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第12話:そんなつもりじゃなかった

【未玖side】


「はぁ……」


有川くんと少しは仲良くなれたと思ったらまた別なことで問題は発生する。


どうしていつも、私……うまくいかないんだろう。

それは、今日の朝の出来ごとのこと──。


学校に来る途中で莉乃ちゃんにばったり会った。


『おはよう莉乃ちゃん』


私は挨拶をして、莉乃ちゃんと仲良くなれたらいいなってずっと思っていたから、伝えたんだ。


『有川くんって優しい人だね』


しかしその言葉が莉乃ちゃんを怒らせてしまったらしい。


『言っとくけどね、昨日は潤に怒ったけど私が一番嫌いなのはあんただから!賢人と離れられたからって、すぐに他の男のところ行くなんて最低よ』


『り、莉乃ちゃ……』


『そんな中途半端なことして賢人のことも私のことも傷つけてるって分からないの?私はあんたみたいなヤツと話もしたくないから。おはようとか言って来ないで!』


怒りながらそう言って先に歩いてしまった莉乃ちゃん。


また私、人のこと……傷付けたんだ。


莉乃ちゃんともただ仲良くしたかっただけなのに……どうしてこうなっちゃうのかな。


昼休み──。

いつも賢ちゃんとご飯を食べていた私は友達がいないから、お昼も一人。


入学してから友達になろうって伝えることが出来ず、そのままひとりぼっちになってしまった。


だけど、今日は有川くんに朝のことを相談したくって、彼がいる非常階段までやってきた。


「あ、あの……」

「何?」


有川くん、友達はいるけど昼休みは一人でご飯を食べたいタイプらしい。

1回彼の教室に行った時、そんなことを聞いて非常階段に行くのを諦めたんだけど、今日はどうしても話を聞いて欲しくて来てしまった。


「一緒にご飯食べたいです」

「嫌です」


「お弁当のおかず分けますから……っ」

「何それ、いらないんだけど」


……だよね。

なんて落ち込んでいると、少しだけ、彼が笑ったような気がした。


ちょっと笑ってくれた……?


ここで引いていてはダメだ!


「あの、話があって……相談聞いてもらえたら本当に嬉しくて……」

「あるなら早く話してよ、僕は食べ終わったらすぐに教室に戻るんだけど」


え……!

それはいいってこと!?


最近、有川くんは本当は優しい人だって気づいた。


こういう時、いいよって言ってはくれないけれど、遠まわしに座ればって言ってくれてるから。


隣に腰を下ろし、お弁当をあけながらさっそく朝あったことを全て話した。


「それで、莉乃ちゃん怒っちゃったみたいで……」


そこまで言うと、有川くんは遠慮なく私にトゲを飛ばしてきた。


「キミさ、空気読めないわけ?」

「え……」


「昨日あんなことがあったのに、僕の話題を出すなんて怒るに決まってるだろ?」

「そ、そんな……」


「しかも僕たちはあの2人の目の前でキスしてると2人は思ってるわけだからね。優しいね、なんて言ったらあの時僕が言った冗談を肯定したようなもんだ」


「え!私そんなつもりはなくて……」


キスのことを思い出し、顔が赤くなっている場合じゃない。


慌てて否定するも食べようとしたたこさんウインナーは箸から落ちた。


「私はただ……仲良くしたくて……」


自分では全くそんなつもりないのに相手にはそう捉えられてしまっている。

……だから莉乃ちゃん、あんなに怒ったんだ。


「だいたいさ、普通そういうの気付かない?言っちゃいけない言葉とか分かるだろ。キミはそういうところが鈍感でダメなんだよ」


傷ついた心にグサグサと刺っていく。


「うう……」


「友達とかに言われないの?てかそういうことも僕に言わないで友達に相談すればいいだろ」


そう、なんだけど……。


「私……友達いなくて……昔イジメられてたから、なんか話すのが怖くなっちゃって」


そんな過去を知っていたから、賢ちゃんはいつも一緒にいてくれた。

でももう、そんな賢ちゃんに甘えないって決めた側にいてくれる人がいなくても、それは自分でなんとかしなくちゃいけない。


「ふぅん、なるほどそれでアイツに頼りっぱなしで、今は一人じゃ何も出来ないってわけか」

「う……」


その通りだ。

有川くんの言葉に何も言い返せない。


「飼い主もペットの教育がなってないな……」


え?


「キミさ、もうちょっと自立した方がいい。いくらイジメられていたからって誰にも声をかけなきゃ友達なんか出来るわけないだろう」


「そ……だよね」


怖がっていて、賢ちゃんが側にいる分甘えていた。

そうならないために賢ちゃんと離れることを決めたのに何もしなきゃまた、同じことだ。


でも……勇気を持って話しかけてもまた誰かを怒らしたりしちゃうかも……っ。


「莉乃のことは別に気にしなくていいんじゃないの。もともと感情を出すタイプだから、ああいう言い方するんだ。昨日の今日だってこともあるし、影で言われるよりはマシだろう?」


「うん……」


食べる箸が止まると、有川くんは私のお弁当からたこさんウインナーをひょいっと取って言った。


「これ、交換対価」

「は、はい……!」


そしてウインナーを口に入れると、彼は言う。


「うん、キミのお母さん料理うまいね」


あ……。そのウインナー……!


