【賢人side】
莉乃とラーメンを食いに行った2日後、集まる約束の1週間がやって来た。
さすがに昨日は、莉乃のことを考えて2人で集まることはしなかったけど、今日はあの2人に会ってガツンと言ってやらなきゃいけない。
俺はまず先に莉乃のいる3組に向かった。
「おーい、莉乃迎えに来たぞ」
──ザワ。
その瞬間、俺に注目が集まり周りがザワついた。
なんだ?
しかし、莉乃も対して気にしてないみたいで鞄を持って俺のところにやって来た。
「よ、屋上行こうぜ!」
「あんた昨日来なかったわね!」
うわ……。さっそく説教かよ。
「いや、お前のこと考えて行かなかったつーの」
「はあ?そんな柄じゃないんだから来なさいよ!」
俺たちは屋上に向かいながら言い合いをする。
「超仮にも彼氏なんだから、来ないなら来ないで連絡くらいしなさいよね!」
「超ってなんだよ!てかなんでそんなに怒ってんの?もしかして昨日待ってた?」
俺がニヤリと笑いながら言うと、莉乃はさらに顔を真っ赤にして怒鳴った。
「はあ?ま、待ってるわけないでしょ?誰があんたなんか。自意識過剰もいい加減にしなさいよね」
ったく、ひどい言いようだな。
屋上のドアを開け中を覗き込むと有川と未玖はもう来ていた。
「2人ともいるけど、平気か?」
一昨日のことを心配して、莉乃の様子を聞いてみる。
しかし。
「大丈夫に決まってるでしょ。これくらいで泣くよわっ子だと思わないで」
相変わらず可愛くねぇ返事が帰ってきた。
なんだよ、すっかりメンタル回復してんじゃねぇか。
「おい、来たぞお前ら」
俺が堂々と2人の前にあらわれると有川は淡々と言った。
「まぁ来るでしょ、約束なんだから」
コイツ……やっぱり嫌いだ!
「と、とりあえず、1週間の報告をする!話はそれからだ」
めんどくさいことになると気付いた有川はため息をつく。
だけどな!ことをめんどくさくしたのはお前だからな!!
その後ろで未玖はビクビクとこっちを見ている。
「俺たちは昼休み、毎日飯を一緒に食う仲で放課後もデートに行った。な、莉乃?」
間違ってはない。
昼休みは一緒に作戦会議。
放課後はあいつらにラブラブを見せつけるために頑張った。
結果、失敗に終わっちまったが2人で食べに行ったラーメンはデートと言えるだろう。そう、入れてしまえばいい。
「うん、そうよね?賢人」
今だってピッタリくっついてラブラブをアピールすれば、美玖はきっと嫌な顔をして……。
「そうなんだ、2人ともすごく仲よしになったんだね!」
……ねぇ。全然してねぇ。
むしろ、目が輝いてる。
まじかよ。俺がダメージを受けていると有川は遠慮なく言った。
「僕たちはそんなに一緒にいないけど、キミらの百倍は先に進んじゃったかな?」
「「え」」
その瞬間、莉乃と声がかぶった。
「まず、君らに会った時僕たちはキスをしたわけだけど……逃げた後に吉田さんの家に僕は行くことになって……ああ、この先はもう話せないか」
ニヤリと笑う有川。
な、なんだよ話せないことって。
だいたい未玖の家?そんなのウソだろ?
そう思って未玖を見ると、顔を赤らめている。
まじ、嘘だろ!?
「お前、ふさげんじゃねーぞ!!キスも勝手に奪いやがって!美玖が可哀想だろうが!!」
有川のシャツをわしずかみにして怒鳴ると、彼は気にする様子もなく言った。
「可哀想って、何言ってんのさ吉田さんがいいって言ったんだよ」
「未玖がいいなんて言うわけねぇだろ!」
さらに締め上げて睨みを利かすと未玖は言った。
「賢ちゃんやめて!私が言ったの……」
「え、」
その瞬間、手が離れていく。
「私が……言った」
「なっ……!」
嘘だろ?絶対嘘だ。
未玖は脅されてこんなこと言ってんだ。
「やっぱコイツぶっとばす!!」
ムカついてきてもう一度有川に手をかけようと思った時。
──パシン。
その高い音は耳に響いた。
「莉乃……!?」
その音の犯人は莉乃で、彼女が有川のことをビンタしたんだって分かった。
「最低だね、潤……」
あんなに有川のことを大好きだった奴がこんなこと、するなんて思わなかった。
こんなに冷めた目でああいつを見ていると思わなかった。
「あ、おい莉乃!」
そして莉乃は屋上の出口に向かう。
俺は未玖と有川と話している場合ではなくなり、莉乃を追いかけることにした。
スタスタ先に行ってしまう彼女。
もしかして、また泣いてるのか?
心配になって慌てて腕を掴むと莉乃は振り返った。
「へへ、ちょっとすっきりした」
なんだ……泣いてねぇ。
よかった。
「お前ビンタするからどうしたのかと思ったわ」
「イライラしちゃってさ。こんな私たちの反応を楽しむみたいなことされて許せなかったの。潤に初めてだよ。こんなことしたの……」
顔は思ったより、落ち込んでいなかった。
「でも不思議ね。ビンタして最低って言ったのに全然嫌いになれない」
うつむいて言う莉乃。
いくら落ち込んだ様子を見せていないからって、ショックじゃなかったわけじゃない。
そんな彼女の頭をくしゃっと撫でると俺は言った。
「いいじゃん別に?俺はさ、お前が幸せになってほしいって思うから別の奴、好きになれって言ったけど、結局は全部自分の気持ちだからな」
気持ちなんて人に言われて簡単に変えられるわけじゃねぇ。
それは俺も痛いほど分かる。
「だから、無理に嫌いになろうとしなくていい。それに俺ら、別に相手を嫌いになるために付き合ってるんじゃねーしな」
向こうとは違う。
俺らはもう一度、自分のことを見てほしいから一緒にいる。
「そうね」
少し元気になった彼女を見て安心すると、やっぱり怒りは込み上げてきた。
美玖とアイツ……本当に言えないようなことしたのか。
ああ、もう。モヤモヤする!
「1発俺も殴りたかったんだけど?」
「私がやったから駄目。可哀想でしょ2回もなんて。それに一応私の好きな人だから、私が止めるから」
はい、はい。
そこは甘いのな。
まぁ、でも俺たちはそれでいい。
ずっと相手を一途に思う。
そして3カ月後、お互いがこっちを向いてくれればそれでいいんだから。
「でもビンタしたからさらに嫌われちゃったかも」
「どうせゼロスタートって考えればこれからじゃね?」
「あんためっちゃポジティブね」
「そのくらいじゃなきゃやってけねぇの。あー腹減ったー!なんか食いに行こうぜ」
「またラーメンは嫌よ」
「じゃあどんぶりは?」
「私を太らせようとしてる?しかもそれ男同士で行くやつでしょ」
「決まりな」
「ちょっとー!!」
あの2人がこっちを向いてくれるその時まで、少し仲良くなったコイツと同盟を組んで一緒に頑張ってくって決めたんだ──。