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第6話:俺のこと好きになれ


気の強い莉乃と言い合っている時、俺はいいことを思いついた。

それは……。


「お前俺のこと好きになれ」


うん、これだ。

これしかねぇ。


目を点にして意味分からないとでもいいたげな彼女に言う。


「だからさ、俺たちの方がカップルっぽくして、ラブラブな所を見せつければいいじゃね?そしたら向こうも嫌だなって思うかもしれねぇだろ?そんで、未玖がやっぱり私……賢ちゃんが好きだったのってなって、俺の元に帰ってくるってわけ」


どうだ、と思って伝える。

しかし、莉乃は眉をひそめて言った。


「本当にそうなると思う?」

「いや、なるかどうかは分かんねぇけど。全く何も思わないってことはないだろう?とーにーかーく!やってみる価値あると思うぜ」


俺がニコニコしながら提案すると彼女は言った。


「嫌だ」

「は?」


「私とあんたがラブラブ?無理に決まってるでしょ?あんたといてドキドキもしないのに、どうやってカップル特有ラブラブ見せつけるって言うのよ。そんなのすぐに潤は見破るわよ」


腕を組みながら偉そうに言う莉乃。

ふぅん、まぁ確かにそうだけどそのエラそうな表情は気にくわねぇな。


俺はニヤリと笑うと、莉乃に1歩、近付いた。


「ドキドキしないって、そんな簡単に決めていいの?」


また1歩と近づいて彼女を隅に追い詰める。


「ちょ、何よ突然こっち来て」


そして徐々にフェンスのあるところまで追いやるとガシャンと腕の中に彼女を閉じ込めた。


「俺、一応モテるんだけど?」

「ちょ、やめて……」


「あのなあ、余裕のない俺ばっかだと思うなよ?」


飛び切りいい声を出して、下を向く莉乃の顎をつかむとくいっと上に持ち上げた。


そしてゆっくり顔を近づけて表情を除き込むと、莉乃はぎゅっと唇をかみしめて、顔を真っ赤にしていた。


………!?


「え……何、お前それ」

「うっさい!触らないで!」


両手で突き飛ばされる俺は、ただただビックリしながら聞いた。


「こういうの慣れてねぇの?」


そりゃぁ多少ドキドキさせてやるかって、つもりではいたけど?


コイツモデルもやってるみたいだし、先輩とかにコクられてんのとかと見たことあったし?


あんなに顔を真っ赤にされるとは思わなかった。


「お前、意外とウブなんだな……」


「ウブって言わないで!私は……いつでも潤だけ!潤一筋なの!」


そして下を向き小さくつぶやく莉乃。


「まつ毛が生まれつき長いから化粧するとギャルみたいに見えちゃうの…それで、勘違いされることも多いけど、遊んでなんかないんだから」


遠くを見て、切なそうな顔をする彼女は、あの堅物彼氏にまっすぐ気持ちを伝えて来たんだろう。


俺とはちょっと違う、逃げないところ。


「ふっ、お前ちょっと可愛いとこあんじゃん」

「はぁ何言っての?」


「そうやって顔赤くしてると、ちょっと可愛く見えるぜつってんの」

「赤くなってないから!」


ボカっと腹に強めの拳を入れられると、やっぱ可愛くねぇなとも思うが、まあ今日は許してやることにする。


「私ね……潤に手出されたことないの」

「え?」


俺は驚いて目を見開いた。


「恋人なのにデートもしないし、手も繋いだことないし……こんなんで付き合ってる方がおかしいわよね」


莉乃はさみしそうな顔をする。


「本当はわがまま言わないで、別れてあげるのが一番いいんだって分かってるの」

「でもいつも考えちゃう……もしかしたら、頑張れば好きになってくれるかもって」


強気な彼女が静かな声で悩みを話す瞬間は未玖よりも小さく見える。


きっと不安だったんだよな。


付き合うことがゴールじゃない。

付き合ってからも、上手くいかなくてどうしたら上手く行くのかずっと考えていた。


「俺もだよ。もっと俺を見てくれたらってずっと考えた。それに、無理やり付き合ったみたいなもんだったしな。キスとかデートとか誘ったら嫌なのに断れないんじゃないかと思って、全然してねぇよ」


「そうだったんだ……でもさっきの、慣れてそうだったけど?」


「まあ、そこそこ遊んではいた。未玖を重ねて好きでもない奴とな」


自分の本当の気持ちを押し殺して、逃げて、未玖に重ねて。


あの時は本当に最低だった。


「まぁ未玖と付き合う前だぞ?」

「ふぅん……」


「あれ、罵倒しねぇの?」


いつもすぐ責めたてる彼女が、珍しく何も言わないことに驚く。

すると、彼女は言った。


「誰が聞いても最低って思うこと、責めてもしょうがないでしょ。どうせそのことは他の人に責められるんだから、それだけで十分よ。それよりも私はあんたのこと情を知ってる一人として、こういう時は責めるんじゃなくて、許す役割をしてあげる。許してあげる人が一人はいなきゃ可愛そうでしょ?」


……ふぅん。

コイツ……たまに心に響くことを言いやがる。


いつも責められていたら自分がつぶれてしまう。

いわば俺たちは許し合う仲ってわけだ。


悪くねぇ。


「ってことでラブラブ大作戦決行だな」

「だから嫌だってば!」


おいおい、そこも許してくれよ。


「さっきさ、別れてあげるのが一番いいんだって分かってるって言ってたよな?」

「うん」


「でも別れることは出来ない。お前はあいつの手離してあげられねぇんじゃねぇの?」

「それは……」


「だから俺たちに残された道は、全力でやるしかねぇだろ。いくら滑稽に見えようとラブラブして相手の気持ちを揺らすくらいになんねぇと」


口を尖らせて考え込む莉乃になっ?と返事を促す。


「じゃあ少しだけなら……」


彼女はやっと俺の意見を承諾する気になった。


「よし、決まりだなじゃあ莉乃。今日からお前は俺の仮彼女として尽くせよ?」


「は?あんたが尽くしなさいよ」


……うん、すっげぇ合わなそうだけど。


とりあえず頑張るしか俺達に手段はない。

これも何かの縁だしな。


同じ場所で同じシチュエーションで、同じようにフラれた俺たち。


境遇もなんだか似てるから、ここは手を組んで協力するしかない。


「でもなぁ全員クラス違うの不便だよなあ」

「俺が1組で、お前が3組だろ?未玖が4組で有川が……」


「5組」


そうだ、俺達は全員クラスが違う。

つまり、あの2人が一緒にいる時しか俺らのラブラブは見せ付けられないというわけだ。


あいつらが仲良く一緒にいるなんてことあるのか……?


「まぁ、それもなんとかするしかないわよね……私もあんたの教室に行ったりしなきゃいけないのはめんどくさいけど。……てか今日、私のクラスよく分かったわね」


あーそれのことか。


「ダチに聞いて調べた。ついでにそのダチがさお前のこと可愛いつってたからよ、訂正しといてやったぞ」


「殴るわよ?」


きっ、と俺を睨みつける莉乃を見て笑いながら肩を叩く。


「ま、とりあえず俺のことは名前で呼べよ?あんたとか言われちゃ全然ラブラブに見えねぇからな」


その言葉に心底嫌そうな顔をしながらも、莉乃は小さな声でつぶやいた。


「賢人……」


ぶすっとした顔に、不機嫌な声。

可愛くねぇけど、割と嫌いじゃねぇなと思ったのは、今日この日からだった──。



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