「あのね、それは私が作ったの!」


嬉しくて、どうしても言いたくて大きな声で言う。

すると。


「ふぅん、キミ料理出来るんだ」


有川くんは意外そうな顔をした。


「うん……!料理だけはね、得意でね。この玉子焼きも今日は私が……」


ついベラベラ話していると、彼は玉子焼きも指でつまんで自分の口に運んだ。


「あ、」


食べてくれた。

美味しいかな、口に合うかな。


ドキドキしながら有川くんを見つめる。

すると。


「ま、いいんじゃない?」


彼はそう言って立ち上がった。


嬉しい……。


「ごちそうサマ」

「いいえ。私もありがとう。頑張ってみるね!」


「ま、キミ頑張ると、ろくなことないけどね」

「えっ……」


とげを刺しながらもきちんとアドバイスしてくれた有川くん。

やっぱり、本当はいい人なんだと思う。


私は少し気持ちが晴れて、クラスに戻った。


莉乃ちゃんに今度会ったら謝ろう……。


そして午後の授業を受けると、放課後はすぐにやってきた。


今日も帰り、有川くんのところに行ったらしつこいって言われちゃうかな?


有川くんは出来る限り私とは関わらないって言ってたもんね。

でも行きたいな。


そんなことを考えながら、帰りの準備を終わらせると、少し派手めな女子の集団がやってきた。


「ちょっといいかな?」


同じクラスの山本さんとそのグループ。

初めて声をかけられて、少し嬉しくなるけれど彼女たちは言った。


「ちょっと非常階段に来て」


冷たい声色。

非常階段はほとんど人目に付かないところだ。そこで何するんだろう?


疑問を抱えながらもついていくとみんな鋭い目付きで私を見た。


「どういうつもり?」

「え?」


私の後ろは壁。

前は逃げられないように囲まれてしまった。


「賢人と一緒にいなくなったと思ったら今度は有川くん狙い?あり得ないんだけど!」


え……。


「違くてね……!これにはワケがあって」

「言い訳なんて必要ない!純情ぶっといて、本当男にいい顔するのはうまいわよね」


「ちが……っそんな、つもりは」


説明しようにも、どう説明したらいいか分からない。

みんなから責められると、怖くってついに言葉が出なくなってしまった。


「イイ男ばっかり狙って漁るのは楽しい?」

「…………っ」


「ちょっと可愛いからって調子乗って……こんな顔」


山本さんが手を振りかざし、私の顔、めがけてそれをふり下ろそうとする。

叩かれる。


ぎゅうっと目をつぶった瞬間。


──パシン。

その手を誰かがとった。


「こんな人の気配がないところで醜いな」


おそるおそる目を開けてみると、そこにいたのは有川くんで……。


「やるなら堂々とみんなの前でしたらどう?」

「あ、有川くん……」


彼の姿を見た女子はみんな顔を青くさせて後ずさった。


「別に誰が誰と付き合おうがどうでもいいだろ。どうしてみんなそんなに他人を気にするわけ?」


「だって………この子、色んな男に手出してるから。有川くんに相応しくないよ!」


山本さんがそう言うと、彼は言う。


「僕に相応しいかどうかなんて、僕自信が決める。あんまり、干渉してこないでもらえるかな?」


鋭い目で有川くんが山本さんを睨むと、彼女は泣きそうな顔をして逃げて行った。

バタバタと後を追う周りの子たちを見てホッとして力が抜けた。


「あの……ありがとう、助けてくれて」


階段に座り込んで、なんとかお礼を言うと有川くんは言う。


「僕のアドバイスを聞いて話しかけた相手があれ?」

「いや……えっと、そうじゃなくて。向こうから話しかけてくれたって思ってたら、なんかここに連れて来られて……それで……」


「それで、仲良くどこかに遊びに行こうってなると思ったんだ?」

「そ、そこまでじゃないけど……」


有川くんの呆れ顔が私に向けられる。


「よーく分かったよ。キミは賢ちゃんとやらに守られ過ぎて頭がバカになってるんだ」

「な……っ!」


有川くんの言葉に何かを言い返そうとするも言葉が見つからず、何も言えなくなってしまう。


「言っとくけど、もう助けないから。あれはたまたま通りかかった所にキミがいただけだ。今度は自分でなんとかしなよ」


「うん……!ありがとう。でもなんかね、私、安心したんだ。有川くんが来てくれた時、有川くんだ!って心がほっとしたの」


本当だよ、この気持ち。

山本さんの振りかざす手を止めた有川くんを見た瞬間、来てくれたんだって、心が温かくなったの。


「……本当、あざといね」

「え?」


「まぁいいや、手当のお礼ってことで。これで貸しはないからね」

「うん!」


私は頷くと、カバンを持って有川くんの後ろをついて行く。


「なにしてるの?」

「一緒に帰ろうと思って」


「いいって言ってないけど」

「ついて行くだけだから」


「やだ」

「…………」


「って言ったらどうするの?」


意地悪に笑う有川くん。


「それでも一緒にいたいかもです」

「勝手にしたら?」


彼は押しに弱いって少し分かって来た。


後は優しいこと。

知れば知るほど怖くなくなる。



もっと有川くんのことを知りたいって思うんだ──。




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