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第7話:狂わせられたペース

【潤side】



「で、なんでキミはついてくるわけ?」


屋上に呼び出された僕たちは何か謎の会合を終わらせたところで僕はすぐにその場を立ち去った。


一人で立ち去り、とっとと帰ろうとしていたところになぜかついて来た人がいる。


「い、一緒に帰りませんか」


トロくさい彼女が明らかに勇気を出しましたー!みたいな顔でそんなことを言ってくる。


「帰るわけないだろ。そんなの時間の無駄。僕は一人で帰りたいんだ」


「で、でもせっかくこうやって集まったわけだし……さっきも相手との時間を作るっていうのが条件だったじゃないですか……」


集まりたくて集まったわけじゃない。


「あの条件本当に実践しようとしてるの?」

「だってそう言ってたから……」


どうしたらそこまでピュアに生きていけるんだろう。

世の中そんなお花畑みたいな世界じゃないのに。


「あんなのさ、適当に返事してればいいじゃん。ていうか、チャック空いてるけど」


彼女は自分の帰る準備を慌ててして来たのか、バックのチャックが開いていた。

そこまでして、ついてくる意味が分からない。


「せっかく集まったって言うなら、向こうと一緒におしゃべりしてればいいじゃない?」

「…………」


一緒にいられるわけがないことを知っていてあえてそう言うと、彼女は黙ってしまった。


「じゃあ」


彼女をおいて歩き出す。


すると。


「有川くんと仲良くなりたいんです……っ」


後ろから小さい声が聞こえた。


仲良くなる?なんのために?


彼女だって本心でそう思っているわけじゃないだろう。


こういうタイプは本当に理解ができない。

まだ莉乃の方が分かりやすくて良かった。


「彼女じゃなくてもいいから有川くんと友達になりたいんです……」


……めんどくさい。


僕は彼女に諦めてもらうためするどい口調で言った。


「あのさ、じゃあはっきり言わせてもらうけど僕はキミみたいな友達はいらないね。彼女もいらないけど正直、キミのようなタイプの人間が一番嫌いなんだ何をするにもトロくさくて、泣き虫でそういう人って見てるだけでイライラするんだよね」


淡々と言い放つと彼女は案の定、目を潤めて泣き出した。


ほら、みろ。

やっぱりこうなった。


「……っあの、ごめ……イライラさせるつもりはなくって……」


それがイライラするんだってば。

早く帰りたいっていうのに。


ポロポロと涙を流しながら必死で拭っている彼女。

そんな彼女を見ていると思いだすのは理不尽に責められた過去のことだ。


「あのさ、キミそうやって泣けば誰かが助けてくれると思ってるの?そういうところが嫌いなんだよ。少なくとも莉乃はそんなことしなかったけどね。弱い部分を武器にする女子ってたくさんいる。そういう奴らは、見ていると本当にイライラするんだ」


しっかり伝えてから下駄箱に向かって足を動かすと、彼女は僕の前に来て道を塞いだ。


「あの……っ、もう今日から泣かない……!です。有川くんが嫌いなタイプ分かったから……」


ぐっと下唇を噛み、涙が出るのをこらえる彼女。


「武器とか……っ、そんなつもりは無かったんだけど。ずっと賢ちゃんに守ってもらってたから……無意識にそんなこと考えてるのかなって……っあの……っ今日から泣かない……から、一緒に帰りませんか?」


目に溜まる涙を力強く拭って僕を見る。


なんで泣かないから一緒に帰らないといけないんだって、色々言いたいこともあったけど、このまま言い合っている方が時間がかかると思った僕は折れることにした。


「……とりあえず、これで顔拭きなよ」


ため息をつきながら彼女にハンカチを渡すと彼女はご丁寧に両手でそれを受け取った。


「あ、ありがとう」


いくらイライラしてたからって今回のは僕も言い過ぎた。


「洗濯して返します!」

「当たり前でしょ」


「は、はい……!」


少し表情を明るくさせた彼女は、準備万端とも言いたげに笑顔を見せた。


「あのさ、カバンのチャック開いたままだけど」

「……っえ、ええ!なんで!?さっき直したはずなのに……!」


「そうやってモタモタしてるならおいていくからね」


焦った様子でもう一度直すと、彼女は速足で僕の後ろをついてきた。


下駄箱でクツを履き換え、校門を2人で出る。


そんな時、彼女は小さな声でつぶやいた。


「有川くん、莉乃ちゃんのこと本当はすごく大事に思ってたんだね。なんか安心しちゃった」

「は?」


僕が莉乃のことを大事に思ってる?


いつそんなこと言った?


