換えって本当やるよね~あんたみたいな顔だけの女、本当にムカつくんだけど」


「ふっ、じゃああんたたちは顔もよくないから何もかも最低ね」


負けない。絶対に負けない。

言い返すとその女はかっと頭に血がのぼったみたいで手を振り上げた。


「あんたのそういう所がムカつくんだよ!大人しく泣けよ」


しかし、その手がおちてくる前に他の女がそれを止めた。


「怜奈、いいじゃん。もう他の作戦でいこうよ」

「そうね。コイツはなかなか泣かないからこっちの作戦の方がいいかも?」


他の作戦……?

怜奈と呼ばれる女は冷静を取り戻し、後ろを振り返っていった。


「来ていいわよ~」


……誰に言ってるの?


するとその声に合わせて入って来たのはチャラそうな男たち3人組だった。


だ、誰よりコイツら……。


「ちょっと何?」


私が強気で言っても彼女はニヤっと笑うだけだった。


「好きにしていいわよ、この女」


…………っ!


「マジかよ、顔可愛いじゃんラッキー」

「どうせ顔だけよ。すぐ男乗り換えるくらいなんだから相手してやんなさいよ」


くすっと笑って腕を組んでいる怜奈。

男たちが近づいて来ると、私は怖くて逃げることも出来なくなった。


「やだ、やめてよ!」


「さすがにこればビビるんだ?まあ、そうよね。男3人に囲まれて逃げられるわけないもんね?私らにあんなことしたんだから、これくらい覚悟しなさいよね」


男の手が制服に伸びてきて、リボンが外される。

すると私は震える手で押し返した。


「……っ」


ビクともしない。

やだ、怖い、やだ……。助けて……っ。


ぎゅっと目をつぶった瞬間、ものすごい音が聞こえてた。


「ゲスいことしてんじゃねーよ」


──ドカー!


その鈍い音に私はおそるおそる目を開ける。

すると、そこに映っていたのは、賢人の姿だった。


「賢人……」


賢人は1人の男の腕を掴みあげながらもう1人のお腹に蹴りを入れる。


「お前さ、人の女に手出すってことはどうなるか、覚悟出来てんだろーな」


──ドカッ!


そして賢人がもう1発、私に触って来たヤツを殴った。


「痛てぇ!」

「ほら、まだやれるなら来いよ」


「悪かったって!アイツがやれて言ったから俺たちは……」

「やれって言われたらなんでもやんのかよ?ぁあ"?だったら……死ねよ」


賢人はみたこともない形相をして睨みつけた。


あんな賢人……見たことがない。


「ひいっ……」


それに完全にビビってしまった男たちは腰を抜かしながら逃げていく。

すると、賢人は今度、女たちの方に向き直った。


「お前ら、マジで最低だな」


賢人と同じクラスの女子。名前はたぶん知っているだろう。


「やっていいことと悪いこと、わかんねぇ?」


「だ、だって……賢人が騙されてるって思ったから……この子、すぐ乗り換えたじゃない!有川くんから賢人に!賢人遊ばれてるのよ!だから制裁を……」


「制裁……?お前らどの立場でそんなこと言ってんの?」


睨む力は鋭く、声も低い。それは私もビクっとしてしまうほどだった。


「だって……」


──ダン!!


「勘違いしてんじゃねーよ。俺が奪ったんだ。アイツから。莉乃のことめちゃくちゃ好きだから」


──ドキン。


足で女子がいる後ろの壁を蹴りながら真剣な表情で賢人は言う。


めちゃくちゃ好きって……嘘だって分かっているのに、私の心はドキドキと動きだす。


「そんな……」

「お前らさ、知りもしないクセに勝手騒ぐなよ。そういうのが一番ウゼーんだよ」


鋭く睨んで彼女たちを脅すと、賢人は最後に言った。


「今度コイツに手出したらただじゃおかねぇからな」

「ひっ……」


その言葉に、女子たちは小さな悲鳴を漏らして走って逃げていった。

きっともう何もして来ないだろう。


なんとなく、そう悟った。

すると賢人がこっちにやってくる。


さっきまでとは打って変わって優しい声で私に聞いてきた。


「大丈夫か?」

「う、うん……平気!助けてくれてありがとう!」


賢人がきてくれて、力が抜けていく。


ほっとしたせいか、堪えてないと泣いてしまいそうだった。


やだ、私……全然大丈夫だったのに、なんで泣きそうなんだろう。


「男が来るとさ、やっぱり一人じゃ対処しきれないなー!って感じよね!助かった!ありがとう、教室戻るわ!」


こんな弱い自分バレたくない。


私は必死に平然を装って言った。


「あんなも戻ったら?お昼終わっちゃうし……」

「おい、」


教室の方に向き直り、歩きだそうとする私。

しかし、賢人は私の腕をグイッと引っ張った。


「ちょっ、な……」

「無理してんじゃねぇよ」


「へ、何言ってんの?別に無理なんか……」

「手。震えてる」


気付かれないように、出来るだけ明るく言ったのに顔見られないようにすぐ帰ろうとしたのに、どうしてこんなことまで気がつくの。


「…………っ」


怖い。本当はすごく怖かった。

もう駄目なんじゃないかって思った。


一人じゃなんにも出来ないんだって気付いてそれで……。


──ぎゅう。


「賢人……」

「怖いに決まってんだろ、あんなことがあったんだからそれなのに、いつもみたいに強がってんじゃねぇよ」


温もりが温かくて、優しくて、私は我慢していた涙がポロポロと零れて来た。


「怖い……怖かった……」


いつもは言えない言葉を私は口にする。


一人でいいんだって。どうぜ誰も助けてくれないからって思ってた。

だから……助けてくれた時、嬉しくて安心して力が抜けた。


「うう……震え止まんない……」


ずっと閉じ込めていた言葉は誰かが来てくれて初めて解放される。


「大丈夫だから」


一人で大丈夫だなんて自分を強くするために言い聞かせていた単なる言葉に過ぎなかった。


「お前が落ち着くまでそばにいる」

「でも……授業はじまっちゃうかもしれないし」


「授業より彼女優先だろ。分かんねぇ?こっちは大事な彼女泣かされてんの」


な、なによ。本当の彼氏じゃないクセに。

こんな風に大切にされたら、勘違いしちゃうじゃない。


──ドキン、ドキン、ドキン。


なんか、顔見れないや。

全然カッコイイと思ったことないのに、どうしてこんなに賢人がカッコよく見えちゃうんだろう。


「どした?」

「ううん」


今日の私……何か変だ──。




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