「さっきさ、少なくとも莉乃はそんなことしないって言った時、有川くん莉乃ちゃんのことしっかり見てるんだなって思ったの……有川くんが莉乃ちゃんのことを受け入れたのも、そういう強さに魅力を感じたからなのかなって」


「それは別に例えの話だろ。あまりにもキミがうざいから莉乃はそんなことしないって言っただけだ」


「そうなのかな……」

「家どっち?」


大事にしたつもりなんてない。


今だって莉乃から離れられて良かったと思ってるし、僕はずっと莉乃のことをないがしろにしてきた。


なにせ、人を愛せない人間だから。


「あ、私の家はこっち側なんだ」


僕の家とは違う方向か……。


彼女が指さした方を歩き出す。


「有川くんもこっちの方向?」

「違うけど」


「えっ……!じゃあいいよ!一緒に帰ってもらえたのに送ってもらうなんて出来ないよ」

「そんなの出来ないデショ」


「えっ」


彼女が驚いた目で見て来るもんだから、僕は淡々と言い放った。


「キミがだらだらと話をするせいで、薄暗い時間になったわけでしょ?それでこのままキミを返して何かあったら僕に責任が問われるじゃないか。そんなのはごめんだね」


「そ、そうだよね……迷惑になるよね。それなら、お願いしたいです」


ペコっと頭を下げる彼女。

特に何を話すこともなくただ歩く。


この変の道は暗いな……。


街灯が消えかかっているところもあり、日が落ちるとかなり暗い。


しかも道も狭いし……。


でも、きっといつもはアイツがいたから平気なんだろう。


「明日からは日が落ちる前に帰ってくれる?」

「え、あ……はい」


そして15分くらい歩いた時、彼女は止まった。


「家ここです……賢ちゃんの家はこっちなの」

「……聞いてないし」


チラリと目線だけ移せばすぐ隣に家があった。


隣同士ってことは、幼馴染ってところか。


そりゃ簡単に別れられない理由があるわけだ。

まあ僕には関係ないけれど。


家まで送り帰ろうと後ろに向き直ると彼女は慌てて僕をとめた。


「あ、あの有川くん、少しだけ待ってて!」


そして勢いよく家の中に入っていく。

すると家の中からドタドタ、ドスン!ドン!と慌ただしい音が聞こえてきた。

何してるんだ……。


しばらく待っていると。


──ガチャン


急にドアが開いた。


「有川くんお待たせ、お菓子とか好きかな?これお礼に……」


急いで中に入っていったと思ったら、取りにいったのはお菓子で、彼女の手の中にはたくさんのお菓子があった。


しかも膝が擦り剥けている。


おおかた、あの大きな音は転んだ音だろう。

すごく明るい顔で僕にお菓子を差し出そうとしているけれど。


「好きなわけないデショ」


残念ながら僕は甘いお菓子が大嫌いだった。


すると、そのとたんに顔が一気に表情が暗くなる。


はあ……。

本当にめんどくさい子だな。


「仕方ないから貰っとく」


僕はため息をつきながら、彼女の手の中のお菓子を受け取った。


「あ、ありがとう……!」


嬉しそうな顔をする彼女。


表情がコロコロ変わる。


「じゃあね」


なんだか今日は疲れた。


彼女に振り回されすぎだ。


本来なら一人でゆっくりの時間を楽しんでいただろうに。


来た道を戻るように歩きだすと、後ろから大きな声で彼女が言った。


「有川くん……!」


僕はその場に立ち止まる。


「有川くんといると私、成長出来る気がするの……。正しいこと言ってくれるし、直さなきゃって思えるし……本当にありがとう!また……明日ね……!」


振り返ると、ブンブンと手を振っている。


また明日?

もうキミと最低限関わるつもりはないんだけど。


「迷惑だし……」


僕はポツリとつぶやいて、足を進めた。


『正しいこと言ってくれるし、直さなきゃって思えるし……』


変なの。思ったこと、そのまま言っただけだし。

でもなんとなく分かったことがある。


泣いてそれを武器にしてるって言ったけど、本当はそうじゃないんだろう。

たぶん、あれは涙の武器とかそんなの全然知らない。


例えるならなんだろう……子ども?


そうだ、子どもみたいな人なんだ。


だいたいこの年でお礼がお菓子とかいう発想もおかしい。


僕はポケットに入れていたお菓子をひとつ取りだして見た。


うげ……。キャラメルだ。

小さい頃から甘すぎて大嫌いなお菓子。


久しぶりに袋を開けて食べてみると……。


「まず……」


やっぱり甘ったるくて嫌な気分になった。





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